▽低酸素部位に集積する性質を利用したPET用製剤であるCu-ATSMが、孤発性ALSモデルマウスにおいて神経保護的な作用を有することが報告されました
▽Cu-ATSMは細胞内銅濃度を増加させる機能を有し、SOD1変異ALSモデルマウスにおいて顕著な治療的効果を有することが報告されています。SOD1蛋白質は銅イオンを正常な折り畳み構造を保持するために利用しています。
▽Cu-ATSMにより細胞内銅イオン濃度を制御することにより、SOD1蛋白質が折り畳み異常を起こすことを防ぎ、治療的に作用すると考えられていますが、正確な作用機序はよくわかっていません。
▽今回、研究者らはBSSGと呼ばれる神経毒を用いた方法により孤発性ALSと類似した病態を生じさせ、Cu-ATSM投与による影響を調べました
▽その結果、Cu-ATSM投与は、BSSGによる神経細胞残存数の割合を、対照群の63%から15%に減少させました。また活性化したミクログリア数もBSSG投与により対照群と比較して、53%増加がみられましたが、Cu-ATSM投与によりその数字が41%まで減少しました。
▽Cu-ATSM投与は中枢神経の炎症を減弱させ効果を有することを示唆しています。現在臨床試験も進行中であり、結果が期待されます
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/06/26/copper-atsm-may-have-therapy-potential-non-genetic-als-mouse-model-suggests/
▽AB Science社のALS治療薬候補であるmasitinibのプロトコルを修正した第3相試験の開始が、欧州医薬品局の承認を得ました
▽Masitinibはチロシンキナーゼ阻害薬であり、肥満細胞やミクログリアなどの免疫細胞の活性を抑制することで、抗炎症作用を発揮し、治療的効果が期待されています。
▽AB Science社は2016年に第2/3相試験の結果をもって欧州医薬品局に承認申請を行いましたが、結果の信頼性などに問題があり、申請が却下された経緯があります。そのためAB Science社は臨床試験の方法を見直し、新たな第3相試験を開始することとしました。
▽この試験では500名のALS患者が対象となり、2019年後期に開始予定となっています
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/06/11/ab-science-masitinib-study-test-oral-treatment-mildly-severe-als-ems-validated/
▽ALSモデルマウスの神経細胞において、メンブラリン蛋白質濃度が減少すると、グルタミン酸濃度上昇につながり、細胞死を引き起こすことが明らかになりました
▽メンブラリン蛋白質濃度が回復するように遺伝子治療を行うと、モデルマウスの生存期間が延長しました。メンブラリンは、蛋白質の品質コントロールシステムにおいて重要な、小胞体関連分解系を構成する蛋白質であることがわかっていました。凝集体など異常な蛋白質を除去するために重要な役割を果たしています
▽メンブラリン蛋白質がアストロサイトにおいて特異的に欠損すると、運動神経細胞死が生じました。またメンブラリン欠損は、アストロサイト周囲におけるグルタミン酸の蓄積をもたらしました。またグルタミン酸トランスポーターであるEAAT2の減少も観察されました。
▽これまでメンブラリンは、ALSの病態との関連性は報告されておらず、今後の新たな治療戦略に通じる可能性があります
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/06/12/restoring-levels-membralin-protein-may-extend-survival-als-mouse-study-suggests/
▽MediviNova社は同社のALS治療薬候補であるibudilastについて、第2b/3相試験を開始しました。まもなく患者募集開始予定となっています
▽発症18ヶ月未満でALSFRS-Rにおいて35点以上のALS患者150名が対象となる予定です。リルゾール併用下において行われ、投薬群では100mg/日が9ヶ月間投与される予定です。
▽ibudilastは日本および韓国で販売済みの薬剤ですが、PDE4およびPDE10を阻害することにより神経栄養因子を増加させ、免疫細胞の活性を減弱させることで神経保護作用を発揮することが期待されています。
▽第2相試験では良好な結果が報告されており、今回の第3相試験も結果が期待されます
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/06/07/enrollment-starting-soon-in-phase-2b-3-trial-of-ibudilast-for-als/
・18名のALS患者を対象にAP-101静注の安全性が確認される予定です。AP-101はAL-S Pharma社が開発した薬剤であり折り畳み異常SOD1蛋白質に対するヒトモノクローナル抗体です
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03981536
