▽ハーバード大学の研究者らがNature Neuroscience誌に公表した研究結果によると、核内からのTDP-43の喪失がstathmin2(STMN2)とよばれる蛋白質の減少をもたらし、運動神経細胞死につながる可能性があることがわかりました
▽ALSにおいては核蛋白質であるTDP-43の細胞質内への異常局在化がみられます。今回研究者らは、iPS細胞を用いて、ヒト運動神経細胞を分化誘導し、その後TDP-43遺伝子をノックダウンしてRNA-sequencingと呼ばれる技術によりRNA発現量の変化を調べました
▽その結果、885種類のRNAの発現量の変化が観察されました。そのうち、主に神経細胞において豊富に存在し、神経成長や神経変性疾患に関与しているRNAに着目しました。
▽その結果、神経成長や神経修復に関与しているSTMN2が抽出されました。STMN2単独の喪失によってもTDP-43喪失と同様の変化(軸索成長の阻害など)が観察されました。
▽STMN2は運動神経細胞の正常な成長や修復に重要であり、孤発性ALS患者の脊髄では有意な減少が観察されました
▽さらに、研究者らはTDP-43除去細胞において、STMN2濃度を保持するためJNK阻害薬であるSP600125を投与したところ、STMN2濃度が保持され、軸索成長も保持されました。
▽以上の結果は、STMN2濃度を保持することにより、TDP-43による病態の一部が改善しうる可能性があることを示唆しており、今後の治療法開発が期待されます
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/01/18/rescuing-levels-stmn2-potential-new-therapy-als-harvard-study/
▽銅錯体であるCuATSMの第1相試験の中間解析結果が12月に行われた国際ALS/MNDシンポジウムにて公表されました
▽CuATSMは低酸素状態にあるミトコンドリアに対して選択的に銅イオンを供給するといわれています。動物実験においてSOD1変異ALSモデルマウスの生存期間を大幅に延長し話題となりました
▽2016年にCollaborative Medicinal Development(CMD)が最初のヒトに対するCuATSMの臨床試験を開始しました
▽この試験はオープン試験で3つの段階にわかれており、最初の2段階で安全な至適用量が確認され、その後3段階目で忍容性、有効性などが確認されました
▽その結果、孤発性ALS患者において24週間投与した場合のALSFRS-Rの変化率は-0.29点/月であり、過去の臨床試験などから予測される-1.02点/月よりも有意に良好な変化率となりました
▽また、24週間の努力性肺活量の変化率は+1.1%/月(予測は-2.24%/月)、認知機能尺度(ECAS)についても+10点(予測は変化なし)であり、。いずれも有意に良好な結果であったとのことです
▽また、低用量のCuATSM投与群では高用量群より効果が乏しく、効果に用量依存性を認めました
▽CMDは現在プラセボ対照試験の実施を予定しています
▽研究者らは、CuATSM投与と銅摂取とを混同しないよう注意喚起しており、銅摂取は比較的少量でも有毒となりうることに注意すべきとしています。
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/01/10/cuatsm-may-slow-als-progression-improve-cognition-respiration-phase-1-trial/
▽プラセボ対照で32名を対象に、4ヶ月間で安全性や有効性が評価されました
▽その結果、プラセボ群と比較してEH301投薬群においては、ALSFRS-R尺度は有意に良好であり、肺機能や筋力などについても有意に良好な結果でした。予備的な結果ですが、EH301はプラセボ群と比較して有意にALSの進行を遅延させたとの結果が得られました。
▽今後さらに大規模な試験により有効性の検証が期待されます
(この研究はスペイン、Catholic University San Vicente Mártirのde la Rubiaらにより報告され、平成31年1月22日付のAmyotrophic lateral sclerosis and frontotemporal degeneration誌に掲載されました)
▽最新号のPNAS誌に公表された研究結果によると、T細胞より惹起された免疫応答がALSにおける神経細胞死に関与している可能性があるとのことです
▽ALSにおいては、異常に活性化したグリア細胞により惹起された神経炎症などの病態が観察されます。これまでのモデルマウスにおける動物実験では、CD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞の2種類の免疫細胞の浸潤が報告されていました
