▽AB Science社はノルウェー政府よりALS患者に対するmasitinibの安全性と有効性に関する第3相試験の投薬再開の許可を得ました。
▽AB Science社はmasitinibの虚血性心疾患のリスクの可能性から6月に自主的に臨床試験を停止していました。
▽AB Science社のプレスリリースによれば、9月中に各国で臨床試験への登録を再開できる予定とのことです。この第3相試験では18歳から81歳までのALS患者約495名を対象に48週間、masitinibを2種類の用量(4.5または6mg/kg/day)で経口投与する群と、プラセボを投与する群に無作為に割り付けられます。
▽masitinibは、チロシンキナーゼの活性を阻害することで、神経炎症を改善することにより治療的効果の発揮が期待されています。すでに行われた臨床試験の事後解析により早期投与により生存期間の延長効果を示唆する結果が得られています。
引用元
https://alsnewstoday.com/news-posts/2021/08/31/phase-3-trial-masitinib-ab-science-resumes-enrollment-norway/
▽Seelos Therapeutics社のALS治療薬候補ではSLS-005(トレハロース)の第2b/3相試験(HEALEY ALSプラットフォーム)においてまもなく最初の患者に投薬が開始予定であることが公表されました
▽この試験はALSの臨床試験を効率的に行うためのプラットフォームであるHEALEY ALSプラットフォームの一部であり、5つの治療薬候補の1つです。
▽SLS-005は、自食作用を促進する天然の糖分子であるトレハロースを含んでおり、静注投与されます。基礎実験では、血液脳関門を透過し、ALSの病態進行遅延効果、運動神経細胞の保持効果などが示されています。
▽HEALEY ALSプラットフォームでは2020年8月に最初の3つのALS治療薬候補いついて患者への投薬が開始されています。SLS-005への投薬開始により全ての治療薬候補において、投薬が開始されたこととなります。
引用元
https://alsnewstoday.com/news-posts/2021/08/12/seelos-sls-005-dosing-healey-als-platform-trial-arm-expected-start/
▽FDAはApic Bio社のALS治療薬候補であるAPB-102に対してfast track指定を行いました。APB-102はSOD1変異家族性ALSに対する治療薬候補です。
▽APB-102はアデノ随伴ウイルスベクター製剤であり、髄腔内に注入されます。APB-102はマイクロRNAであり、変異SOD1 mRNAを阻害し、異常SOD1蛋白質の発現を阻害します。
▽ヒトに対する臨床試験で脳と脊髄のSOD1濃度を減少させることが示されています
▽安全性、忍容性、有効性を評価する第1/2相臨床試験の実施がFDAから承認されており、2022年より臨床試験を開始予定となっています。
引用元
https://alsnewstoday.com/news-posts/2021/08/02/apb-102-gene-therapy-sod1-als-wins-fda-fast-track/
・26名のALS患者を対象に1週間のwash out期間をはさんで2週間毎投与されるクロスオーバー試験で行われます
・有痛性筋痙攣の改善度などが評価される予定です
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04998305
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04788745
▽今回、研究者らは、運動神経細胞モデル(NSC34)および筋肉細胞モデル(C2C12)における変異SOD1蛋白質に対するフェンレチニドの効果を検証し、SOD1変異ALSモデルマウスに対して新たなナノミセル化フェンレチニド製剤(NanoMFen)を投与し病態への影響を調べました。
▽その結果、フェンレチニドはNSC34運動神経細胞および筋細胞における変異SOD1蛋白質の毒性を有意に緩和しました。
▽SOD1変異ALSモデルマウスにナノミセル化フェンレチニドを投与すると、発症後であっても病状の進行が緩和し、生存期間が増加しました。
