▽progranulin変異とTDP-43蛋白症の関連性はよくわかっていません。TDP-43封入体は、同時にしばしばFUS陽性でもあります。
▽TDP-43ないしFUSはいずれもALSの病因となることがしられています。今回、研究者らはゼブラフィッシュ胎児神経細胞を用いて、progranulinとTDP-43およびFUSの相互作用について調べました
▽progranulin遺伝子除去は、運動神経細胞の正常な成長の阻害をもたらしました。ヒト変異TDP-43および変異FUS遺伝子を導入すると、運動神経細胞障害がもたらされ、この障害はヒトprogranulin mRNAを同時に発現させることにより緩和しました
▽progranulinはTDP-43およびFUS変異による運動神経細胞障害を覆すことができる可能性があり、今後の治療的応用が期待されます
(この研究は、カナダ、Royal Victoria HospitalのChirtramuthuらにより報告され、平成29年3月30日付のPLoS One誌に掲載されました)
▽現在、異常RNAの作用をアンチセンス・オリゴヌクレオチドや小分子で阻害しようとする試みが研究されています
▽このような治療法を実現するにあたって、有用な治療的なバイオマーカーがないことは、治療法の実現にとって障壁となります
▽今回、研究者らは、異常RNAから生成するpoly-GP蛋白質がそのようなバイオマーカーとなりうるかどうか、検証しました
▽poly-GP蛋白質は、C9orf72遺伝子変異ALS患者の髄液中および末梢血単核球から検出されました。さらに発症前のC9orf72遺伝子変異キャリアからも検出されました
▽患者由来細胞もしくはC9orf72遺伝子変異ALSモデルマウスを、アンチセンス・オリゴヌクレオチドで治療したところ、細胞内および細胞外poly-GP蛋白質は減少しました
▽この減少は、異常RNAの減少および病態の改善と一致しました。以上の結果は、poly-GP蛋白質がC9orf72遺伝子変異ALSにおいて、治療法開発のためのバイオマーカーとなりうることを示唆するものです
(この研究は、アメリカ、Mayo ClinicのGendronらにより報告され、平成29年3月29日付のScience translational medicine誌に掲載されました)
▽今回研究者らは、6塩基繰り返し配列の開始コドンを介さない蛋白質翻訳から生じうる、5種類のジペプチド繰り返し蛋白質について調べました。
▽その結果、疎水性のジペプチド繰り返し蛋白質であるpoly-GA、poly-GPおよびpoly-PA蛋白質は、細胞から細胞へと伝播することがわかりました。
▽さらに、poly-GA蛋白質は、核内RNA凝集体を患者由来細胞において生成しうることがわかり、poly-GA蛋白質が病態促進作用を有する可能性が示唆されました
▽また細胞内poly-GA蛋白質凝集を阻害しうる抗GA抗体を用いることにより、患者由来抽出物における異常蛋白質凝集が阻害されることがわかりました
▽以上の結果は、C9orf72遺伝子変異ALSにおいて、抗GA抗体が治療的に有望な可能性を示唆するものです
(この研究は、ドイツ、German Center for Neurodegenerative Diseases のZhouらにより報告され、平成29年3月28日付のEMBO molecular medicine誌に掲載されました)
・東京医科歯科大学などの研究グループは、脊髄小脳変性症と、ALSとでは、特定のRNA結合蛋白質のバランスの破綻が病態につながり、バランスを補正することが治療的に有効な可能性があることをみいだしました
引用元
http://www.amed.go.jp/news/release_20170324.html
・今後の治療法開発につながることが期待されます
▽今回、研究者らはTDP-43蛋白症モデル動物を用いて、ミトコンドリア機能異常が病態に果たす役割について調べました
▽TDP-43過剰発現ショウジョウバエモデルにおいては、神経細胞において異常に小さいミトコンドリアが観察されます。またミトコンドリアの断片化はmitofusin/marf蛋白質(mitofusinはミトコンドリア膜に結合するGTP結合蛋白質のことで、marfと同義語)の発現減少と相関しています
▽Marf蛋白質を過剰発現させると、TDP-43蛋白症ハエモデルの運動機能の改善がみられ、神経筋接合部機能についても改善がみられました。
▽以上の結果は、mitofusin/marf遺伝子の活性化がTDP-43蛋白症において治療的に作用する可能性を示唆するもので、今後の臨床的応用が期待されます
(この研究はフランス、Aix-Marseille UniversitéのKhalilらにより報告され、平成29年2月27日付のNeurobiology of Aging誌に掲載されました)
▽Genervon社のALS治療薬候補であるGM604の第2A相臨床試験の結果が、F1000Reasearch誌に公表されました
▽GM604の作用機序は複数の経路におよび、SOD1発現を減少させ、病的なSOD1蛋白質凝集体の蓄積を阻害し、ミトコンドリア遺伝子の発現を調整するなどの作用により病態改善効果が期待されます
