・2022年はAMX0035がアメリカとカナダで承認されるなど大きなニュースがありました。エダラボンの経口製剤も日本で製造販売承認されました。
・今後AMX0035の日本での早期承認が期待されます。HEALEY ALS Platformで試験中の各種薬剤の動向も気になるところです。来年はさらに良いニュースをお伝えできればと思います。
・皆様におかれましては、どうか体調にお気をつけになり、良い新年をお迎えください
・来年もよろしくお願いいたします
管理人 HIDE
▽ALS患者を対象とした安全性と忍容性に関する第1相試験が行われました。13名の患者がボスチニブ投与されました。300㎎1日1回投与までの用量では用量規定毒性はみられませんでしたが、400㎎投与では3名中3名で用量規定毒性が観察されました
▽100㎎から400㎎投与群での主な有害事象は消化器系92.3%、肝機能系53.8%、発疹23.1%でした。
▽12週間の治療中9名中5名においては治療への良好な反応性を示唆する結果が得られました。治療反応性が滝あ患者は血漿中ニューロフィラメント軽鎖濃度が低いことがわかりました。
▽以上の結果は、ボスチニブ300㎎投与までの安全性を示唆するものであり、今後のさらに大規模な臨床試験の実施が期待されます
(この研究は京都大学のImamuraらにより報告され2022年10月25日付のEClinicalMedicine誌に掲載されました)
▽今回研究者らは脊髄損傷後の運動機能回復における制御性T細胞の役割を調べました
▽脊髄損傷後7日目のモデルマウスにおいて主にミクログリアにおいてpyroptosisと呼ばれる新たな炎症性細胞死が起きていることがわかりました。
▽制御性T細胞をノックアウトすると脊髄損傷後に広範囲のpyroptosisが生じ、運動機能回復の遅延がみられました。
▽一方で制御性T細胞由来エキソソームはミクログリアのpyroptosisを抑制し、機能回復を促進しました。バイオインフォマティクス解析により、miRNA-709は制御性T細胞および制御性T細胞が分泌するエクソソームに多く含まれることがわかりました
▽制御性T細胞はエクソソームのmiR-709を介してNKAPを標的としてミクログリアのpyroptosisを抑制し、運動機能の回復をもたらすことわかりました
▽さらにmiR-709を過剰発現させると、神経炎症を有意に抑制し、運動機能の回復が促進することがわかりました
▽以上の結果は制御性T細胞とミクログリアがmiR-709を介して相互作用しており、miR-709が神経保護的に作用することを示唆するものです
(この研究は中国、The First Affiliated Hospital of Nanjing Medical UniversityのXiongらにより報告され、2022年12月13日付のJ Nanobiotechnology誌に掲載されました)
▽今回ALS患者10名を対象とした第1相試験のExpanded Access Protocolにより長期投与の安全性などが評価されました
▽合計17名の患者に対して最大103週(平均30.1週)IC14が投与されました。その結果、治療下で発現した有害事象はまれであり、軽度でした。一方で治療とは無関係と思われる重篤な有害事象は18件観察されました。
▽IC14注入後全ての参加者で単球のCD14 ROが増加しました。以上の結果は、IC14が安全であることを示唆しており、より大規模なプラセボ対照試験での有効性の検証が期待されます。
(この研究は、アメリカ、Harvard Medical SchoolのGelevskiらにより報告され、2022年12月19日付のMuscke Nerve.誌に掲載されました)
▽今回、研究者らはリジン特異的ヒストン脱メチル化酵素1(LSD1)を標的とした治療的アプローチを検討し、ALS発症におけるLSD1-ヒストンH3K4シグナル経路の役割を明らかにしました
▽SOD1変異ALSモデル動物に対してスペルミジンを投与し、その影響を評価しました。その結果、スペルミジン投与はLSD1活性の増加とLSD1の基質であるH3K4me2濃度の減少がみられました。
▽スペルミジン投与はLSD活性の調整とH3K4me2濃度の回復をもたらし、運動神経細胞数の回復により神経障害を防ぎました。