▽以上の結果は、フェンレチニドおよびナノミセル化フェンレチニドがALSに対して治療的に有用な可能性を示唆するものです
(この研究はイタリア、 University of BolognaのOrientiらにより報告され、2021年8月5日付のNeuroscience誌に掲載されました)
▽今回、研究者らはC9orf72遺伝子変異ALS患者由来の神経細胞とショウジョウバエモデルにおけるゲノム全体のRNA発現の変化を調べました。また、遺伝子治療法を利用して、病的なC9orf72反復配列転写産物のSRSF1依存性核輸出を特異的に阻害することによる神経保護作用も調べました。
▽その結果、C9orf72-ALS患者由来の神経細胞において、2257の遺伝子発現の病的変化のうち362の転写産物を操作することに加えて、繰り返し配列由来転写産物の核輸出を抑制することが、神経保護に十分であることがわかりました。
▽特に、90種類の病的変化のある転写産物の発現は、神経保護によって完全に元に戻り、ヒトC9orf72遺伝子変異ALSの病的変化の遺伝子発現の特徴が明らかになりました。
▽同時にショウジョウバエモデルにおいてALSで発現亢進している電位依存性カリウムチャネル(ヒトKCNN1-3)の相同体を阻害すると、運動神経細胞の変性や運動障害が緩和することが明らかになりました。
▽SRSF1を部分的に阻害すると、疾患で変化した転写産物のごく一部にしか発現変化が起こりませんでした。このことは、治療的介入においてすべてのRNA発現の変化の正常化が必要なわけではないことを示唆しており、この遺伝子治療アプローチは安全であることを示唆するものです。
▽この研究により、疾患時と神経保護時の両方で変化する主要なRNA発現の変化が同定され、新たな治療標的やバイオマーカーとなる可能性があります。
(この研究は、イギリス、University of SheffieldのCastelliらにより報告され、2021年8月10日付Mol Neurodegener誌に掲載されました)
▽今回、研究者らは、コーヒー・紅茶、お茶の摂取がALSの進行速度に与える影響を横断的観察研究で検討しました
▽女性96名、男性145名の計241名のALS患者が対象となりました。平均発症年齢は59.9歳で、El Escorial基準による確定診断は74名、probableが77名、possibleが55名、suspectedが35名であり、発症部位は四肢型が187名、球麻痺型が54名でした。
▽患者は、ALSFRS-Rスコアと発症からの罹患期間から算出したΔFSにより、緩徐進行型(81名)、中間進行型(80名)、急速進行型(80名)の3群に分類されました。このΔFSと摂取量との相関の有無が検討されました。
▽コーヒーを飲む人は179名(74.3%)、飲まない人は34名(14.1%)、飲んだことがある人は22名(9.1%)で、カフェインレスコーヒーのみを飲む人は6名(2.5%)でした。ALSの進行速度は、コーヒーの飲用期間と弱い相関がありましたが、累積消費量やコーヒーの1日あたりの飲用量とは相関がありませんでした。
▽現在のお茶を飲む人は101名(41.9%)、以前飲んでいた人は6名(2.5%)、飲まない人は134名(55.6%)であした。緑茶のみを飲んでいる人は27名(25.2%)、紅茶のみを飲んでいる人は51名(47.7%)、両方を飲んでいる人は29名(27.1%)でした。
▽ALSの進行速度は、紅茶の飲用期間とのみ弱い相関があり、累積消費量とは相関がありませんでした。
▽コーヒーや紅茶の摂取がALSの進行速度と関連しているという仮説を明白に支持する結果は得られませんでした
(この研究は、イタリア、University of FoggiaのCucoviciらにより報告され、2021年7月28日付のFront Neurol誌に掲載されました)
▽バロシン含有蛋白質(VCP/p97)の変異は、ALSの病因となり、RNA結合蛋白質の核から細胞質への異常局在化を引き起こします。しかし、VCPの変異がこのようなRNA結合蛋白質の異常局在化を引き起こすメカニズムは、解明されていません。
▽今回研究者らは、VCPに変異を導入したヒトiPS細胞由来の運動神経細胞を用いその性質を調べました。
