▽今回ALS患者を対象にguanabenzの第2相試験が行われました。発症18カ月以内のALS患者をリルゾール併用下において、guanabenz 64mg、32mg、16mg、プラセボに無作為割付され、6か月間投与され、主として安全性などが検証されました
▽主要評価項目は 6カ月間でALS Milano-Torino stagingにおいて、より進行期に分類された患者の割合であり、比較対象は200名のALS患者の自然経過(historical cohort)とされました。副次評価項目はALSFRS-Rの変化量、静的肺活量の変化、気管切開または永続的人工換気までの時間、血清ニューロフィラメント軽鎖量などとされました
▽その結果、guanabenz 64mg群および32mg群では、6か月後により進行期に到達した患者の割合は、対照群より有意に少なく、主要評価項目が達成されました。またALSFRS-Rの変化量の中央値も有意に少ないものとなりました
▽このような効果は特に球麻痺発症型の患者において顕著であり、球麻痺発症型ではguanabenz64mgもしくは32mgを投与された18名中、6か月後に進行期に至った患者の割合は0名でしたが、16mg群では8名中4名、自然経過群(historical cohort)では49名中21名、プラセボ投与群では60名中25名が6か月後により進行期に至っており、有意差を認めました。
▽一方で有害事象はguanabenz群で有意に多く、脱落率は64mg投与群で有意に高い結果となりました。重篤な副作用についてはプラセボ群と有意差がありませんでした
▽今後さらに大規模な臨床試験での検証が期待されます
(この研究はイタリア、Fondazione IRCCS Istituto Neurologico "Carlo Besta"のBellaらにより報告され、2021年4月26日のBrain誌に掲載されました)
▽マイクロ流体デバイスを用いて、ヒトiPS細胞由来運動神経細胞とヒト中血管芽細胞由来myotubeの共培養を行いました。
▽その結果、神経突起の成長と神経筋接合部の形成が観察されました。ALSの原因となるFUS変異を導入すると神経突起の成長が抑制され、軸索切断時の神経突起の再生が阻害されました。また神経筋接合部の数も減少していました
▽選択的HDAC6阻害剤であるTubastatin Aを投与すると、神経突起の伸長や再生、神経筋接合部の形態の障害が改善しました。以上の結果は、HDAC6阻害剤がFUS変異ALSにおいて治療的に作用する可能性を示唆するものです
(この研究は、ベルギー、University of LeuvenのStoklund Dittlauらにより報告され、2021年4月16日付のStem Cell Reports誌に掲載されました)
▽続いてSOD1変異ALSモデルマウス由来アストロサイトと運動神経細胞の共培養系を用いて、マウス脂肪組織由来幹細胞の神経保護作用が調べられました。その結果、脂肪組織由来幹細胞はALSモデルマウス由来アストロサイトの細胞毒性から運動神経細胞を保護する作用を発揮することがわかりました。
▽さらに脂肪組織由来幹細胞は、炎症系サイトカインの放出を抑制し、神経保護因子の分泌を促進することによろALSモデルマウス由来アストロサイトの有害性を軽減することがわかりました。またヒトALS患者由来アストロサイトの神経毒性についても、脂肪組織由来幹細胞が保護的な作用を発揮することがわかりました。
▽以上の結果は脂肪組織由来幹細胞が傍分泌の機序を介して運動神経細胞の生存を補助し、ALSの病態に通じる有害な微小環境を調節することがっできることを示唆するものです。
(この研究はイギリス、The University of SheffieldのCiervoらにより報告され、2021年3月27日付のMol Ther Methods Clin Dev.誌に掲載されました)
▽今回、研究者らは、新たなヒトTGFβ-RII(Transforming Growth Factor-Receptor Type II)特異的LNA-アンチセンスオリゴヌクレオチド(NVP-13)を導入し、in vitroでヒト神経細胞前駆体細胞(ReNcell CX細胞)におけるTGFβ-RIIの発現と下流の受容体シグナルを低下させることに成功しました。
▽カニクイザルを用いた13週間のGLP毒性試験において、NVP-13を繰り返し注射したところ、生体内でTGFβ-RIIのmRNAおよび蛋白質を特異的に減少させることができました。その後、海馬と脳室下帯における神経原性ニッチ活性が用量依存的に上昇し、ヒト神経前駆細胞の分化と細胞数が有意に(対照の3倍まで)増加しました。
▽NVP-13の投与は、MAPKやPI3KなどのTGFβ経路に加え、MEF2AやpFoxO3などの幹細胞維持に関わる主要な転写因子やエピジェネティック因子を調節しました。
▽以上の結果は、神経新生を調節することでALSなどの神経変性疾患に対して治療的に作用する可能性を示唆するものです
(この研究は、ドイツ、University Hospital RegensburgのPetersらにより報告され、2021年4月15日付のNeurotherapeutics誌に掲載されました)