▽スペルミジン投与は腰髄におけるGFAP陽性アストログリア形成を抑制し、モデルマウスの神経病理の改善効果、運動機能の改善効果がみられました
▽以上の結果は、低分子化合物によるLSD1などの後天的修飾の調整がALSの治療戦略として有望な可能性を示唆するものです
(この研究は韓国、Korea Institute of Science and Technology (KIST)のChoiらにより報告され、2022年12月20日付のJ Biomed Sci.誌に掲載されました)
▽研究者らは野生型の機能を損なわず、変異型の折り畳み異常SOD1タンパク質のみに選択的に作用する抗SOD1ナノボディの開発を目指しました
▽開発された2種類の抗SOD1ナノボディは試験管内において変異SOD1タンパク質を安定化させることがわかりました。さらに細胞モデルにおいて変異SOD1タンパク質と抗SOD1ナノボディを共発現させると、SOD1発現増加と変異SOD1タンパク質の生理的な細胞内局在化が回復しました
▽SOD1変異ALSモデル運動神経細胞においては抗SOD1ナノボディ発現は神経突起の伸長を促進しました。
▽抗SOD1ナノボディは変異SOD1タンパク質に選択的に作用することがわかりました。以上の結果は抗SOD1ナノボディがSOD1変異ALSに対して治療的に有望な可能性を示唆するものです
(この研究は、アメリカ、University of Massachusetts Chan Medical SchoolのKumarらにより報告され、2022年12月16日付のInt J Mol Sci.誌に掲載されました)
▽SOD1変異ALSモデルマウスの中枢神経における活性化アストロサイトではCx30の発現亢進がみられます。今回研究者らはモデルマウスにおけるCx30の役割を検討しました
▽Cx30遺伝子をノックアウトしたモデルマウスでは発症遅延効果がみられました。病態進行期においてはCx30ノックアウトマウスでは脊髄前角細胞が有意に保存されていました。これらマウスの病変部位ではグリア線維性酸性タンパク質/C3陽性の炎症性アストロサイトの減少がみられました
▽以上の結果は、発症初期段階でのCx30発現低下が神経保護作用を有する可能性を示唆するものです
(この研究は九州大学のHashimotoらにより報告され、2022年12月16日付のInt J Mol Sci.誌に掲載されました)
▽微生物代謝物が神経系の機能に影響を与えることが報告されています
▽これまでに研究者らはALS患者やALSモデルマウスにおいて腸内炎症の増加と微生物叢の機能不全を報告しています
▽しかし代謝産物の役割はよくわかっていません。今回研究者らはメタボローム測定などを行い、微生物産物の病態への影響などを調べました
▽その結果、様々なアミノ酸代謝の変化がみられました。アミノ酸代謝の変化はヒスタミン濃度の変化や、系統的なGABAやグルタミン酸などの神経伝達物質の変化をもたらす可能性があります。
▽酪酸を投与することにより、モデルマウスにおいて健全な代謝産物の一部を回復させることができました。酪酸投与はSOD1変異ALSモデルマウスのIBA1濃度を有意に抑制し、血清IL-17とLPSの有意な減少をもたらしました
▽以上の結果は、腸内微生物叢がALSの病態に与える影響の一部を明らかにするものであり、酪酸が治療的に作用する可能性を示唆するものです
(この研究はアメリカ、University of Illinois ChicagoのOgbuらにより報告され、2022年12月12日付のMetabolites誌に掲載されました)
▽研究者らはこれまでにナノキャリアであるPEG-PCL-Tatと薬剤を組み合わせ脳に効率的に薬剤を届けることができることを報告しています。
▽今回、ALSに対してPEG-PCL-Tatを用いた経鼻投与が、中枢神経への薬剤伝達に有用であるかどうかを検証するため、中枢神経への移行性が低いN-アセチル-L-システインとPEG-PCL-Tatを組み合わせてその特性を検証しました
▽N-アセチル-L-システイン/PEG-PCL-TatがSOD1変異ALSモデルマウスに反復経鼻投与されました。その結果、投与されたモデルマウスは生存期間の大幅な延長効果を示しました
▽またN-アセチル-L-システインが脊髄に分布していることが確認されました。