▽CD4陽性T細胞は、ALSにおいては神経保護作用の観点から注目されてきました。一方でCD8陽性T細胞の機能はよくわかっていませんでした。
▽今回研究者らはALSの病態におけるCD8陽性T細胞の機能に着目しました。その結果、モデルマウスにおいては病態進行期においてCD8陽性T細胞の中枢神経への浸潤がみられ、CD8陽性T細胞を除去したところ、運動神経細胞死の有意な減少がみられました
▽さらにCD8陽性T細胞はMHC-I複合体を介して運動神経細胞を相互作用を行い、運動神経細胞を攻撃することがわかりました
▽また、活性化したCD8陽性T細胞はIFN-γを産生し、その結果運動神経細胞の細胞膜にMHC-I複合体の発現が誘導されることがわかりました
▽以上の結果は、CD8陽性T細胞がALSの病態に関与していることを示唆しており、今後CD8陽性T細胞をターゲットとした治療法の探索が期待されます
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/01/29/immune-response-at-the-root-of-motor-neurons-death-in-als/
▽ALSや脳卒中などで声を失った人の声を取り戻すための新たなアルゴリズムが、コロンビア大学の研究者らにより開発されました
▽Scientific Reports誌に掲載された論文によると、音声合成装置と人工知能のアルゴリズムを組み合わせることにより、脳波から声を構成することが可能になるかもしれないとのことです
▽5名のてんかんにより脳外科手術を受けた患者に対して、上側頭回などの脳表脳波測定を行い、いくつかの文章や数字を繰り返し聴取した際の脳波パターンが深層学習アルゴリズムにより解析されました。
▽その後、患者に0から9までの数字を暗唱させ、その際の脳波から音声を合成したところ、75%の正確性で再現することができたとのことです。
▽このような正確性はこれまでのどの音声合成技術より優れているとのことで、今後の進展が期待されます
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/01/30/columbia-team-closer-to-give-voice-to-those-who-cannot-speak/
・プラセボ対照で、ペランパネル4mgないし8mgを単回投与し、その4時間後にtDCSにより興奮閾値がどう変化したかが検証されます
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03793868
・第2相試験までで良好な結果がでているだけに、今回の第3相試験の結果も期待されます
・440名を対象に、プラセボ対照で1日2gのタウロウルソコール酸が投与され、18ヶ月間経過観察されます
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03800524
・FasudilはALSモデルマウスでの動物実験において、神経保護作用と生存期間延長効果などが報告されています
・プラセボ対照で120名を対象に、投薬群では20日間、2種類の異なる用量のfasudilが連日静注され、合計6ヶ月間経過観察される予定です
引用元
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03792490
▽QurAlis社からALS治療法開発部門がEnClear社として独立することが公表されました。
▽EnClear社は神経変性疾患における有害蛋白質を中枢神経から除去する治療法を開発しています
▽ALSにおいてはC9orf72変異家族性ALSが対象となっており、この遺伝子変異から産生される有害蛋白質を髄液中から除去するデバイスを開発中です。
▽今後2年間において治療法を開発し、実用化したいとしています
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/01/09/enclear-developer-device-slow-als-spins-out-of-quralis/
▽Axon-seqと呼ばれる新しい技術により、運動神経軸索におけるmRNA発現状況のより詳細な解析が可能となりました
▽今回、研究者はAxon-seqを用いて、ALS運動神経において121種類のmRNAの発現が異常を来していることをStem Cell Reports誌に報告しました
▽ALSの病態においては、運動神経細胞変性に先立って、神経筋接合部の障害が起こることがしられています。
▽スウェーデンのカロリンスカ研究所の研究者らは、SOD1変異ALS運動神経細胞を用いて、軸索におけるmRNAの発現状況を健常者と比較しました
