▽マイク・ブラウン上院議員は、新たな治療法を必要とする患者が利用できるようにするため、早期アクセスを可能にするための法案を提出することを公表しました。いわゆるPromising Pathway Act(条件付き承認法)は、連邦食品医薬品化粧品法を改正して、FDAが、病気が急速に進行し、治療法の選択肢がほとんどない、または存在しない状態を治療する治療法を暫定的に承認することを可能にすることを目指しています。
▽米国の下院議員、Jeff Fortenberry氏とイリノイ州選出のMike Quigley氏は、超党派の「ALSのための重要な治療法へのアクセスを加速させる法律」を下院に提出する意向を発表しました。
▽この法案は、ALSのような進行の早い神経変性疾患や末期疾患を持つ患者のために、有望な治療法への早期アクセスに資金を提供するための助成金として7500万ドルを提供するものです。
引用元
https://alsnewstoday.com/2020/06/03/legislation-seeks-early-access-to-promising-treatments-for-als-similar-disorders/
▽BrainStorm社のALS治療薬候補であるNurOwn細胞の第3相試験の結果が年内に判明する予定です。
▽COVID-19の影響により一時的に予定の変更はあったものの、最終患者への投与が7月までに予定されています。COVID-19による影響のため、ALSFRS-Rの評価は電話を通じて行うなどの変更はありましたが、おおむね問題なく臨床試験は進行しているとのことです
▽この第3相試験では合計200名のALS患者がエントリーされ、プラセボ対照で行われ、投与群の全ての患者が少なくとも2回のNurOwn細胞投与をうけます。試験期間は28週間で有効性、安全性などが評価されます。
引用元
https://alsnewstoday.com/2020/06/05/phase-3-trial-of-nurown-cell-therapy-for-als-on-track-and-results-by-end-of-year/
▽Denali社とSanofi社のALS治療薬候補で臨床試験実施中のDNL747ですが、臨床試験の停止が公表されました
▽これまでの臨床試験では有効性を発揮するためにより高用量が必要であることを示唆する結果が得られていました。しかし高用量においては有害性が問題となっていました。
▽そこで両社はより安全性の高い化合物であるDNL788を開発し、DNL747の臨床試験を停止することとなりました。
▽DNL747とDNL788はいずれもRIPK1蛋白質阻害剤であり、血液脳関門を透過することが可能です。RIPK1は炎症反応に関与しており、これを阻害することによる抗炎症作用によりDNL788の治療的効果が期待されています。
▽DNL747は第1相試験で安全性が確認されましたが、サルを用いた実験により高用量では有毒性がみられることが明らかになりました。そこでより安全性の高いDNL788が開発されました。
▽来年にもDNL788の臨床試験を開始したいとしています。
引用元
https://alsnewstoday.com/2020/06/15/denali-sanofi-pause-dnl747-studies-favor-advancing-dnl788/
・HEALEY ALS Platform(複数の治療薬候補を同時に評価するプラットフォーム)による Verdiperstatの第2/3相試験が開始予定です。
・160名のALS患者を対象にプラセボ対照で行われ、24週間で治療的効果などが検証される予定です
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04436510
・HEALEY ALS Platform(複数の治療薬候補を同時に評価するプラットフォーム)によるZilucoplanの第2/3相試験が開始予定です。
・160名のALS患者を対象にプラセボ対照で行われ、24週間治療効果が検証される予定です
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04436497
▽今回研究者らは、SOD1変異ALSモデルマウスを用いて、舌のみに変異SOD1発現を阻害するmicroRNAを注入し治療的効果が得られるかどうかを検証しました。
▽6週齢のSOD1変異ALSモデルマウス11匹に、アデノ随伴ウイルスベクターに組み込んだmiR SOD1(AAVrh10-miR SOD1)の舌内注射を1回行いました。