▽しかし隠れエクソンの抑制の障害が、どのように神経変性につながるのかはよくわかっていません。今回研究者らは、TDP-43欠損神経細胞を用いて、トランスクリプトーム解析を行い、自食作用において重要なATG7遺伝子発現が減弱していることをみいだしました。
▽TDP-43欠損モデルマウスおよびショウジョウバエにおいては、加齢依存性の神経変性が生じ、ATG7の減少と、SQSTM1/p62封入体が観察されます。
▽遺伝子的に自食経路を活性化させると、運動機能障害の改善と生存期間の延長が観察されました。
▽以上の結果は、TDP-43蛋白症においてはATG7減少を通じて自食経路が障害されており、自食経路を活性化させることが治療的に働く可能性があります
(この研究は、アメリカ、Johns Hopkins University School of MedicineのDondeらにより報告され、2019年6月26日付のAutophagy誌に掲載されました)
▽今回、研究者らは、TDP-43のRNA結合ドメインをターゲットとすることにより、細胞毒性を減弱しうるかどうか検証しました。
▽その結果、TDP-43のRNA結合ドメイン(RRM)に結合する小分子としてrTRD01が同定されました。rTRD01は、TDP-43蛋白症ALSショウジョウバエモデルにおいて、TDP-43のRRM1およびRRM2に結合し、部分的にTDP-43とC9orf72遺伝子由来の6塩基繰り返し配列RNAとの相互作用を減弱させました。また、運動機能の改善が観察されました
▽以上の結果は、TDP-43のRNA結合ドメインをターゲットとする小分子が治療的に有用な可能性があることを示唆するものです。
(この研究は、アメリカ、University of ArizonaのFrancois-Moutalらにより報告され、American Chemical Society chemical biology誌に掲載されました)
▽これまでに研究者らは、ブラジル産グリーンプロポリス(EBGP)のエタノール抽出物がSOD1変異による神経毒性に対して保護的に作用することを報告しています。
▽今回、EBGPに含まれる活性成分である、p-クマル酸が変異SOD1蛋白質による神経毒性にどのような影響を与えるかを調べました。その結果、p-クマル酸は変異SOD1蛋白質の凝集体を減少させ、神経毒性を減弱することがわかりました。また、変異SOD1由来の酸化的ストレスおよび小胞体ストレスを減少させることがわかりました
▽このような作用はp-クマル酸が自食抑制作用を有するchloroquinを抑制することにより、自食経路が活性化することにでもたらされることがわかりました。
▽以上の結果は、p-クマル酸がSOD1変異ALSにおいて治療的に有用な可能性を示唆するものです
(この研究は、岐阜薬科大学のUedaらにより報告され、2019年6月16日付のInternational journal of molecular sciences誌に掲載されました)
▽一方、合成プロゲスチンであり、プロゲステロンよりも親和性が高いノルエチステロンのWobblerマウスへの影響はよくわかっていません。ノルエチステロンは、経口避妊薬やホルモン療法として臨床的に使用されています。今回、研究者らはWobblerマウスに対してノルエチステロンを投与し、その影響を調べました
▽2ヶ月齢のWobblerマウスに対して20mgのプロゲステロンないし1mgのノルエチステロンが18日間投与されました。プロゲステロン投与は神経変性を抑制しました。一方で、ノルエチステロンは脊髄において炎症促進性のIBA1+ミクログリアを増加させ、RAGE mRNAを増加させ、NADPHジアホラーゼを増加させました。また、筋萎縮や運動機能低下がみられました。
▽以上の結果は、プロゲスチンのタイプにより、神経保護作用が全く異なることを示唆しており、今後の臨床研究において重要な視点となります。
(以上の結果は、アルゼンチン、Instituto de Biologia Medicina Experimental-CONICETのGargiulo-Monachelliらにより報告され、2019年5月28日付のThe Journal of steroid biochemistry and molecular biology誌に掲載されました)
▽脊髄損傷モデルマウスへのrAAV1-HGFの単回投与により、腰髄中におけるHGF濃度は14日後に最高値となり、その後14週間にわたって漸減しました。移植後に筋力の改善と運動機能の改善がみられました。また再生軸索長の延長や神経筋接合部構造の保持が認められました。
▽SOD1変異ALSもデルマウスへの同様の投与によっても、運動機能の改善と生存期間の延長効果が認められました。
▽細胞モデルでの実験では、HGF投与の効果は、ERK阻害薬と同時に投与した場合に阻害され、HGFの効果はERKリン酸化により発揮されることが示唆されました。
▽以上の結果は、HGFがSOD1変異ALSモデルマウスにおいて、ERKリン酸化を通じた酸化的ストレス減弱作用により治療的効果を発揮することを示唆するものです。
(この研究は、韓国、 Seoul National UniversityのLeeらにより報告され、2019年6月12日付の Acta Neuropathol Commun誌に掲載されました)
