▽マウスのくも膜下腔に孤発性ALS患者由来脊髄液を投与すると、運動神経細胞の喪失、細胞質内のTDP-43の異常局在化、反応性アストログリオーシス、ミクログリア活性化などのALS類似の病態を引き起こしました。
▽運動機能障害は家族性ALS患者由来の髄液、つまりSOD1変異患者由来、C9orf72遺伝子変異患者由来、TDP-43変異患者由来の髄液投与では引き起こされませんでしたが、C9orf72遺伝子変異患者由来、TDP-43変異患者由来の髄液投与により中等度の組織学的変化が観察されました。
▽研究者らは孤発性ALS患者の髄液のろ過試験やプロテオーム解析を行うことにより、病的変化を誘発する推定因子としてアポリポタンパク質B-100を同定しました。
▽アポリポタンパク質B-100は単独でin vivoで病的な変化を引き起こし、in vitroではヒトiPS細胞由来運動神経細胞死を誘発しました。
▽また孤発性ALS患者由来の髄液からB-100を除去すると、マウスにおける運動機能障害などの病的変化を抑制することができました
▽以上の結果は、孤発性ALSにおいてアポリポタンパク質B-100が治療ターゲットとなりうる可能性を示唆しており、新たな治療戦略として髄液交換療法が有望な可能性を示唆するものです。
(この研究はアメリカ、Tisch Multiple Sclerosis Research Center of New YorkのWongらにより報告され、2022年8月22日付のBrain Commun.誌に掲載されました)
▽自食作用のシグナル伝達はunc-51 like autophagy activating kinase 1 (ULK1)複合体により開始されます。
▽これまでに研究者らは、BL-918が特異的なULK1活性化剤であり、パーキンソン病に対してin vitroおよびin vivoにて細胞保護作用を発揮することを報告しています
▽今回、研究者らは、細胞モデルおよびALSモデルマウスにおいてBL-918の治療的効果を検討しました。
▽SOD1変異NSC34細胞において、BL-918投与は、用量依存性にULK1依存性の自食作用を誘導し、SOD1凝集体を減少させました
▽SOD1変異ALSモデルマウスにおいては、用量依存性に生存期間の延長効果と運動機能の改善効果、中枢神経におけるSOD1凝集体の除去作用が観察されました。
▽以上の結果はBL-918がALSにおいても治療的に有望な可能性を示唆するものです
(この研究は、中国、Sichuan UniversityのLiuらにより報告され2022年8月30日付のActa Pharmacol Sin誌に掲載されました)
・プラセボ対照で50名の患者に対して6か月間投与され、安全性、有効性などが評価されます
・こちらの記事も参照ください
https://alexkazu.blog.fc2.com/blog-entry-2194.html
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT05508074
▽欧州医薬品庁はAB science社のALS治療薬候補であるmasitinibについて条件付き承認の可能性を審査することに同意しました
▽条件付き承認は迅速な承認が求められ、その利益が潜在的な危険性を上回ると判断された医薬品について与えられる承認であり、承認後に有効性に関する追加試験が求められます。
▽masitinibは商品名alsitekと命名され、経口投与可能であり、チロシンリン酸化酵素を抑制し、神経炎症や神経変性に関与しているいくつかの免疫系細胞の活性を減弱させることにより治療的効果を発揮することが期待されています。
▽これまで行われてきた試験のデータによると、リルゾールと併用した場合、ALS患者の病態進行を遅延させ生存期間を延長することを示唆する結果が得られています。
▽審査は既に開始されており、約7カ月以内に最終的な結論がでるとみられています
▽この条件付き承認の申請はAB Science社にとって2回目であり、2016年に第2/3相試験の結果をもって申請したものの、委員会の決定により却下されたものです。
▽今回の再申請では試験の最終データの新たな解析結果も含めて提出されるものです。同様の承認申請はカナダでも行われており、今年中に結論がでることが期待されています
▽追加解析では、欠損したデータを考慮した解析を行いリルゾールとの併用により、リルゾール単独の場合と比較して疾患の有意な進行遅延効果が示され、また高用量投与群では標準治療と比較して生存期間が2年長く、死亡リスクが44%低下することが示されました
▽現在副作用リスクのため一時中断されていた大規模な第3相試験も再開され進行中です
引用元
https://alsnewstoday.com/news/masitinib-again-under-review-eu-potential-als-treatment/
▽SynCav1とよばれる遺伝子治療によりALSモデルマウスに対して治療的な効果があることが報告されました。
▽SynCav1はCaveolin-1とよばれる遺伝子をエンコードする遺伝子のコピーをアデノ随伴ウイルスベクターにより神経細胞に注入する治療法です。Caveolin-1は神経細胞の健康を維持するために重要な細胞膜タンパク質です。
