・今年はコロナの影響で、臨床試験も一部影響を受けるなどしたようですが、HEALEYプラットフォームなど、臨床試験を迅速に効率的に進める仕組みも動き始め、今後益々臨床試験がスムーズに進展することが期待されます。
・先月にはNurOwn細胞の残念なニュースもありましたが、今後に期待できる臨床試験も複数動いており期待したいと思います。
・皆様にとって来年が良い年になりますことを祈念いたします。
管理人 HIDE
▽この試験では13名のALS患者が対象となり、5%アルブミン溶液を用いた血漿交換療法が6か月間施行されました。最初3週間は週に2回の血漿交換が行われ、その後21週間は週に1回のペースで行われました。治療終了後6か月間症状経過が観察されました
▽ALSFRS-Rの変化率なども評価され、ALSFRS-Rの変化率が-0.8点/月未満が緩徐進行型、-1.33点/月以上が急速進行型とされました。
▽13名のALSFRS-Rの変化率の中央値は治療前よりも小さい値でした。7名については治療終了時点での変化率が予想より小さいものとなりました。また5名については、観察期間終了時点での変化率が予想より小さいものとなりました。6名についてはALSFRS-Rの変化率は治療前と同じカテゴリーでした。一方で4名は変化率が改善しました。
▽全体として54.5%がALSFRS-Rの変化率が変化なし、36.4%が改善となりました
(この研究はスペイン、Hospital Universitari de BellvitgeのPovedanoらにより第31回国際ALS/MNDシンポジウムにて報告されました)
▽この手法を用いて、上位運動神経細胞を保護しうる薬剤の探索が行われ、SOD1変異による細胞毒性から神経細胞を保護しうる物質としてNU-9が同定されました。
▽NU-9の上位運動神経細胞保護作用がSOD1変異ALSモデルマウスおよびTDP-43変異ALSモデルマウスおよびin vitroにて評価されました。
▽その結果、動物モデルにおいてミトコンドリアや小胞体の形態が改善し、樹状突起構造の安定化、軸索伸長の改善効果などが観察され、折り畳み異常SOD1蛋白質の減少などが観察されました。
▽以上の結果はNU-9が上位運動神経細胞に対して治療的効果を発揮することを示唆しており、今後の臨床応用が期待されます
(この研究はアメリカ、Northwestern大学のGencらにより第31回国際ALS/MNDシンポジウムにて報告されました)
▽これまでにクラスIヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤がストレス依存性に熱ショック応答を改善し、熱ショック蛋白質誘発剤(arimoclomolなど)の効果を増強することが報告されています
▽今回研究者らは新規クラスI HDAC阻害剤のRGFP963の効果を検証しました。RGFP963は中枢神経への透過性を有します。SOD1変異ALSモデル細胞およびTDP-43変異モデル細胞にRGFP963を投与すると核内FUSおよびTDP-43の保持作用がみられ、クロマチンリモデリング構造体などが保持されました。
▽SOD1変異ALSモデルマウスにRGFP963を投与すると神経筋接合部が保護され、筋力の保持作用がみられました。
▽以上の結果はRGFP963がALS治療薬として有用な可能性を示唆するものです
(この研究はカナダ、McGill大学のFernandezらにより第31回国際ALS/MNDシンポジウムにて報告されました)
・第31回国際ALS/MNDシンポジウムの発表からです
▽2N Pharma社はALSにおけるミトコンドリア代謝機能異常に着目した創薬を行っています。ALSにおいては脂質代謝亢進がしばしばみられます。そのため細胞代謝を糖代謝にシフトさせることにより治療的効果が期待できる可能性があります。
▽2N Pharma社は可逆性のCPT1阻害剤であるmitometinを開発しました。SOD1変異ALSモデルマウスに投与したところ発症遅延効果と生存期間の延長効果がみられました。また遺伝子的にCPT1発現を抑制したところモデルマウスにおいて発症遅延効果がみられました
▽CPT1阻害はミトコンドリア機能改善や酸化的ストレス減弱などを介してモデルマウスの病態改善効果をもたらし、一方で高脂質食やコルチコステロン投与によるCPT1活性の亢進は病態悪化をもたらしました。
▽以上の結果はモデルマウスにおいてミトコンドリア代謝機能異常とCPT1が病態進展に重要な役割を果たしており、これらをターゲットとした治療的介入が病態改善に有用である可能性を示唆するものです
(この研究はデンマーク、2N Pharma社のMorkholtらにより第31回国際ALS/MNDシンポジウムで報告されました)
▽QurAlis社はALSに対して治療的効果の期待できる物質を同定しました。この結果は第31回国際ALS/MNDシンポジウムにて公表されたものです
