・今年最も注目されたのはBrainStorm社の幹細胞移植NurOwn細胞の第3相試験の進展でしょうか。来年にでも結果が判明する予定ですので結果が期待されます。アデノ随伴ウイルスベクターを用いた遺伝子治療、遺伝子編集技術についても着実な進展を感じます。
・年明け1月には日本での医師主導治験であるペランパネルの第2相試験の最初の結果が得られるなど、いろいろな動きがありそうです。
・今年は更新頻度が低下し、月末の1度のみとなってしまいましたが、これからもなるべく最新の情報をお届けできるように努めていきたいと思います(コメントへの返信が遅くなっておりすみません)
・どうぞ良い新年をお迎えください。来年も宜しくお願いいたします
管理人 HIDE
▽今回、研究者らは6塩基繰り返し配列由来poly GR蛋白質発現による運動機能障害を有するショウジョウバエモデルを用いて、病態を観察しました。遺伝子スクリーニングによりLilliputian活性の部分喪失によりpoly GR毒性は顕著に緩和されました。この作用は転写抑制によることがわかりました。
▽C9orf72遺伝子変異ALS患者由来iPS細胞から分化させた皮質神経細胞を用いて、CRISPR/Cas9により、AFF2/FMR2(哺乳類におけるLilliputian相同遺伝子)をノックアウトしたところ、ジペプチド繰り返し配列蛋白質発現やRNA凝集体の減少がみられ、軸索変性の抑制などが観察されました。
▽以上の結果は、AFF2/FMR2がC9orf72遺伝子変異ALSの病態発現において重要な役割を果たしており、治療ターゲットして有望な可能性を示唆するものです
(この研究は、アメリカ、University of Massachusetts のYuva-Aydemirらにより報告され、2019年11月29日付のNature Communications誌に掲載されました)
▽その結果、ベラパミル投与はSOD1変異ALSモデルマウスの有意な発症遅延効果、生存期間の延長効果をもたらしました。さらに運動神経細胞の生存延長や骨格筋変性阻害効果がみられました
▽同時にSOD1蛋白質凝集抑制と自食経路の改善効果が認められました。これらの効果はcalpain 1活性化の抑制を介したものであることが推測されました。
▽以上の結果は、ALSモデルマウスにおいてベラパミルが神経保護作用を有する可能性を示唆するものです
(この研究は中国、Shanghai Jiaotong UniversityのZhangらにより報告され、2019年12月1日付のAging and disease誌の掲載されました)
▽今回、研究者らはmuscleblind蛋白質がFUS遺伝子変異ALSの疾患修飾因子であることを明らかにしました。muscleblind蛋白質はFUS蛋白質の細胞質の局在化異常とそれに引き続くストレス顆粒の凝集体形成などをを制御していることが患者由来iPS細胞などを用いた実験により明らかになりました。
▽興味深いことに、muscleblind遺伝子を変異させたところ、変異FUS発現神経細胞におけるSMN(survival motor neuron )蛋白質の局在化を正常化させました。このことはmuslceblind遺伝子がFUS変異ALSに対する治療対象となりうる可能性を示唆するものです。FUS変異ショウジョウバエモデルにおいてSMN蛋白質の発現を亢進させたところ、FUS毒性が軽減しました。
▽以上の結果は、muscleblind蛋白質がFUS変異ALSの主要な疾患修飾因子であることを示唆するものです。
(この研究はアメリカ、University of Pittsburgh のCasciらにより報告され、2019年12月6日付のNature Communications誌に掲載されました)
▽今回研究者らはSOD1変異ALSモデルマウスにおいて、SaCas9-sgRNAをエンコードするアデノ随伴ウイルスベクターを注入し、治療的効果を検証しました。
▽その結果、モデルマウスの生存期間は54.6%延長し、運動機能の改善効果がみられました。変異SOD1蛋白質の発現量の低下も観察されました。
▽以上の結果はアデノ随伴ウイルスベクターを用いた遺伝子編集技術がSOD1変異ALSに対する治療法として有望な可能性を示唆するものです
(この研究は中国、The Second Hospital of Hebei Medical UniversityのDuanらにより報告され、2019年12月9日付のGene Therapy誌に掲載されました)
▽折り畳み異常蛋白質において小胞体ストレス応答/統合的ストレス応答が過剰亢進した場合、CHOP( CCAAT/enhancer-binding homologous protein)が活性化し、アポトーシスにつながります。
▽今回研究者らは、SOD1変異ALSモデルマウスにおいて、CHOPないしGADD34のノックダウンを行い、その影響を調べました
▽CHOP発現をアンチセンスオリゴヌクレオチドで阻害した場合、治療的効果は観察されませんでした。一方で、新生児期のSOD1変異ALSモデルマウスにGADD34ショートヘアピンRNAをエンコードしたアデノ随伴ウイルスベクター9型を注入したところ、生存期間の延長効果が確認されました。さらにSOD1凝集体やアストロサイト、ミクログリアの減少も観察されました
▽一方で成長後のモデルマウスに注入しても治療的効果はみられませんでした。
▽以上の結果は、小胞体ストレス応答/統合的ストレス応答を治療ターゲットすることがSOD1変異ALSに対する治療戦略として有望な可能性を示唆するものです
(この研究はアメリカ、University of Chicago Medical CenterのGhadgeらにより報告され2019年12月16日付のNeurobiology of Disease誌に掲載されました)
▽今回研究者らは、高カロリー脂質サプリ(405kcal/日)の有効性についてプラセボ対照で検証しました。201名のALS患者が対象となり、18ヶ月間追跡されました
▽その結果、28ヶ月間の追跡期間において高カロリー脂質サプリ投与は全体として生存期間の有意な延長をもたらしませんでした。しかしながら進行が急速なサブグループにおいては有意な生存期間の延長効果がみられました
▽現在、より高カロリーのサプリを用いた臨床試験が実施予定であり、今後のさらなる効果の検証が期待されます。