▽その結果、121種類のmRNA発現量が減少しており、その中にはNrp1,Dbn1,Nek1遺伝子由来のmRNAが含まれており、Nrp1発現量の減少は神経筋接合部機能異常につながることがわかっています。
▽これら発現異常を呈している遺伝子をターゲットとすることにより、治療法開発につながることが期待されています
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/01/04/axon-seq-lets-researchers-better-analyze-mrnas-in-study-of-als/
▽SIRON Biotech社とDenali Therapeutics社がALSなど神経変性疾患の治療に用いるための新たなアデノ随伴ウイルスベクターの開発のため提携することを公表しました
▽両社は、アデノ随伴ウイルスベクターのカプシド(ベクターの殻)のライブラリーのスクリーニングや加工を通じて、より特異的かつ効率的に中枢神経に遺伝子を送り込むことができるウイルスベクターを開発したいとしています
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/01/28/sirion-biotech-denali-therapeutics-sign-licensing-agreement-aav-gene-therapies-als/
▽徳島大学と静岡大学の研究者らにより、発症早期(1年未満)のALS患者に対する超高用量ビタミンB12投与が、ALSの病態を改善する可能性があることがわかりました。この研究結果はJournal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry誌に公表されました。
▽発症後1-3年の患者については全体として有意な効果は観察されませんでした。
▽ビタミンB12は中枢神経の機能保持に重要な役割を果たしており、日本などでは末梢神経障害治療薬として保険承認されています
▽動物実験ではビタミンB12投与がモデルマウスの病態を改善することを示唆する結果が得られています
▽超高用量ビタミンB12の第2/3相試験は373名の患者を対象に施行されました。ビタミンB12は25mgないし50mgが週に2回筋注され、試験期間は3.5年に及びました
▽全体として有意な結果を示すことはできませんでしたが、事後解析により、発症早期の患者については病態改善効果を有する可能性があることがわかりました。また効果については用量依存性を示しました。
▽以上の結果は早期診断の重要性と、早期からのビタミンB12投与が治療的に有望な可能性を示唆するものであり、今後の臨床試験の進展が期待されます。
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/01/17/high-dose-vitamin-b12-helpful-early-diagnosis/
▽その結果、生存期間の延長、発症遅延効果、運動機能の保持効果などがモデルマウスにおいて観察されました
▽作用機序は不明なものの、5-フルオロウラシルないしその類似化合物がALSに対して治療的効果を有する可能性を示唆するものであり、今後の研究の進展が期待されます
(この研究は、スペイン、, Universidad de ZaragozaのRandoらにより報告され、平成31年1月14日付のPLoS One誌に掲載されました)
▽研究者らはC9orf72遺伝子変異ALS患者より線維芽細胞を採取し、アストロサイトに分化誘導しました。
▽その結果、患者由来アストロサイトにおいてアデノシンデアミナーゼの減少によるアデノシンからイノシンへの脱アミノ化の減少がみられることが明らかになりました。
▽健常アストロサイトにおいてアデノシンデアミナーゼを抑制すると運動神経細胞毒性が増加し、患者由来アストロサイトと同様の状況がみられました。
▽イノシン補給により、アデノシンデアミナーゼ欠損を補うと、細胞モデルにおいて、アストロサイトによる運動神経細胞毒性が減弱しました。
▽以上の結果は、アデノシンデアミナーゼ濃度の回復とイノシン補充がALS治療法として有望な可能性があることを示唆するものです。
(この研究はイギリス、University of SheffieldのAllenらにより報告され、平成31年1月29日付のBrain誌に掲載されました)
▽アメリカ筋ジストロフィー協会はAcuraStem社のALS治療法開発に対して30万ドルの資金供与を行うことを公表しました
▽AcuraStem社はALS治療法開発のため患者由来iPS細胞を用いて人工知能の技術により治療薬の探索を行っています。
▽同社はこれまでに、C9orf72遺伝子変異ALSにおいて、特定の蛋白質をターゲットすることにより病態改善効果が期待できる可能性を細胞実験でみいだしています。