▽以上の結果は、PEG-PCL-Tatが薬剤を経鼻投与により中枢神経に送り届ける有望な手段となりうることを示唆するものです。
(この研究は、日本大学のKuranoらにより報告され、2022年11月24日付のPhamaceutics誌に掲載されました)
▽今回、研究者らはTDP-43変異ALS細胞モデルに対してUC-CMを投与しその影響を検証しました
▽その結果、UC-CM投与細胞モデルでは細胞生存率の上昇がみられ、神経細胞保護作用がみられました。
▽活性酸素などの産生も減少がみられ、UC-CMは酸化的ストレスを軽減することにより細胞保護作用を発揮することを示唆する結果が得られました。
▽この抗酸化作用は、核内Nrf2およびその下流酵素であるHO1発現の有意な増加に伴うためであることがわかりました
▽以上の結果はUC-CMがALSに対して治療的に有望な可能性を示唆するものです
(この研究は中国、Chinese Academy of Medical Sciences & Peking Union Medical CollegeのLanらにより報告され、2022年12月20日付のBrain Res Bull.誌に掲載されました)
▽今回、研究者らはoptineurin変異ALSモデルマウスを作成しました。モデルマウスにおいては神経炎症とIL-1β分泌亢進がみられました。
▽モデルマウスに対して抗IL-1β抗体を注入したところ、神経細胞死とアストログリオーシスの抑制がみられ、筋力と運動能力が改善しました
▽以上の結果はIL-1β阻害がALSに対して治療的に作用する可能性を示唆するものです
(この研究は中国、Central South UniversityのHuらにより報告され、2022年12月27日付のAnimal Model Exp Med.誌に公表されました)
▽カナダ保健省はQuaAlis社のALS治療薬候補であるQRL-201の第1相試験の開始を承認しました
▽この試験では、64名のALS患者に対して8種類の異なる用量のQRL-201を用いてプラセボ対照で安全性などが評価される予定です。QRL-201はくも膜下腔に投与されます
▽QRL-201はアンチセンスオリゴヌクレオチド製剤であり、stathmin-2(STMN2)タンパク質の産生を増加させることにより治療的効果が期待されています。
▽ALSではstathmin-2が欠乏しており、TDP-43機能異常をもたらすと考えられています。TDP-43はSTMN2産生を含む遺伝子発現を制御しています。
▽基礎研究ではstathmin-2の濃度を回復させることにより、TDP-43凝集体形成による神経細胞損傷を阻害できたことが報告されています。
▽臨床試験の進展が期待されます
引用元
https://alsnewstoday.com/news/trial-qrl-201-aiming-slow-als-progression-opening-canada/
▽BrainEver社と3P Biopharmaceuticals社がALS治療薬候補であるEngrailed 1(EN1)の開発に向けて提携することが明らかになりました
▽EN1はhomeoproteinsと呼ばれるタンパク質に属しており、遺伝子活性を制御し、胎生期と産後において重要な役割を果たしています。特に小脳の発達を制御する役割を有しています。
▽成人では神経細胞を維持する機能を果たしています。homeoproteinは細胞内に侵入しうるため、特別な運搬機構を必要としません。ヒトEN1の遺伝子組み換え製剤であるBREN-2は髄液中投与を前提としたALS治療薬候補となります。
▽動物モデルでの実験ではEN1は筋機能の回復や神経細胞死抑制効果などが観察されています。
▽両社の提携により臨床試験への進展が期待されます
引用元
https://alsnewstoday.com/news/brainever-3p-partner-move-potential-als-therapy-trials/
▽Eikonoklastes Therapeutics社とForge Biologics社はALS治療薬候補である遺伝子治療薬ET-101の臨床試験実施に向けて提携することを公表しました