(この研究はドイツ、University of UlmのLudolpHらにより報告され、2019年12月17日付のAnnals of Neurology誌に掲載されました)
▽今回、研究者らは軟膜下にウイルスベクターを注入する技法を開発し、脊髄全域に対してアデノ随伴ウイルスベクターを注入することに成功しました
▽発症前のSOD1変異ALSモデルマウスに対して、SOD1遺伝子の発現を阻害するshRNAをコードしたアデノ随伴ウイルスベクター9型を軟膜下に単回投与したところ、長期間におよぶ発症抑制効果と運動神経細胞の保持作用を認めました。
▽発症後のモデル動物に投与した場合においても病態進行阻害作用と運動神経保持作用がみられました。軟膜下投与の有効性はブタなどその他の動物においても確認されました
▽今後、アデノ随伴ウイルスベクターの軟膜下投与がALS治療法開発において有望な治療戦略となりうることが期待されます
(この研究は、アメリカ、University of California San DiegoのBravo-Hemandezらにより報告され、2019年12月23日付のNature Medicine誌に掲載されました)
▽MediciNova社が第30回国際ALS/MND会議で公表した結果によると、ibudilastは発症後18ヶ月以内のより早期の患者においてより有効である可能性を示唆する結果が得られたとのことです。
▽ibudilastは神経炎症に関与するPDE4,PDE10、MIF阻害薬であり、神経栄養因子を増加させることが基礎実験で示されており、ALSに対する治療的効果が期待されています。
▽51名のALS患者を対象とした第2相試験の解析結果において、6ヶ月間の介入期間において、全体としてのALSFRS-Rの変化量については、重症度の個人差が大きかったためプラセボとの有意差は示されませんでしたが、発症600日以内の患者群においては、ibudilastはプラセボと比較して進行遅延効果を有する可能性を示唆する結果が得られたとの事です。
▽現在第3相試験が実施中であり、結果が期待されます
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/12/13/ibudilast-most-effective-in-people-with-short-history-of-als-analysis-suggests/
▽Amylyx社のALS治療薬候補であるAMX0035は、第2相試験が実施中ですが、進行の速い患者においてプラセボと比較して有意な病態進行遅延効果がみられたことが明らかになりました
▽AMX0035はタウロデオキシコール酸とフェニル酪酸ナトリウムの合剤で、小胞体やミトコンドリア機能改善により病態改善効果が期待されています。
▽24週間のプラセボ対照二重盲検試験終了後、オープン期間に移行し、患者は任意のオプションで投薬延長を希望することが可能となっていましたが、90%ほどのほとんどの参加者が投薬延長を希望したとのことです。
▽結果の詳細は今後学会などで公表予定となっています
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/12/18/amx0035-significantly-slows-disease-progression-in-als-phase-2-study-shows/
・150名のALS患者を対象にオープン試験で、48週間投与され安全性や有効性が検証される予定です。
・既にこちらの記事(http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-1795.html)でもご紹介したものです
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04165824
・15名のALS患者を対象に、オープンで909mg/日のシプロフロキサシン+セレコキシブ合剤が投与され、15ヶ月間で副作用などが検証される予定です
・セレコキシブはcox-2阻害薬であり、抗炎症作用によりALSに対する有効性が期待されています。過去に行われた大規模臨床試験では明らかな有効性が確認できませんでした。中枢神経移行性が不十分であったのではないかなどがその理由とし
て考察されています。今回は合剤での再検証ということになります
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04165850
・20名のALS患者を対象にオープン試験で5つの異なる用量のBLZ945が投与され17-22日間でPETによるミクログリア活性の変化や薬物動態などが検証される予定です。
・BLZ945はCSF-1受容体キナーゼ阻害薬であり、ミクログリア活性化などを抑制し、抗炎症作用により治療的効果が期待されています
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04066244
・20名のALS患者を対象にプラセボ対照で400mgのトコトリエノールが24週間投与され、有効性、安全性など検証される予定です
・トコトリエノールは抗酸化作用によりALSに対する有効性が期待されています
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04140136
・64名のALS患者を対象に、プラセボ対照で、脂質(405kcal/日ないし810kcal/日)ないし炭水化物+脂質+蛋白質(計900kcal)を含む3種類の食事サプリが投与され、single blindで4週間、安全性、バイオマーカーなどが検証されます。
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04172792
・24名のALS患者を対象にオープン試験で28日間オキサロ酢酸1000mg/日から5000mg/日の異なる用量が投与され、安全性やバイオマーカーの変化などが検証される予定です
・オキサロ酢酸はグルタミン酸産生を減少させ、神経細胞の興奮毒性を減弱させることにより、治療的効果を発揮することが期待されています
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04204889