▽これまでに動物モデルにおいてCaveolin-1の産生を増加させると運動機能が維持されることが報告されています。
▽今回、研究者らはSOD1変異ALSモデルマウスにおいて、SynCav1をくも膜下腔内投与しました。その結果、生存期間が10%程度延長し、神経筋接合部機能も保持される傾向がみられました。
▽研究者らはさらに基礎研究を継続し、臨床試験の実施につなげたいとしています
引用元
https://alsnewstoday.com/news/als-gene-therapy-syncav1-extends-survival-mouse-model/
▽BrainStorm社は同社のALS治療薬候補であるNurOwnについて承認申請をFDAに提出予定です
▽これはこれまでの臨床試験結果の解析に修正が必要であることが判明し、訂正したデータを公表したことに伴うものです
▽訂正後のデータでは、NurOwnが複数の患者サブグループの副次評価項目において有意な効果を示したことがわかりました
▽NurOwn細胞は自家骨髄幹細胞移植であり、患者由来の間葉系幹細胞を神経栄養因子を分泌するように分化誘導し、患者に投与するものです
▽既に行われた第3相試験では患者はNurOwn細胞を隔月で3回、くも膜下腔投与され、プラセボ群と比較されました。28週間で評価されたALSFRS-Rの変化率は全体としては有意差がないものでした。
▽追加解析において試験開始時のALSFRS-Rの得点が高く、あまり病勢が進行していない患者群においては有意な進行遅延効果があることがわかりました
▽BrainStorm社はこれらの結果について現在FDAと協議を行い、どのような患者群について承認を求めるかを模索しているとのことです
引用元
https://alsnewstoday.com/news/brainstorm-plans-filing-nurown-approval-us-corrected-data/
▽TDP-43蛋白症の病態はstathmin-2(STMN2)タンパク質の機能を抑制することによる病態を伴うことがわかりました。
▽STMN2タンパク質の機能が低下すると運動神経細胞の喪失が生じ、一方でSTMN2の濃度を上昇させることが治療的に作用する可能性があります
▽現在STMN2の産生を増加させるQRL-201という実験的な薬剤が臨床試験開始予定となっています。
▽STMN2は神経細胞の成長に不可欠であり、TDP-43タンパク質はRNAのスプライシングの制御などの機能に関与しています。
▽TDP-43が異常をきたすと神経細胞の成長や修復に不可欠なSTMN2の産生が減少することが示唆されています。
▽運動神経細胞に限定してSTMN2をノックアウトしたモデルマウスでは運動機能障害や神経筋接合部の機能障害がみられました。
▽STMN2の産生が低下するモデルマウスではALS類似の病態をしめし、STMN2の産生量を回復させたところ病態が回復しましたが加齢とともに徐々に筋力低下などは進行しました。
▽現在STMN2の濃度を回復させる治療法が開発途中です
引用元
https://alsnewstoday.com/news/als-progression-linked-stmn2-protein-loss-study/
▽ALSの経口治療薬アルブリオーザ(AMX0035)がカナダで発売開始となりました。
▽カナダでの条件付き承認の決定から1カ月半での販売開始となります。完全な承認のためには現在進行中の第3相試験の結果およびその他の進行中の臨床試験の結果次第ということになります
▽第3相試験は現在も欧州で患者募集中となっています。またアメリカでも承認申請が行われており、アメリカの承認の是非の判断は9月29日までに行われる予定です。
▽アルブリオーザはタウロウルソデオキシコール酸およびフェニル酪酸ナトリウムの合剤です。この薬は、1日2回、経口あるいは経管栄養で投与されます。
引用元
https://alsnewstoday.com/news/amx0035-albrioza-oral-als-therapy-available-canada/
▽運送神経細胞とアストロサイトにおけるEphA4受容体とそのリガンドであるエフリンとの相互作用はよくわかっていません。エフリンと結合していない受容体は、結合した受容体と比較してアポトーシス活性を有すると考えられています
▽これまでに研究者らはALS患者由来アストロサイトが試験管内で運動神経細胞死をもたらすことを報告しています。
▽今回、研究者らは第一世代のEphA4アゴニストである123C4が、ALS患者由来のアストロサイトと共培養することで、神経細胞を効果的に保護できることを見出しました
▽新世代の強力なEphA4アゴニストである150D4、150E8、150E7は、より低用量で効果的な神経保護作用を示しました
▽以上の結果はEphA4作動薬が治療薬候補として有望である可能性を示唆するものです
(この研究は、アメリカ、Nationwide Children's HospitalのDennysらにより報告され、2022年8月5日付のiScience誌に掲載されました)