▽またGM604はミトコンドリアのアポトーシス経路を阻害し、シスタチンC経路を活性化し、細胞修復を促進します。
▽今後更に大規模な臨床試験が必要であり、アメリカで2017年中に第3相試験の開始を予定しています
引用元
http://www.genervon.com/genervon/PR20170323.php
▽AB science社はプレスリリースで、masitinibとリルゾールの併用療法の有効性と安全性についての二重盲検試験の結果を公表しました
▽Msitinibは48週間投与され、合計394名の患者がmasitinib 4.5mg/kg/day+リルゾールないしmasitinib 3mg/kg/day+リルゾールないしプラセボ+リルゾールに無作為に割付されました
▽その結果、48週目において、ALSFRS-R得点の変化量には、masitinib 4.5mg/kg/day投与群において、プラセボ群と比較して、統計的に有意に良好であったとのことです。
▽またQOL尺度についても、統計的に有意にmasitinib 4.5mg/kg投与群が良好であったとのことです。
▽一方で 3mg/kg投与群については、ALSFRS-Rの変化量についてはプラセボとの統計的有意差はなく、QOL尺度については統計的に有意に良好であったとのことです
▽残念ながらどの程度の差があったのかについては言及がなく、有効性が小さいのか、大きいのかの判断はできませんが、今後の発表に期待されます
引用元
https://alsnewstoday.com/2017/03/21/clincal-trial-shows-masitinib-improves-functioning-of-als-patients/
▽VCPと呼ばれる蛋白質の遺伝子変異は、ALS類似の神経変性疾患であるIBMPFD(骨Paget病および前頭側頭型認知症をともなう封入体筋炎)の病因となることが知られています
▽この疾患では骨、筋肉、中枢神経が障害され、進行性の筋萎縮を伴います。VCP変異は孤発性ALSにおいても報告されています
▽IBMPFDではミトコンドリア機能異常があり、現在根治法はみつかっていません
▽研究者らは、動物モデルを用いて、VCPがMitofusinとよばれる、ミトコンドリア機能保持に関与する蛋白質に影響をあたえることをみいだしました
▽VCP変異が存在すると、Mitofusin蛋白質が機能異常を呈し、ミトコンドリアのエネルギー産生を障害することがわかりました
▽VCP阻害薬を投与すると、ミトコンドリア機能異常が抑制され、筋萎縮などが抑制されることがわかりました
▽実用化のためには、VCP阻害により、VCP本来の有益な機能まで阻害されないように工夫する必要があります。VCP変異と孤発性ALSとの関連性が報告されており、今後の研究の進展が期待されます
引用元
https://alsnewstoday.com/2017/03/22/potential-treatment-type-muscle-brain-degenerative-disease/
▽最新号のMolecular Cell誌に掲載された報告によると、C9orf72遺伝子関連ALSにおける異常蛋白質の凝集機序が明らかになりました
▽ストレス顆粒は、細胞がストレス下において形成される、RNA結合蛋白質の巨大な液滴様の凝集体です。ストレス顆粒は細胞のストレス応答において重要な役割を果たします
▽正常細胞においては、ストレス顆粒の形成は緻密に制御されており、形成と分解は可逆的です。
▽しかしALSにおいては、ストレス顆粒形成が制御されておらず、有害RNA結合蛋白質の凝集体のとなります
▽これら凝集体は、ALSの病態において重要な役割を果たし、ストレス顆粒関連蛋白質の変異の一部が家族性ALSの病因となることがしられています
▽一部の家族性ALSの病因であるC9orf72遺伝子変異はストレス顆粒の形成異常と関連します。この遺伝子異常によりストレス顆粒の粘稠度が増し、より固体に近い性質としてふるまうことがしられています。
▽今回、研究者らは、C9orf72遺伝子変異により生じた異常蛋白質、特にアルギニンが豊富なジペプチド繰り返し蛋白質により、RNA蛋白質の凝集が生じ、ストレス顆粒の粘稠度が変化することを明らかにしました
▽このように分子病態機序が明らかになることにより、異常蛋白質の凝集過程を阻害する治療法の開発が進展することが期待されます。
引用元
https://alsnewstoday.com/2017/03/20/new-toxic-pathway-identified-for-protein-aggregates-in-neurodegenerative-disease/
▽脊髄運動神経細胞は、部分的にCボタン/C末端とよばれるコリン作動性シナプスにより発火します。ALSにおいてはC末端の機能異常が報告されています
▽シグマ1受容体は脊髄運動神経制御に重要な役割を果たしています。高濃度のシグマ1受容体がシナプス後膜小胞体に存在しており、シグマ1受容体ノックアウトマウスでの研究から、シグマ1受容体は運動神経細胞のブレーキ役としての機能を有することが考えられています