▽20-50%のALS患者においては運動神経細胞の過剰興奮特性がみられることが報告されています。この過剰興奮性については、特定のイオンチャネルの異常低活性によると考えられています。異常低活性を示すイオンチャネルとしてKv7.2/7.3が報告されています
▽抗てんかん薬であるエゾガビンはこのチャネルを活性化しうる薬剤と言われています。最近行われた臨床試験においてもALS患者の運動神経細胞の過剰興奮性を抑制しうることを示唆する結果が得られました
▽しかしながらエゾガビンはその他のチャネルへの影響によりめまいや疲労感などの無視できない副作用を引き起こしえます。
▽そこでQurAlis社の研究者らはよりKv7.2/7.3チャネルに選択性の高い物質であるQRA-244に着目しました
▽QRA-244はエゾガビンの20倍も低い濃度でチャネルを活性化しうることがわかりました。またラットでの実験では副作用を引き起こさず安全性も高いことがわかりました。現在臨床試験の開始に向け準備が進められています
▽一方でQurAlis社の研究者らは一部のALS患者においてTbk1活性が低下しており、そのために自食作用が減弱していることに着目しました。研究者らは正常な状態においてTbk1活性を抑制する分子を同定しました。この分子の活動を阻害することにより治療的な効果が見込める可能性があり、研究が進められています
引用元
https://alsnewstoday.com/news-posts/2020/12/15/quralis-working-on-new-als-therapy-qra-244-to-harness-benefits-without-side-effects/
▽HEALEY ALSプラットフォームにSLS-005(トレハロース)の第2b/3相試験が追加されました。
▽HEALEY ALSプラットフォームは複数のALS治療薬候補についての臨床試験を同時に進めることにより、プラセボ群を共有するなどして臨床試験のコスト低減と効率化を図るプラットフォームです。
▽SLS-005はHEALEYプラットフォームで既に今年初頭から臨床試験が開始されている3つのALS治療薬候補であるzilucoplan、CNM-Au8、verdiperstatに次ぐ4番目の試験薬となります。またHEALEYプラットフォームではSLS-005と同時にpridopidineおよびIC14の試験も追加予定となっています。
▽各レジメンにおいて160名がプラセボと3:1の比率で割付され24週間で安全性や有効性が検証される予定です。
▽トレハロースは植物や真菌、バクテリア中にみられる天然の糖分子であり、自食作用を促進することが基礎実験で報告されています。この作用により神経細胞内の有毒物質であるTDP-43やSOD1凝集体除去を促進し、治療的効果を発揮することが期待されています。
引用元
https://alsnewstoday.com/news-posts/2020/12/22/4th-potential-therapy-sls-005-joins-healey-als-platform-trial/
▽Kadimastem社のALS治療薬候補であるAstroRxの第1/2相試験における高用量単回投与の長期経過について続報が入りました
▽臍帯血幹細胞由来アストロサイトであるAstroRxは移植後3か月間で進行遅延効果を示唆する結果が得られていました。今回は6か月以上の経過が報告され、移植後6か月経過後には治療的効果の減衰を示唆する結果が得られたとのことです。そのため単回投与ではなく、複数回投与が必要かもしれないとのことです。
▽2億5千万細胞の髄腔内移植を受けた群においては、最初3か月間では45%の進行遅延効果がみられましたが(ALSFRS-Rで0.78点/月の変化)、その後3から4か月目ではALSFRS-Rの変化量は1.43点/月でした。さらに6か月以上経過後では治療前の変化率と同等であったとのことです。
▽安全性は良好であり、今回の結果を受け、今後さらなる臨床試験の実施が予定されています。
引用元
https://alsnewstoday.com/news-posts/2020/12/17/astrorx-stem-cell-therapy-at-higher-dose-still-showing-transient-reductions-als-progression-trial/
▽BrainStorm社はアメリカでNurOwn細胞のexpanded access programを展開することを公表しました
▽expanded access programは日本での患者申出療法制度に該当し、一部の患者に対して未承認の薬剤に対するアクセスを可能とするものです。
▽エントリー基準としては、先に行われた第3相試験を終了した患者であり、かつ非進行期とされるもので、無料でexpanded accessが提供されるとのことです。
