▽変異SOD1遺伝子を導入したマウスNSC-34運動神経細胞より放出された変異SOD1蛋白質は、正常NSC-34細胞やマウスミクログリアに伝播し、それぞれ小胞体ストレスおよびTNF-α放出を誘導しました。
▽NSC-34細胞においてはP2X7受容体が発現していることが免疫染色で明らかになりました。細胞外ATPはNSC-34細胞へのカチオン色素取り込みを誘導し、これはP2X7受容体阻害剤のAZ10606120により阻害されました
▽さらにATPは変異SOD1遺伝子を導入したNSC-34細胞からのSOD1蛋白質の急速な放出を誘導しました。この作用もAZ10606120により阻害されました
▽以上の結果は、ALSにおけるSOD1のプリオン様伝播におけるP2XZ7受容体の役割を明らかにするものであり、P2X7受容体阻害剤のALS治療薬としての可能性を示唆するものである。
(この研究は、オーストラリア、Illawarra Health and Medical Research InstituteのBartlettらにより報告され、2022年4月28日付のPurinergic Signal.誌に掲載されました)
▽今回、研究者らはアストロサイトにおける変異FUS蛋白質の発現が、神経細胞障害を引き起こすかどうかを動物モデルで検証しました。
▽その結果、変異FUS遺伝子を導入したアストロサイトを脊髄内に注入したところ、TNFαの発現亢進を通じて運動神経細胞死をもたらすことがわかりました。TNFαをノックアウトしたモデル動物では運動神経細胞死は生じませんでした
▽以上の結果はFUS変異ALSにおけるアストロサイトの役割の重要性を示唆するものであり、TNFα阻害作用を有する薬剤が治療的に有望な可能性を示唆するものです
(この研究は、アメリカ、Thomas Jefferson UniversityのJersenらにより報告され、2022年4月26日付のGlia誌に掲載されました)
▽その結果、温腎健脾投与モデルマウスでは、対照群と比較して、体重増加が速く、筋力も良好であり、活発な行動を示しました。また正常ミトコンドリア数も対照群よりも有意に多く、異常ミトコンドリア数およびアートファゴソーム数は対照群に比較して大幅に少ない結果でした
▽以上の結果は、温腎健脾はALSモデルマウスにおいて神経細胞の変性を抑制し、運動機能の低下を抑制しうることを示唆するものであり、今後の臨床試験での検証が期待されます
(この研究は、中国、Shuguang Hospital Affiliated to Shanghai University
of Traditional Chinese MedicineのGongらにより報告され、2022年4月8日付のFront Aging Neurosci誌に掲載されました)
▽今回、研究者らは視床下部におけるSIRT1の役割を調べました。その結果、SOD1変異ALSモデルマウスにおいて症状発現後に視床下部においてSIRT1が過剰発現していることがわかりました
▽またSIRT1はエネルギー平衡や睡眠・覚醒サイクルに関与する分子であるprepro-orexinと相互作用をしていることがわかりました。以上の結果はSIRT1がALSの睡眠と代謝の変化に関与している可能性があることを示唆しており、SIRT1をターゲットにすることが治療的に有用な可能性があります
(この研究は中国、Peking UniversityのZhangらにより報告され、2022年4月11日付のBrain Sci.誌に掲載されました)
▽ALSの病態において神経炎症が重要な役割を果たしていると考えられています。ミクログリアには細胞傷害性と神経保護性の2つの表現型があり、神経保護性のミクログリアを誘導することは、ALSの治療戦略として有望な可能性があります
▽今回研究者らは、骨髄から神経保護性のミクログリア様細胞を誘導し、モデルマウスでの治療的効果を検証しました。マウスから骨髄由来単核細胞を分離し、GM-CSFおよびIL-4によるサイトカイン処理を行い培養されました。増殖能とミクログリアへの分化能が高い細胞が評価され、in vitroでの神経保護作用も評価されました。
▽このように誘導された細胞は、骨髄由来誘導性ミクログリア様細胞(BM-iMG)と命名され、モデルマウスの脊髄に移植されました
▽その結果、移植後のALSモデルマウスでは、運動機能の改善、生存期間の延長、神経細胞死の抑制、ミクログリオーシスの抑制効果などがみられました。
▽以上の結果はBM-iMGがALSにおいて治療的に有効な可能性を示唆するものです
(この研究は滋賀大学のKobayashiらにより報告され、2022年4月4日付のCytotherapy誌に掲載されました)
▽最近の研究では、ALSの発症にc-JNK経路およびp38MAPK経路の過剰活性化が関与していることが報告されています。apigeninは抗炎症作用、抗酸化作用、c-JNK/p38MAPK阻害作用を有するフラボノイドです