▽G4C2の過剰伸長は、リピート関連非AUG(RAN)翻訳を引き起こし、毒性のあるジペプチド繰り返し蛋白質を産生しますが、RAN翻訳のメカニズムはよくわかっていません。
▽今回、研究者らは、RNAヘリカーゼのDHX36がC9orf72 RAN翻訳の強力な制御因子であることをみいだしました。
▽DHX36は、G4C2リピートRNAに高い親和性を持ち、G4C2リピートRNAのG-四重らせん構造に優先的に結合し、G4C2のG-四重らせん構造を効率的にほどくことができます。
▽DHX36は、G4C2リピートRNAと相互作用し、細胞内でのRANの効果的な翻訳に不可欠です。C9orf72変異ALS患者由来iPS細胞由来運動神経細胞において、DHX36を減少させると、ジペプチド繰り返し蛋白質の濃度が有意に低下しました。また、C9orf72変異ALS患者の組織では、DHX36の発現が異常に増加していました。
▽以上の結果は、DHX36がリピートRNAのG-四重らせん構造を解消することでC9orf72 RANの翻訳を促進していることを示唆するものであり、治療的介入のターゲットとなりうることを示唆するものです。
(この研究はアメリカ、Johns Hopkins UniversityのLiuらにより報告され、2021年4月15日付のJ Am Chem Soc.誌に掲載されました)
▽今回研究者らは、O-GlcNAc転移酵素(OGT)を介したTDP-43のO-GlcNAc化が、ALS関連蛋白症を抑制し、TDP-43のスプライシング機能を促進することをみいだしました。
▽OGTは、TDP-43の凝集とリン酸化を抑制し、一方、TDP-43のO-GlcNAc化を消失させると、TDP-43のRNAスプライシング活性が損なわれることが示されました。さらに、TDP-43のO-GlcNAc化部位の変異は、ショウジョウバエALSモデルの運動障害を改善し、生存期間の延長をもたらすことがわかりました。
▽TDP-43のO-GlcNAc化が、正常な軸索の伸長と再生に必要なSTMN2を含む多くのmRNAの適切なスプライシングを促進することがわかりました。以上の結果は、O-GlcNAc化がTDP-43症に対して治療ターゲットとなりうることを示唆するものです
(この研究は中国、Wuhan UniversityのZhaoらにより報告され、2021年4月15日付のEMBO Rep.誌に掲載されました)
▽シンバスタチンは、これまでにSOD1変異ALS細胞モデルにおいて、自食フラックスの障害を悪化させることで細胞毒性を引き起こすことが明らかになっていますが、ALSモデル動物におけるシンバスタチンの役割はよくわかっていません。
▽今回研究者らは、シンバスタチンを投与したSOD1変異ALSモデルマウスの脊髄運動神経細胞では、自食フラックスの障害が悪化し、SOD1蛋白質の凝集が増加し、ALS症状の発症が早まり、寿命が短くなることをみいだしました。
▽シンバスタチンは、イソプレノイド合成を阻害することでRab7の膜上への局在化を抑制し、自食作用の上流部位よりも下流部位に障害をもたらすことがわかりました。その結果、シンバスタチンは自食作用の下流部位の障害を顕著に悪化させ、脊髄運動神経細胞死をもたらし、疾患進行を加速させることが示唆されました。
(この研究は、中国、 The Second Hospital of Hebei Medical UniversityのBaiらにより報告され、2021年4月12日付の Cell Death Dis.誌に掲載されました)
▽今回、研究者らは全てD-ペプチドからなるRD2RD2を用いて、SOD1変異ALSモデルにおける治療的効果を検証しました。
▽RD2RD2は4週間腹腔内投与されました。様々な行動テストや運動テストにより運動機能が調べられ、免疫組織化学的に脳や脊髄のグリオーシスと神経変性が調べられました。
▽その結果、RD2RD2投与により、脳幹と腰髄の両方で活性化アストロサイトとミクログリアが減少しただけでなく、皮質の運動神経細胞も保護されました。
▽同時に運動障害の進行遅延効果もみられ、どの運動テストにおいても疾患の有意な進行は見られませんでした。
▽以上の結果は、RD2RD2はALSの治療薬候補になりうることを示唆するものです。
(この研究はドイツ、Institute of Biological Information ProcessingのPostらにより報告され、2021年3月13日付のMolecules誌に掲載されました)
▽今回、研究者らはナンセンス変異依存mRNA分解機構に関与するUPF1蛋白質を過剰発現させ、C9orf72遺伝子変異モデルにおける細胞毒性への影響を調べました
▽ヒトC9orf72遺伝子変異ALS患者iPS細胞由来神経細胞や皮質組織においては、ナンセンス変異依存mRNA分解機構は変化していないことがわかりました。一方で、UPF1を過剰発現させると、ナンセンス変異依存mRNA分解機構の機能そのものを変化させることなく、病態の重症度が有意に緩和することがわかりました