▽また同社のALS治療薬候補であるAS-1は前臨床試験で良好な結果が報告されており、今後の臨床試験実施が期待されています
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/01/16/mda-grant-supports-acurastem-als-therapy-program/
・ALS NEWS TODAYの1月2日付記事からです
第10位:NurOwn細胞とmiRNAの関連について
▽4月17日付記事が10位となりました。
▽NurOwn細胞移植の第2相試験について、エントリーされた48名の患者について、治療効果がみられた患者群においては、神経保護作用と関連するmiR-34a、miR-132,miR-19などのmicroRNA量が髄液中で増加していることが確認され、治療効果が乏しい群では増加していなかったとのことです。
第9位:3社がALS治療法開発のためQurAlis社を設立
▽4月6日付記事が9位となりました。
▽MP Healthcare Venture Management (MPH)、 Amgen VenturesおよびAlexandria Venture Investmentsの3社が共同でQurAlis社を設立しました
▽MPHは田辺三菱製薬の子会社であり、その他ハーバード大学の研究者らがこのプロジェクトに関与するとのことです
第8位:カナダでエダラボンが承認
▽4月11日付記事が第8位となりました
▽2017年にアメリカで承認されたエダラボンですが、カナダでも承認されました
第7位:イブジラストの第2相試験で良好な結果
▽7月11日付の記事が第7位となりました
▽当ブログにおいてもこちら(http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-1537.html)で記事となっています
第6位:エダラボンと倫理的課題
▽1月18日付記事が第6位となりました
▽Houston Methodist HospitalのYeoらは、エダラボンは承認の際に大きな注目を集めたものの、実際に臨床試験でエダラボンの有効性が示されたのは一部の患者群(発症初期の群)に限られていることなどを指摘し、同時に長期的有効性やQOLに与える影響などはまだわからないこと、費用がとてもかかることなどを指摘しています。
第5位:AT-1501の臨床試験が開始
▽12月3日付の記事が第5位となりました
▽こちらの記事(http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-1612.html)にもあるようにAT-1501は抗CD40L抗体であり、ALSではCD40Lが過剰発現し、神経変性に関与していることが報告されています。
第4位:神経幹細胞移植の第1/2相試験
▽5月8日付記事が第4位となりました
▽Neuralstem社の神経幹細胞NSI-566の第1/2相試験の事後解析結果が公表されました(http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-1501.html)。
▽幹細胞移植を受けた20名の患者について、PRO-ACTデータベースから抽出したプラセボ群の24ヶ月間での機能尺度の変化量を比較したところ、有意に良好な結果が得られたとのことです
第3位:Kadimastem社の幹細胞移植が患者募集開始
▽6月11日付記事が第3位となりました(http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-1523.html)
▽胎児由来幹細胞からアストロサイトへ分化しうる幹細胞であるAstroRx移植の臨床試験が開始となっています
第2位:Ibudilastの第3相試験開始をFDAが承認
▽9月27日付記事が第2位となりました(http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-1579.html)
▽MediciNova社のALS治療薬候補であるibudilastについて、FDAが第3相試験の開始について承認しました。第2相試験までは良好な結果が報告されています
第1位:Ropiniroleが治療薬候補に
▽8月31日付記事が第1位となりました
▽慶應義塾大学での孤発性ALS患者由来iPS細胞を用いた研究結果によるものです。これまでALSの治療薬候補はSOD1変異ALSモデルマウスや、TDP-43蛋白症モデル動物などを用いて探索されてきました。今回の新しい点は孤発性ALS患者由来iPS細胞を用いて治療薬候補が探索された点です。今後の臨床試験の進展が期待されます
引用元
https://alsnewstoday.com/2019/01/02/top-10-als-stories-of-2018/