▽メチル水銀投与モデルラットに対してapigeninを投与したところ、学習機能、協調運動、握力などの改善がみられ、これらの作用は主としてc-JNKおよびp38MAPK経路の抑制と、アポトーシスマーカーの抑制を伴うことがわかりました。
▽apigeninの神経保護作用はALSの治療法開発の手掛かりとなる可能性があります
(この研究は、インド、ISF College of PharmacyのYadavらにより報告され、2022年のHum Exp Toxicol.誌に掲載されました)
▽さらにMAMsに存在するいくつかの蛋白質は、活性酸素の生成に関与し、この活性酸素は細胞内シグナル伝達の媒介作用として機能する場合もあれば、有害分子として作用する場合もある
▽近年、MAMsの構造的、機能的変化が神経変性疾患の病態に関与していることが報告されています。ALSなどの神経変性疾患では、高濃度の活性酸素の蓄積による酸化還元状態の乱れなどが影響していると考えられています。またミトコンドリアのカルシウムイオンの過剰負荷はエネルギー不足や有害な活性酸素の増加につながり、アポトーシス経路の活性化につながります。
▽シグマ1受容体は、小胞体のシャペロンであり、MAMsの高濃度に存在していており、小胞体からミトコンドリアへのカルシウムイオンの流入、酸化的ストレス応答、小胞体ストレス応答などの制御に関与していると言われています。
▽そのためシグマ1受容体の機能を制御することにより、ALSなどの病態に治療的な効果を与えることができる可能性があります
(この研究は、ポルトガル、Universidade de Coimbra CentroのResendeらにより報告され、2022年4月4日付のAntioxid Redox Signal.誌に掲載されました)
▽NU-9はシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物の類似物質であり、ALSに対する治療的効果が期待されています
▽細胞モデルにNU-9を投与したところ、リルゾールやエダラボンよりも効果的に細胞モデルの生存期間を延長しました
▽さらにNU-9をリルゾールやエダラボンと併用すると治療効果はさらに増強し、軸索伸長や樹状突起の形成が改善しました。以上の結果はNU-9とリルゾールないしエダラボンの併用がALSに対して治療的に有望な可能性を示唆するものです
(この研究は、アメリカ、Northwestern UniversityのGencらにより報告され2022年3月30日付のScientific Reports誌に掲載されました)
▽C9orf72遺伝子変異ALSを対象としたWVE-004の臨床試験(FOCUS-9)の初期データによると、有害蛋白質の減少を示唆する結果が得られたとのことです。
▽この臨床試験は現在ヨーロッパ、カナダ、オーストラリアで実施されています。C9orf72遺伝子変異ALSでは、C9orf72遺伝子のイントロン領域に存在する6塩基繰り返し配列が過剰伸長し、その結果異常mRNAとジペプチド繰り返し蛋白質が産生され、細胞毒性をもたらします。
▽WVE-004は異常mRNAを阻害することにより、治療的効果を期待する薬剤です
▽WVE-004は髄腔内投与され、これまでに合計9名の患者に実薬が単回投与されました。その結果、実薬を投与された全ての患者で、髄液中のジペプチド繰り返し蛋白質であるpoly-GP濃度が低下していることがわかりました。
▽この結果はWVE-004が中枢神経で治療的に作用していることを示唆するものであり、中等量を投与された患者では、投与85日目に髄液中poly-GP濃度がプラセボと比較して34%有意に低下していることがわかりました。
▽今後反復投与によりさらに治療効果が高まることが期待されており、さらに臨床試験の進展が期待されます
引用元
https://alsnewstoday.com/news-posts/2022/04/15/wve-004-reduces-toxic-proteins-early-focus-c9-study-data/
▽アストロサイトに発現するコネキシン43(Cx43)蛋白質を含むチャネルを遮断すると、ALSモデルマウスの病態が改善することが報告されました
▽アストロサイトが隣接する細胞とコミュニケーションをとる方法の1つにへ三チャネルを介した方法があります。これによりシグナル伝達物質を他の細胞に直接送り込むことができます。Cx43はこのチャネルの重要な構成要素であり、ALSモデルマウスの脊髄で上昇することがわかっています
▽研究者らはアストロサイトからCx43を除去するとSOD1変異ALSモデルマウスの生存期間が顕著に延長することを報告しました。発症遅延効果はありませんでしたが、進行期における筋力低下を改善し、運動神経細胞の保持効果がみられました。
▽ALS患者の髄液や脊髄などにおいてもCx43濃度が上昇していることがわかりました。また病気の進行が速いほどより高濃度に存在することがわかりました