▽ET-101はSynCav1とも呼ばれる遺伝子治療薬であり、神経細胞にCaveolin-1というタンパク質を発現させるための遺伝子を含むウイルスベクターからなる遺伝子治療薬です。
▽Caveolin-1は神経細胞のシグナル伝達を補助し、神経損傷から保護する作用を発揮することが期待されています。アデノ随伴ウイルスベクターを生成する技術をForge社が提供することとなります。
▽今後早期の臨床試験への進展が期待されます。
引用元
https://alsnewstoday.com/news/new-deal-move-gene-therapy-et-101-closer-clinical-testing/
▽Denali Therapeutics社のALS治療薬候補である経口投与可能な小分子であるDNL343の第1b相試験の中間解析結果により1日1回1か月間投与は忍容性に問題がないことがわかりました
▽DNL343は最近HEALEY ALS Platformに組み入れられた薬剤であり、今後HEALEY ALS Platformにより第2/3相試験が開始予定となっています。
▽ALSの病態には統合ストレス応答が関与していると考えられています。統合ストレス応答が発動すると神経細胞においてelF2Bタンパク質の機能が停止し、新たなタンパク質の合成が停止し、ストレス顆粒が形成されます。
▽通常の状態ではストレスがなくなるとストレス顆粒は分解しますが、ALSでは分解されないまま保持され、有害なTDP-43タンパク質の蓄積に寄与すると考えられています。
▽DNL343はelF2Bの機能を活性化させ、タンパク質生成を回復し、TDP-43凝集体形成を阻害することで治療的効果が期待されています
▽第1b相試験では29名のALS患者が対象となりプラセボ対照で1か月間安全性などが評価されました。その結果忍容性は良好であり、DNL343は末梢血における統合ストレス応答のマーカーであるATF4タンパク質濃度を減少させることがわかりました。
▽今後のHEALEY ALS Platformによる臨床試験の進展が期待されます。
引用元
https://alsnewstoday.com/news/dnl343-well-tolerated-interim-als-clinical-trial-data/
▽癌治療薬として承認されている低用量aldesleukinは、第2相試験においてALSの進行の緩やかな一群において病態進行遅延効果と有意な生存期間延長効果を有することを示唆する結果が得られたことが第33回国際ALS/MNDシンポジウムにて好評されました
▽この第2相試験では発症2年以内のALS患者220名がエントリーしプラセボ対照で行われました。
▽AldesleukinはヒトIL-2であり、制御性T細胞の生存と機能のために必要不可欠なものです。ALSにおいては循環血中の制御性T細胞数が多いと比較的良好な予後と関連することが報告されています。そのため制御性T細胞数を増やすことが病態改善効果をもたらすことが期待されています
▽すでに行われた第2相試験では36名のALS患者に対して低用量aldesleukinが投与され、3か月間の治療後に制御性T細胞数と活性がプラセボと比較して有意に増加したことが報告されています
▽この結果を受けてさらに大規模な臨床試験が行わ、低用量aldesleukin皮下注(1か月に1回5日間投与)とプラセボ投与とが18か月間で比較されました。初期の解析では、aldesleukinはプラセボと比較して生存割合を19%増加させることが報告されましたが、この数字は統計的有意差には到達しませんでした。
▽しかし、試験開始時の髄液中リン酸化ニューロフィラメント重鎖(pNFH)の量を考慮した場合、生存期間の有意な延長効果を認め死亡リスクを73%減少させることが判明しました。
▽髄液中pNFH濃度が高い場合にはaldesleukinはプラセボと比較して有意な生存期間延長効果はみられませんでしたが、濃度が低い場合には進行速度も緩やかであり、aldesleukinの死亡リスク減少効果が確認されました。
▽今後のさらなる臨床試験での検証が期待されます
引用元
https://alsnewstoday.com/news/als-disease-progression-slowed-with-low-dose-aldesleukin-trial/