▽13週齢から、呼吸機能の評価と嚥下試験を病期末期まで月2回施行されました。未治療のSOD1変異ALSモデルマウスでは、野生型マウスと比較して呼吸機能の有意な低下がみられたのに比較して、AAVrh10-miR SOD1注入モデルマウスでは呼吸機能の低下は野生型マウスと比較して減少がみられませんでした。
▽一方、AAVrh10-miR SOD1投与は嚥下機能には未治療モデルマウスと比較して有意な効果がみられませんでした。
▽以上の結果は、モデルマウスへのAAVrh10-miR SOD1投与は、上気道の開存性を高めることで呼吸機能を維持することができることを示唆しており、今後の実用化に向けて有望な選択肢となりうることを示唆しています。
(この研究は、アメリカ、University of MissouriのLoriらにより報告され、2020年6月5日付のHum Gene Ther誌に掲載されました)
▽UBQLN2変異ALS患者の神経細胞組織およびUBQLN2変異ALSモデルマウスでは、自食作用に関与する蛋白質の変化が顕著であり、病態との関連が示唆されています。
▽今回、研究者らは、UBQLN2が自食作用に関与していること、そしてALSに関連するUBQLN2変化がこの機能を損なうことを示しました。HeLa細胞でUBQLN2の発現を不活性化すると、自食作用の活性化減弱とオートファゴソームの酸性化が減少しました。この酸性化の障害は、野生型UBQLN2を再発現させることで改善されましたが、5種類の異なるALS関連変異UBQLN2蛋白質 では改善されませんでした。
▽プロテオーム解析と免疫ブロット解析により、UBQLN2変異モデルマウスとUBQLN2ノックアウトHeLa細胞およびNSC34細胞は、液胞ATPase(V-ATPase)ポンプの主要なサブユニットであるATP6v1g1の発現が低下していることが明らかになりました。
▽HeLa細胞におけるUBQLN2発現のノックアウトはATP6v1g1の代謝を減少させましたが、野生型UBQLN2の過剰発現は変異UBQLN2蛋白質と比較してATP6v1g1の生合成を増加させました。ATP6v1g1は、変異UBQLN2蛋白質よりも野生型UBQLN2蛋白質の方が強く結合することが、in vitroでの研究で明らかになりました。
▽また、興味深いことに、UBQLN2ノックアウトHeLa細胞でATP6v1g1を過剰発現させると、オートファゴソームの酸性化が促進されました。このことはATP6v1g1の過剰発現が酸性化障害に対する治療選択肢となりうる可能性を示唆するものです。
▽以上の結果は、UBQLN2変異は自食作用におけるドミナント-ネガティブ作用により変異体が機能障害をもたらすことで病状を促進し、UBQLN2はATP6v1g1の発現と安定性の重要な調節因子として機能していることを示唆するものです。これらの知見は、UBQLN2が関与するALS/FTDの治療法を開発する上で重要な意味を持つと考えられます。
(この研究は、アメリカ、University of Maryland School of MedicineのJosephineらにより報告され、2020年6月8日付のPNAS誌に掲載されました)
▽最近の研究では、ATRAが神経保護効果を示し、神経疾患の進行を緩和する可能性が示唆されています。これまでの研究は、レチノイン酸シグナルの障害が、ALSモデルマウスの脊髄におけるATRAの必須合成酵素であるALDH1A2を減少させることを明らかにしてきました。
▽今回研究者らは、SOD1変異ALSモデルマウスを用いて、ATRAの神経保護効果と神経回復効果を評価しました。ATRA(3mg/kg)は発症期から進行期まで毎日5週間投与されました。
▽行動試験の結果、ATRAはALSマウスの前肢の握力を改善し、病態進行を遅延させる可能性があるものの、体重増加作用は認められませんでした。ATRAは、ALSモデルマウスの脊髄におけるレチノイン酸受容体α(RARα)シグナルの障害を完全に回復させました。
▽この効果は、ユビキチン-プロテアソーム系を介した折り畳み異常蛋白質の分解促進、酸化ストレスの調節、アストロサイトの活性化抑制などを伴っていました。
▽以上の結果は、ALSの病態にレチノイン酸シグナルの障害が関与していることを明らかにしたものであり、ATRAがレチノイン酸シグナルの修復を介して神経保護作用を発揮する可能性があることを示唆しています。
(この研究は、Yu Zhuらにより報告され、2020年7月17日付のMol Neurobiol誌に掲載されました)
▽今回研究者らは、C9orf72変異ALSまたは孤発性ALS患者のiPS細胞をM2マクロファージに分化させました。その結果M2マクロファージはM1マクロファージの活性化作用とALS患者由来 CD4+CD25-Tc(Teffs)細胞の増殖抑制作用を有することがわかりました。