▽患者由来幹細胞よりアストロサイトを培養したところCx43発現量が多いことがわかりました。このアストロサイトを運動神経細胞と一緒に培養すると運動神経細胞死を引き起こすことがわかりました。一方、この培養液にCx43含有チャネル阻害剤であるtonabersatを投与すると、神経細胞の保護効果が観察されました
▽SOD1変異ALSモデルマウスに対してtonabersatを投与したところ、反応性グリオーシスが減少し、病態進行の遅延効果がみられました
▽今後Cx43阻害剤がALS治療薬候補となることが期待されます
引用元
https://alsnewstoday.com/news-posts/2022/04/14/blocking-astrocyte-protein-cx43-slow-als-disease-progression/
▽多くの遺伝子編集技術ではDNAが標的となっていましたが、遺伝子情報が永続的に改変されるため、予期せぬ危険が生じるリスクがありました。今回RNAを標的にした遺伝子編集技術により、異常mRNA濃度を低下させることができるかどうかが検証されました
▽研究者らは変異SOD1遺伝子由来のmRNAを標的とするCas13というCas酵素(RfxCas13d)を用い、SOD1 mRNAを標的とするガイドRNAと共に、CRISPR-Cas13システムを、アデノ随伴ウイルスベクターによりアストロサイトに注入しました。
▽その結果、投与したモデルマウスでは、発病後の生存期間が33%延長し、病態進行の緩和効果が観察されました。また運動機能も保持され、筋萎縮についても遅延効果がみられました。
▽今後ヒトに対する安全性などを評価することが課題となっています。
引用元
https://alsnewstoday.com/news-posts/2022/04/06/rna-targeting-crispr-system-shows-promise-preclinical-models/
▽Alpha Cognition社のALS治療薬候補であるALPHA-0602が前臨床試験でprogranulin濃度を上昇させ、TDP-43蛋白質凝集体の毒性を減少させることに成功しました。
▽progranulinは中枢神経において抗炎症作用や神経細胞の生存に関与する蛋白質です。ALSで観察されるTDP-43やFUS蛋白質などの凝集体除去にも関与していることが報告されています。
▽progranulin濃度を上昇させることにより、神経細胞内の有害蛋白質の凝集体を除去することができる可能性があることが報告されています。
▽ALPHA-0602は、ウイルスベクターによりprogranulin遺伝子を注入し、細胞内のprogranulin濃度を上昇させることにより治療的効果を期待する薬剤です
▽今回細胞モデルにより、ALPHA-0602がprogranulin濃度を上昇させ、TDP-43とFUS蛋白質濃度を減少させ、細胞死を防ぐことが観察されました。
▽またTDP-43蛋白症モデルマウスでは、ALPHA-0602投与により髄液中progranulin濃度の大幅な上昇と、体重増加が観察されました。
▽今後さらに動物モデルにおいて治療的効果を検証し、臨床試験に進みたいとしています
引用元
https://alsnewstoday.com/news-posts/2022/04/12/progranulin-gene-therapy-alpha-0602-shows-promise-preclinical-studies/
・PTC857の第2相試験が開始予定です。PTC857は低分子化合物であり、炎症と酸化的ストレスを制御する15-lipoxygenaseとよばれる酵素をターゲットにしています。
・試験はプラセボ対照で行われ、24週間で有効性や安全性などが評価される予定です
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT05349721
・AL001はヒトモノクローナル抗体であり、その分解に関わる受容体を阻害することによりprogranulin濃度を上昇させ、神経保護作用を発揮することが期待されています
・試験は45名を対象に32週間で行われ、安全性や薬物動態などが評価される予定です
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT05053035
・CNS10-NPC-GDNFの第1相試験が開始予定です
・神経前駆細胞移植であり、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)と呼ばれる神経栄養因子を分泌するアストロサイトに分化するように誘導されたものです。
・16名を対象として、CNS10-NPC-GDNFは対象者の運動野に移植され、安全性が評価される予定です
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT05306457