▽今回、研究者らは、cdk4/p25過剰活性化を抑制することが、神経保護的に作用するのではないかとの仮説を、SOD1変異ALSモデルマウスにおいて、CIP(cdk5抑制ペプチド)過剰発現させることにより検証しました。
▽その結果、CIP過剰発現により、運動機能障害が改善し、生存期間の延長が確認されました。以上の結果は、CIPが治療ターゲットとなりうる可能性を示唆するものです。
(この研究は、アメリカ、National Institutes of HealthのBinukumarらにより報告され、2019年6月12日付のHuman Molecular Genetics誌に掲載されました)
▽実際、高炭水化物食はTDP-43蛋白症グリア細胞モデルにおいて生存期間延長効果などが確認されていますが、筋肉細胞ではこのような効果は確認されていません。このことは糖代謝異常が中枢神経で生じていることを示唆するものです。
▽運動神経細胞におけるヒトグルコーストランスポータ GLUT-3の過剰発現は、シナプス小胞の再利用障害などの改善をもたらします。
▽さらに、解糖系の主要な指標であるPFK mRNAはTDP-43蛋白症モデルショウジョウバエや患者iPS細胞由来運動神経細胞において、過剰発現がみられています。PFKを過剰発現させると、TDP-43蛋白症による運動障害を改善しました。
▽以上の結果は、補償的メカニズムにより、解糖系がALSモデル動物の運動神経細胞において亢進していることを示唆しており、糖利用効率を改善することが神経保護的に作用する可能性があります
(この研究は、アメリカ、University of ArizonaのManzoらにより報告され、2019年6月10日付のElife誌に掲載されました)
▽第2b相試験の行われているH.P. Acthar Gelですが、210名の予定のうち半分の患者のエントリーが終了したことが公表されました
▽この臨床試験は、18-75歳までで、発症から2年までの患者が対象となり、アメリカ、カナダ、メキシコなどの国で行われています。
▽36週間にわたり、H.P. Acthar Gel 0.2ml皮下注ないしプラセボが投与され、治療的効果が検証されます。H.P. Acthar Gelは副腎皮質刺激ホルモンであり、抗炎症作用や神経保護作用により治療効果が期待されています。2020年中の試験終了が予定されています。
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/06/25/phase-2-trial-testing-h-p-acthar-gel-als-enrolls-half-still-recruiting/
▽European Journal of Clinical Nutrition誌に、ビタミンDサプリはALSの運動機能障害において治療的効果がみられないことが報告されました。
▽基礎実験において活性化ビタミンD3は、酸化的ストレスや炎症などから神経保護作用を有する可能性が報告されていました。
▽ALSモデルマウスにおいて、ビタミンD3投与が運動機能の改善などに効果を発揮することが報告されています。
▽これまでに、2000単位のビタミンDを9ヶ月間投与する臨床試験が行われました。その結果、高用量のビタミンD投与に治療的な効果は観察されませんでした。
▽今回、イタリアの研究者らが、活性化ビタミンD3の血中濃度が低い(<30ng/ml)ALS患者を対象として、ビタミンD投与を行い、治療的効果を検証しました。48名の患者を対象に、50000単位/月ないし75000単位/月ないし100000単位/月の活性化ビタミンD3投与が6ヶ月間行われました。
▽その結果、運動機能などにおいて、有意な改善効果はみられませんでした。ビタミンDは欠乏を避けるため、適量の摂取は望ましいとされますが、過剰摂取に利益がなく、むしろ有害となりうる可能性に注意が必要です。
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/06/20/vitamin-d-supplements-cannot-prevent-motor-function-decline-in-als/
▽Cedars-Sinai Medical Centerの研究者らは、Organ-Chip technologyを用いて、血液脳関門の再構築に成功しました。このことにより患者特異的な治療法開発に向けて一歩前進しました。
▽ALSにおいては血液脳関門の異常が報告されています。研究者らは、構造的のみならず機能的にも同等の患者個人のiPS細胞由来の血液脳関門を作成しました。iPS細胞を用いて、血液脳関門を構成する神経細胞、血管腔、支持細胞などを生成し、さらにorgan-chipsを用いて機能的となるように配置させることに成功しました。
▽この技術を用いることにより、患者特異的な薬物のスクリーニングが可能となり、今後の治療薬開発が進展することが期待されます。
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/06/13/scientists-use-patient-cells-chip-technology-to-re-create-blood-brain-barrier-defects/