▽M2細胞はALS患者由来のTeffs細胞をCD4+CD25+Foxp3+制御性T細胞(Tregs)に変換し、ALS患者の制御性T細胞のCD25とFoxp3喪失を防ぎました。
▽さらに、iPSC由来のM2細胞によって誘導または救済された制御性T細胞は、強力な免疫抑制機能を有していました。C9orf72変異ALS患者由来のiPS細胞から分化させたM2細胞は、対照患者のiPS細胞由来M2細胞と同様の免疫調節活性を有していました。
▽以上の結果は、ALS患者のiPS細胞から分化させたM2細胞が免疫抑制作用を有し、ALSの制御性T細胞を増強し、ALSに対する新たな免疫細胞療法の候補となる可能性を示唆するものです
(この研究は、アメリカ、 Houston Methodist Neurological Institute,のZhaoらにより報告され、2020年5月23日付のiScience誌に掲載されました)
▽ALSは、運動神経細胞のアポトーシスと、酸化ストレスやニトロ化ストレス、ミトコンドリア機能不全、神経炎症などによる骨格筋の変性を特徴とする疾患です。
▽アントシアニンは、ベリー類に含まれるポリフェノール化合物で、神経保護および抗炎症作用を有するといわれています。プロトカテキン酸(PCA)は、ブラックベリーやビルベリーに含まれるクロマニンのフェノール酸代謝物です。
▽研究者らは、SOD1変異ALS モデルマウスを用いて、PCA の治療効果を調べました。これらのマウスは、骨格筋の萎縮、後肢の筋力低下、体重減少を示します。疾患の発症は生後約90日で起こり、終末期までの期間は約120日です。
▽発症時にPCA(100 mg/kg)を毎日経口投与すると、生存期間が有意に延長し(未投与群では121日齢、PCA投与群では133日齢)、骨格筋の筋力と持久力が維持されました。さらに、PCAは脊髄のアストログリオーシスとミクログリオーシスを減少させ、脊髄運動ニューロンをアポトーシスから保護し、トランスジェニックマウスの神経筋接合部の保持作用を発揮しました。
▽PCAはALSモデルマウスの生存期間を延長し、疾患の進行を遅らせました。以上の結果はPCAがALSの治療薬候補としての可能性を有することを示唆するものです。
(この研究は、アメリカ、 University of DenverのKozaらにより報告され、2020年6月18日付のNutrients誌に掲載されました)
▽今回研究者らは、孤発性ALS 患者 18 名(非SOD1変異、非FUS変異)を、二重盲検でタモキシフェン 40mg/日投与群とプラセボ投与群に無作為に割り付け、全員にリルゾールを 1 日 2 回投与しました。
▽参加者は1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月地点で経過観察されました。主要評価項目は、死亡ないし人工換気導入までの期間でした。副次的評価項目は、ALSFRS-R得点の変化とFVCで測定された肺機能であした。
▽10名の参加者がタモキシフェン投与群に割り付けられ、7名が試験を終了し、1名が主要評価項目に到達したのに対し、プラセボ投与群では8名が試験を終了し、2名が主要評価項目に到達しました。
▽主要評価項目に到達した参加者の割合は、タモキシフェン投与群の方が低い結果でしたが、統計的有意差は認められませんでした。1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月の追跡調査では、ALSFRS-Rスコアの平均低下率はタモキシフェン群の方が緩徐でした。12ヶ月後のFVCとALSFRS-Rスコアには群間で有意差は認められませんでした。症例数が少ないため、今後さらに大規模試験で検証されることが期待されます。
(この研究は、台湾、Taipei Medical UniversityのChenらにより報告され、2020年5月29日付のMedicine誌に掲載されました)
▽神経変性疾患の研究には、iPS細胞を用いた細胞モデルや疾患動物モデルなど、in vitroおよびin vivoモデルが数多く存在しています。最近の研究では、タウ蛋白質の病態に起因する軸索破壊を抑制する微小管安定化剤(天然物または合成物)の研究が盛んに行われています。
▽パクリタキセル類似物のような血液脳関門透過性のある天然物の微小管安定化剤を用いた動物モデル試験では有望な結果が得られていますが、エポチロンBおよびD、およびダブネチドやトリアゾロピリミジンのような他の合成化合物は血液脳関門の透過性が悪いため、ヒトでの初期臨床試験は不良な結果となっています。