▽その結果、VCP変異を導入した運動神経細胞では、TDP-43、FUS、SFPQの核内/細胞質内の比率が低下していることが明らかになりました。これらのRNA結合蛋白質は運動神経細胞の神経突起にも局在していることがわかりました。
▽VCPのD2 ATPaseドメインの機能変化がRNA結合蛋白質の異常局在化を引き起こすという仮説を細胞モデルで検証しました。
▽正常運動神経細胞とVCP変異運動神経細胞のVCP蛋白質でこのドメインを薬理学的に阻害したところ、正常細胞ではRNA結合蛋白質の異常局在化はみられませんでしたが、VCP変異細胞でD2ドメインを阻害すると、TDP-43とFUSの異常局在化が正常化しました。
▽以上の結果は、VCP変異運動神経細胞では、VCPのD2 ATPaseの病的活性化により、TDP-43とFUSの異常局在化が促進されていることを示唆するものです。
▽またVCP変異関連ALSの治療にVCP D2 ATPase阻害剤が有効である可能性を示唆するものです。
(この研究はイギリス、University College LondonのHarleyらにより報告され、2021年8月6日付のBrain Commun誌に掲載されました)
▽インターロイキン2(IL-2)の低用量投与は、制御性T細胞の増殖を促進することからALSの治療薬候補となっています。
▽ALS患者36名を対象に、低用量IL-2の安全性と有効性を検証するため、第2相臨床試験が実施されました(NCT02059759)。
▽参加者は、100万IU、200万IUの低用量IL-2、またはプラセボに無作為に割り付けられ、28日ごとに1日1回、5日間の注射を3サイクル行いました。
▽その結果、治療終了時には制御性T細胞マーカーが用量依存的に増加していることが確認されました。縦断的な解析により、最初の治療サイクルの終了時に速やかに炎症経路の変化と抑制が起こることが明らかになりました。
▽これらの反応は、3回目の治療サイクル終了後には目立たなくなりましたが、制御性T細胞とTヘルパー2細胞が関与する免疫調節経路の活性化は、最終サイクル後にのみ明らかでした。 このことは、低用量IL-2の反復投与により制御性T細胞に対して蓄積的な効果があることを示唆しています。
▽本研究では、低用量IL-2への反応性に個人差があることが示唆されたため、患者を低、中、高の制御性T細胞応答者に分類しました。
▽NanoStringプロファイリングを用いた遺伝子発現解析の結果、試験参加者の免疫学的転写産物の発現プロファイルにベースラインで大きな違いがあることが明らかになりました。ベースラインの炎症反応性に関する特定の2つの遺伝子発現の多い患者ほどIL-2への反応性が高いことがわかりました。
▽以上の結果は将来のALS治療におけるプレシジョン・メディシンに通じることが期待されます。
(この研究はイギリス、University of Sheffield,のGiovannelliらにより報告され、20221年7月29日付のBrain Commun誌に掲載されました)
▽ NCX(Na-calcium exchanger)は、神経細胞やグリア細胞において、Ca2+イオンとNa +イオンの交換を双方向に結合し、これらのイオンの細胞内恒常性を制御する膜アンチポーターです。
▽3つのNCX遺伝子のうち、NCX1とNCX2は中枢神経系に広く発現しているが、NCX3は骨格筋にのみ存在し、特定の脳領域では低濃度に発現しています。
▽ALSモデルマウスでは、病気の進行に伴いNCX1とNCX2の発現と活性が低下していることがわかっています。
▽今回、研究者らはALSモデルマウスにおいて、NCXの役割を調べました。SOD変異ALSモデルマウスに新規合成化合物のneurouninaを投与し、NCX1およびNCX2を薬理学的に活性化することで、ALSの病態におけるNCX1およびNCX2の役割を調べました。
▽その結果、neurounina投与はSOD1変異ALSモデルマウスの腹側脊髄角における運動神経細胞の生存維持効果がみられました。また折り畳み異常SOD1蛋白質の脊髄への蓄積が減少しました。さらにアストログリアおよびミクログリアの活性化を抑制しました。
▽以上の結果は、ALSの病態生理においてNCX1およびNCX2が重要な役割を果たしていることを示唆するものであるり、ALSに対する新たな治療戦略となりうるものです。