▽C4およびC5は用量依存性に変異SOD1蛋白質のアミロイド凝集体形成を抑制することがわかりました。しかしながら折り畳み異常SOD1蛋白質の蓄積は抑制することができませんでした。
▽SOD1変異ALSモデルマウスに対してC4ないしC5を連日投与しても、SOD1凝集体蓄積や神経炎症を抑制することはできず、治療的効果はみられませんでした
▽薬物動態を調べたところ、高濃度のC4ないしC5が中枢神経に到達するものの、濃度が高い時間が短時間であることがわかり、薬物動態に問題がある可能性が示唆されました。
▽今後これらのケミカルシャペロンの薬物動態を改善し、より効率的に使用することが必要であることがわかりました
(この研究はイスラエル、Ben-Gurion University of the NegevのAlfahelらにより報告され、2022年8月20日付のInt J Mol Sci誌に掲載されました)
▽C9orf72遺伝子変異の6塩基繰り返し配列により生じるジペプチド繰り返し配列タンパク質のうち、poly-PRが最も毒性が高いことがわかっています
▽今回、研究者らはヒト患者iPS細胞由来神経細胞を用いて、CRISPR/Cas9ノックアウトスクリーニングを行い疾患修飾因子を探索しました。
▽その結果、NIMA関連キナーゼ6(NEK6)のノックダウンにより、poly-PRによる神経細胞毒性が抑制されることがわかりました。NEK6のノックダウンはゼブラフィッシュモデルにおけるpoly-PR毒性を緩和しました
▽またC9orf72遺伝子変異ALS患者においうてはNEK6が発現亢進していることがわかりました。C9orf72遺伝子変異患者iPS細胞由来神経細胞においてNEK6発現抑制および活性阻害は、p53関連DNA損傷を回復させることにより、軸索輸送障害を回復させることがわかりました。
▽以上の結果は、NEK6がC9orf72遺伝子変異ALSにおける新規治療ターゲットになりうる可能性を示唆するものです
(この研究は、ベルギー、KU LeuvenのGuoらにより報告され、2022年8月22日付のAlzheimers Dement誌に掲載されました)
▽ALS治療薬候補として開発中であり、第1相試験が健常者68名を対象に行われました。
▽その結果有害事象は全て軽度から中等度で重篤な有害事象は報告されませんでした
▽EPI-589の良好な忍容性が確認されました。現在第2相試験が実施されています
(この研究はSumitomo PharmaのNodaらにより報告され、2022年8月21日付のClin Pharmacol Drug Dev.誌に掲載されました)
▽ALSモデルゼブラフィッシュ、モデルマウス、細胞モデルにおいてPGK1活性を増加させると、運動機能障害、生存率、細胞死などが改善しました。
▽terazosinが解糖系の機能亢進やストレス顆粒形成を補助するなど、複数の経路で運動神経細胞を保護することを示唆する結果が得られました。
▽以上の結果はterazosinが様々なタイプのALSに対して治療的に有望な可能性を示唆するものです
(この研究はイギリス、 University of EdinburghのChaytowらにより報告され、2022年8月2日付のEBioMedicine誌に掲載されました)
▽今回、研究者らは有機リン化合物を用いて神経筋接合部の興奮毒性モデルを作成し、カルシウム動態やマグネシウムの影響を調べました
▽その結果、神経刺激に応答してカルシウムイオンの爆発的な増加(カルシウム爆弾)と運動終板の長時間の収縮が誘発されました。このようなカルシウムの爆発的増加は、マグネシウム濃度を増加させると緩和しました
▽殺虫剤成分中に神経筋標本を曝露すると神経筋接合部の変性が誘発されましたが、マグネシウム濃度の増加により変性が緩和されました
▽細胞外マグネシウム濃度の増加はシナプス後膜でのカルシウムの増加と神経筋接合部変性を共に緩和しました。
▽以上の結果は、マグネシウム濃度の調整が興奮毒性などの病態の治療において有効な介入となる可能性を示唆するものです
(この研究はイギリス、 The University of EdinburghのDissanayakeらにより報告され、2022年7月26日付のFront Mol Neurosci誌に掲載されました)
▽今回研究者らは細胞モデルにおいてLUBACを介したユビキチン鎖形成のTDP-43蛋白症への影響を調べました
▽細胞モデルにおいて変異TDP-43業種体は複数のユビキチン鎖と同時局在していることがわかりました。またLUBAC阻害剤であるHOIPIN-8で処理すると、変異TDP-43蛋白質の細胞質内凝集が阻害されることがわかりました
▽以上の結果は、TDP-43のMet1結合ユビキチン鎖の形成が凝集体形成と炎症反応に影響を与えTDP-43蛋白症の病態に関与していることを示唆するものです。
▽また、LUBAC阻害が病態改善に寄与しうる可能性を示唆しており、今後の治療法開発の手掛かりとなる可能性があります
(この研究は、大阪市立大学のZhangらにより報告され2022年8月3日付のCells誌に掲載されました)