▽将来的に血液脳関門透過性の高い微小管安定化剤が開発され、治療的有効性が確認されることが期待されます。
(この総説は、Millerらにより2020年6月21日付のCurr Pharm Des.誌に掲載されました)
▽研究者らは、in vivoの単一運動神経細胞を用いた電気生理学的観察により、予想に反して、感覚入力と脳幹入力によって誘発される興奮性反応が、発症前SOD1変異ALSモデルマウスの運動神経細胞では減少していることを示しました。
▽この障害は、Homer1b、Shank、AMPARサブユニットのシナプス後膜での集合体形成の障害と関連していました。cAMPの細胞内投与またはcAMP産生Gαs/ olf結合デザイナー受容体(Gs-DREADD)刺激によりcAMP/PKA経路を活性化させるとシナプス機能の回復がみられました。
▽さらに、化学遺伝学的試薬(DREADD/PSAM chemogenetics)により、シグナル伝達と興奮性を独立して制御することで、PKAによるシナプスの修復が、興奮に依存した折り畳み異常SOD1蛋白質による障害の減少と自食作用の促進をもたらすことがわかりました。その結果、運動神経細胞の興奮性の増加がシナプス構造の回復に寄与していることが明らかになりました。
▽以上の結果は、運動神経細胞の興奮性の低下は、ALSにおける初期の段階において存在する可逆的な現象であることを示唆しています。興奮性の亢進よりもシナプス後膜の障害がALSの病態悪化をもたらすといえるようです。
(この研究はフランス、Centre National de la Recherche ScientifiqueのBeczykらにより報告され、2020年8月3日付のJ Exp Med.誌に掲載予定です)
▽今回研究者らは、神経細胞に豊富なmiRNAであるmiR-183-5pが、ALSにおけるストレス暴露と細胞死プログラミングを結びつけていることを明らかにしました。
▽miR-183-5pはPDCD4とRIPK3を直接標的とすることでアポトーシスとネクロプトーシスの経路を調整し、ストレス下での細胞死から神経細胞を保護しています。
▽ALS患者やモデルマウスでmiR-183-5pの減少が確認されたことから、miR-183-5pはストレス条件下での運動神経細胞生存の中心的な制御因子である可能性があります。この結果はmiR-183-5pが有望なALSの治療対象となりうる可能性を示唆するものです。
(この研究は中国、 Sichuan UniversityのLiらにより報告され、2020年6月18日付のJ Cell Mol Med.誌に掲載されました)
▽抗酸化物質であるカフェインが、ALSモデルマウスから分離された運動神経細胞の正常な発育を促進することが確認されました。同様の結果は、体内のいくつかの化学反応において重要な補因子である酸化型ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD+)でも確認されました。
▽ALSにおいては活性酸素種の蓄積が病態に関与することを示唆する結果が報告されています。
▽同時に、細胞内の活性酸素濃度を低下させる補因子の一つであるNAD+と、NAD+産生に関与する酵素の一つであるニコチン酸モノヌクレオチドトランスフェラーゼ2(Nmnat2)が神経細胞の健康保持にとって重要であることも明らかになっています。
▽孤発性ALS患者とWobblerマウスの脊髄においてNAD+とNmnat2の両方が低濃度となっていることが報告されています。カフェインは強力な抗酸化物質として知られており、神経細胞のNmnat2レベルを増加させることが示されています。
▽カフェインとNAD+が運動神経細胞に及ぼす効果をより詳細に調べるために、研究者らは、20日齢と40日齢のWobblerマウスから運動神経細胞を分離しました。これらの神経細胞をカフェインとNAD+で処理し、効果を検証しました。
▽その結果、NAD+とカフェインの両方が運動神経細胞の神経突起の長さを増加させることがわかりました。未処理の細胞ではかなり短くなったままでした。また細胞培養液にカフェインを添加すると、20日齢と40日齢の動物から採取した運動神経細胞でNmnat2の産生が刺激されることが確認されました。
▽以上の結果は、カフェインはNAD+と同様にwobblerマウスのin vitroでの運動神経細胞の発達に治療的な効果を示すことを示唆しており、今後の治療法開発の一つの方向性となりうる可能性があります
引用元
https://alsnewstoday.com/2020/06/18/caffeine-oxidized-nad-bolsters-health-motor-neurons-of-als-mouse-model/