▽非進行期の患者については、第3相試験において、投与群のALSFRS-Rの変化率は1.77点/月であり、プラセボ群では3.78点/月でした。統計的有意差はありませんでしたが、FDAとの提携によりexpanded accessが可能となりました。
▽BrainStorm社はNurOwn細胞の今後の承認に向けてFDAと協議を重ねているとのことです。
引用元
https://alsnewstoday.com/news-posts/2020/12/16/nurown-may-be-given-to-early-als-patients-in-us-who-finished-phase-3-trial/
・100名を対象にプラセボ対照で6か月間、ポリフェノール(レスベラトロール)+デュタステリドの安全性、有効性などが検証される予定です
・デュタステリドは前立腺肥大症治療薬であり、5α-還元酵素トリプル阻害薬です。基礎実験においてALSに対する治療的効果が期待されています
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04654689
・20名の患者を対象に1か月毎に3回、くも膜下腔内に間葉系幹細胞移植が投与され、安全性などが検証される予定です
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04651855
・18名の患者を対象にプラセボ対照で行われ、180日間で左右128カ所のEngensis筋注が3サイクル施行され安全性が検証される予定です。
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04632225
・TBNは強力なフリーラジカル除去作用を有すると考えられており、モデルマウスで治療的効果が報告されています。
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04667013
▽そのためHERV-K濃度を減少させるような治療が有効ではないかとの仮説のもとで、抗レトロウイルス療法(Triumeq)の第2相試験が実施中で、進行遅延効果を示唆する結果が得られています。
▽しかしながらその病態への作用機序はよくわかっていません。今回研究者らはTDP-43変異ALSモデルマウスを用いて、抗レトロウイルス剤Triumeqの作用について調べました
▽その結果、Triumeq投与マウスでは有意な筋力保持作用が認められ、免疫組織染色ではTDP-43の異常局在化の減少などがみられました。今後の研究によりHERV-KがALSの病態に与える影響などがさらに解明されることが期待されます
(この研究はオーストラリア、Finders大学のDubowskyらにより第31回国際ALS/MNDシンポジウムにて報告されました)
▽CNM-Au8は金ナノクリスタル懸濁液であり、神経細胞の代謝を活性化し、酸化的ストレスを減弱させるなどにより治療的効果を発揮することが期待されています
▽この第2相試験は多施設プラセボ対照無作為割付二重盲検比較試験であり、36週間で安全性や有効性が検証されます。
▽43名の参加者についての中間結果では、筋電図によって評価された MUNIX (Moter Units Number Index)が治療群において増悪率が緩やかであることを示唆する結果が得られたとのことです。今後の最終結果が期待されます
(この研究はアメリカ、Clene Nanomedicine社のVusicらにより第31回国際ALS/MNDシンポジウムにて報告されました)
▽ペランパネルはグルタミン酸AMPA受容体拮抗薬であり、ALSモデルマウスにおいて治療的効果が報告されています。
▽今回第2相試験で孤発性ALSを対象にペランパネル4mg(N=22)、8mg(N=21)について48週間でプラセボ対照試験が行われました(プラセボ群N=22)
▽その結果、ペランパネル8mg群ではプラセボよりも有意にALSFRS-Rの悪化がみられました。この悪化は主に球麻痺症状の悪化によるものと考えられました。一部の筋肉群についてはMMTにおいてペランパネル8mg群はプラセボ群より有意に筋力低下が小さい結果となりました。ペランパネル8mgでは重大な副作用についてもプラセボ群より多くみられました
(この研究は東京医科大学のAizawaらにより第31回国際ALS/MNDシンポジウムにて報告されました)
▽今回研究者らはHDAC6阻害剤であるACY738の効果について細胞モデルで検証しました
▽その結果、ACY738投与は微小管のアセチル化を1.5倍増加させ、病態改善に寄与しうる可能性が示唆されました。今後さらにモデルマウスでの効果が検証される予定です
(この研究はオーストラリア、University Of TasmaniaのKabirらにより第31回国際ALS/MNDシンポジウムにて報告されました)