▽UPF1過剰発現は、繰り返し配列RNAの量を変化させることなく、poly(GP)蛋白質を減少させました。
▽以上の結果は、UPF1はナンセンス変異依存mRNA分解機構を介した既知の経路ではない別の経路を介して、神経保護作用を発揮することを示唆するものです
(この研究は、アメリカ、Johns Hopkins UniversityのZaepfelらにより報告され、2021年3月30日付の Cell Rep.誌に掲載されました)
▽今回研究者らは、異なるTARDBP変異を持つ3人のALS患者、3人の健常対照者、および同種の対照者から採取したiPS細胞由来運動神経細胞におけるTDP-43蛋白質の動態を調べました。
▽TARDDBP変異は、脊髄運動神経細胞において、不溶性のTDP-43 C末端断片、およびリン酸化TDP-43の細胞質への異常局在化と凝集などの変化を引き起こします。TDP-43対立遺伝子を特異的に標識したiPS細胞を作成することで、変異型TDP-43が病態を引き起こし、質量分析で示されるようにインタラクトームが変化していることを見出しました。またTDP-43蛋白症は、ミトコンドリア輸送の欠陥を引き起こすことがわかりました。
▽ヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)を薬理学的に阻害すると、TDP-43蛋白症の病態と軸索ミトコンドリアの運動性が回復することがわかりました。以上の結果はHDAC6阻害がTDP-43蛋白症に対して治療的効果を有する可能性を示唆するものです。
(この研究はベルギー、 University of LeuvenのFazalらにより報告され、2021年4月1日付EMBO J.誌に掲載されました)
▽150名の患者を対象にプラセボ対照で行われ、最長2年間で発症予防効果などが検証される予定です。
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04856982
・100名の患者を対象にプラセボ対照で行われ、骨髄単核球細胞は下肢筋肉に筋注投与されます。治療後48か月間で安全性などが検証される予定です
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04849065
・enoxacinはストレス応答の結果としてのマイクロRNA生成障害などを改善し、治療的効果が期待されている小分子です。
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04840823
▽Maze Therapeutics社は、ALS治療薬候補であるATXN2遺伝子の活性を抑制する遺伝子治療薬を開発中です。
▽ATXN2遺伝子は、遺伝子修飾因子です。遺伝子修飾因子では、それ自体は疾患を引き起こすことはなく、疾患の重症度を重くしたり、軽くしたりする遺伝子や遺伝子変異のことです。
▽ATXN2遺伝子は、TDP-43蛋白質の毒性を調節しうる遺伝子修飾因子であることが知られています。すでにBiogen社がATXN2遺伝子の発現を阻害するアンチセンス・オリゴヌクレオチド製剤であるBIIB105の第1相試験を開始しています
▽Maze社はATXN2遺伝子のmRNAを標的とするマイクロRNA製剤を開発中です。このマイクロRNAによりATXN2蛋白質の発現を阻害し、治療的効果を発揮することが期待されています
▽Maze社は同社の開発したCOMPASSプラットフォームにより、3つの遺伝子治療薬候補を開発中です
引用元
https://alsnewstoday.com/news-posts/2021/04/08/maze-therapeutics-potential-als-gene-therapy-targeting-genetic-modifier-atxn2/
▽Actimed Therapeutics社は、Faraday Pharmaceuticals社とのライセンス契約による資金を活用して、ALSによる筋肉の衰えや体重減少を防ぐためのS-oxprenololの開発を進めています
▽S-oxprenololは、筋肉の衰えに関与する3つの生物学的メカニズム、すなわち、同化作用、異化作用、そして食欲を減退させる疲労感を治療標的としています。
▽本剤は、他の同種の薬剤と比較して、脳や脊髄に到達しやすいことが報告されています。
▽S-oxprenololは、当初、がん患者の悪液質の治療薬として開発されました。しかし、ALSモデルマウスを用いた研究で、ALSの治療薬候補としての可能性が示されました。ある実験では、プラセボを投与したマウスに比べて、筋肉や体重の減少が抑制され、モデルマウスの生存期間が33%延長しました。また別の動物実験でも、リルゾールを上回る生存期間延長効果がモデルマウスで報告されています
引用元
https://alsnewstoday.com/news-posts/2021/04/16/actimed-therapeutics-develop-s-oxprenolol-muscle-wasting-treatment-als/