(この研究は、イタリア、IRCCS SDNのAnzilottiらにより報告され、2021年8月16日付のNeurobiol Dis誌に掲載されました)
▽TDP-43遺伝子を導入したヒトiPS細胞を作成し、運動神経細胞に分化させた後、MG-132および亜ヒ酸ナトリウム(ストレス因子)で処理し、TDP-43の核から細胞質への異常局在化を誘導しました。
▽異常局在化を阻害しうる物質を探索した結果、ニクロサミドなどのSTAT3阻害剤は、TDP-43の異常局在化を阻止し、TDP-43の凝集体を分解しました。
▽さらに、ニクロサミドはPINK1-parkin-ユビキチン経路を介してマイトファジー(オートファジーを介したミトコンドリアの選択的分解機構)を活性化しました。
▽以上の結果は、ニクロサミドがALS治療薬候補であることを示唆するもので、今後の研究の進展が期待されます
(この研究は筑波大学のKatoらにより報告され、2021年8月21日付のJ Biosci Bioeng誌に掲載されました)
▽変異SOD1蛋白質は、電位依存性アニオンチャネル1(VDAC1)を足掛かりとして、ミトコンドリア表面に毒性のある凝集体を形成する原因となっています。
▽VDAC1は、細胞の生体エネルギーの主要な制御因子であり、ヘキソキナーゼ(HK)と結合することでアポトーシスを制御しています。
▽ALSでは、変異SOD1がVDAC1の活性を低下させ、HK1をミトコンドリアから追い出してしまうため、細胞器官の機能不全や細胞死が促進されます。
▽今回研究者らは、ALS細胞モデルを用いて、HK1配列に由来する低分子合成ペプチド(NHK1)が、用量反応的に細胞生存率を回復させ、ADPリン酸化に伴うミトコンドリア機能の欠損を回復させることを示しました。
▽この効果は予想外にVDAC1の発現が増加し、ミトコンドリアでの変異SOD1蛋白質の蓄積が減少したことと関連していました。
▽以上の結果は、今後の治療薬開発において1つの方向性を与える可能性があります
(この研究はイタリア、University of CataniaのMagriらにより報告され、2021年8月3日付のBiomedicines誌に掲載されました)
▽今回研究者らは、低分子量デキストラン硫酸のILBの第2相試験において、高速液体クロマトグラフィーを用いて、ILBを4週間皮下投与したALS患者の血清の代謝状態の変化を調べました。
▽その結果、治療期間中、N-acetylaspartate(NAA)、オキシプリン、酸化/ニトロソ化ストレスのバイオマーカー、抗酸化物質など、いくつかの重要な代謝物の血清レベルの有意な正常化が観察されました。
▽以上の結果は、ILBの投与が、組織のエネルギー代謝の改善、酸化/ニトロソ化ストレスの軽減、神経炎症プロセスの抑制などの作用を有することを示唆するものです
(この研究は、イタリア、Saint Camillus International University of Health SciencesのLazzarinoらにより報告され、2021年8月14日付のJ Pers Med誌に掲載されました)
▽ALS患者の脊髄や大脳皮質では、GSK-3βの発現量や活性上昇していることが報告されてます。
▽今回研究者らは、非ATP競合型GSK-3β阻害剤であるTideglusibの効果を、ALS細胞モデルおよび動物モデルにおいて、評価しました。
▽孤発性性ALS患者のリンパ芽細胞では、GSK-3βの活性が上昇し、同時にTDP-43のリン酸化と細胞質内のTDP-43の蓄積が増加していることが確認されました。
▽Tideglusibを投与すると、ALSリンパ芽細胞およびヒトTDP-43神経芽細胞腫モデルにおいて、リン酸化TDP-43濃度が低下し、核内局在性を回復させることができました。
▽さらに、TideglusibはTDP-43蛋白症ALSモデルマウスの脊髄におけるリン酸化TDP-43の増加を抑制しました。
▽以上の結果はTideglusibが有望なALS治療薬候補であることを示唆しており、年内に第2相試験の開始が予定されています
(この研究はスペイン、Centro de Investigaciones Biológicas Margarita SalasのMartinez-Gonzalezらにより報告され、2021年8月20日付のInt J Mol Sci誌に掲載されました)