▽シグマ1受容体周辺にはINMTとよばれるシグマ1受容体アゴニストを産生する酵素が存在することがしられています。INMTのメチル化は内因性毒性物質の中和や、酸化的ストレスの減弱に寄与しています。
▽小分子によりシグマ1受容体やINMTを活性化することは、運動神経細胞の過剰興奮性を抑制したり、酸化的ストレスを減弱することによりALSに対して治療的に作用する可能性があり、今後の進展が期待されます
(この総説は University of WisconsinのMavlyutovらにより報告され、2017年のAdvances in experimental medicine and biology誌に掲載されました)
▽今回研究者らは体表脳波(事象関連電位:P300)を用いたBCIを用いて、閉じ込め症候群のALS患者が人型ロボットであるNAO(Aldebaran Robotics社)を操作可能かどうか検証しました
▽その結果、4名中3名のALS患者が、高い精度でNAOを操作し、コップに手を伸ばし、コップをつかむことに成功しました。
▽今後さらにBCIにより操作されるロボットが、閉じ込め症候群患者にとって有用な機能を果たすことが期待されます
(この研究は、イタリア、University of PalermoのSpataroらにより報告され、平成29年3月1日付のFrontiers in human neuroscience誌に掲載されました)
▽今回、研究者らはアデノ随伴ウイルスベクター9型を用いて、SOD1変異ALSモデルラットにGDNF遺伝子を注入し、治療的効果を検証しました
▽その結果、機能的には軽度の改善効果を認めました。生存期間延長効果は明らかではありませんでした。
▽さらに、GDNF注入ラットでは、体重増加が緩徐であり、活動性も減少がみられました。
▽以上の結果は、ALSに対するGDNF注入が、利益のみならず、副作用をもたらす可能性があり、注意を要する可能性を示唆するものです
(この研究は、アメリカ、Cedars-Sinai Medical CenterのThomsenらにより報告され、平成29年3月9日付のGene Therapy誌に掲載されました)
▽カフェインは神経変性疾患に対して保護的な作用を発揮する可能性があるとの報告がなされました
▽最新号のScientific Reports誌での報告によると、カフェインはNMNAT2と呼ばれる蛋白質濃度を上昇させ、病態から保護的な作用を発揮する可能性があるとのことです
▽NMNAT2は、神経機能維持作用を有すると考えられており、蛋白質が正常な構造を維持するためのシャペロンとしての機能を有するといわれています
▽ALSやハンチントン病、Parkinson病などにおいては、NMNAT2濃度の減少が報告されています。そのためNMNAT2蛋白質濃度を上昇させることが治療的に作用する可能性があります
▽研究者らは既存の1280種類の化合物を調べ、NMNAT2濃度に影響を与える物質をスクリーニングしました。その結果、24種類の化合物が同定されました
▽カフェインは、その中でもNMNAT2濃度を上昇させました。アルツハイマー病のモデルマウスにカフェインを投与したところ、NMNAT2濃度が正常化し、記銘力が正常化しました
▽その他、ジプラシドン、レチノイン酸、cantharidin, wortmanninなどがNMNAT2濃度を上昇させましたが、カフェインほど効果は強くなかったとのことです
▽以上の結果は、NMNAT2濃度を効率的に上昇させることのできる物質が、神経変性疾患において治療的に有効な可能性を示唆するものです
▽現実的にはカフェインの過剰摂取は、致死的なものも含め、重篤な副作用をもたらす可能性があるため、注意が必要です
引用元
https://alsnewstoday.com/news-posts/2017/03/08/iu-study-finds-caffeine-boosts-enzyme-that-could-protect-against-dementia/
▽今回研究者らは、SOD1変異ALSモデルマウスにストロベリーから抽出したアントシアニンを投与し、治療的効果の有無を検証しました
▽生後60日齢より投与開始(2mg/kg/day)したところ、平均17日間の発症遅延効果と、平均11日間の有意な生存期間延長効果を認めました
▽組織学的な観察においても、脊髄中のアストログリオーシスの減少と神経筋接合部の保持が認められました
▽以上の結果は、アントシアニンが動物実験においては、軽度の治療的効果を有する可能性を示唆するものです
(この研究は、アメリカ、University of DenverのWinterらにより報告され、平成29年3月9日付のNutritional Neuroscience誌に掲載されました)
▽発症前のSOD1変異ALSモデルマウスに対してBBGが3週間に1回注入されました。その結果、BBG注入は、雌体ALSモデルマウスの体重減少を抑制しました。しかしながら、生存期間延長効果は全体としては有意ではなく、雌個体においては雄個体よりも4.3%生存期間が長い結果となりました
▽以上の結果は、P2X7受容体阻害は、ALSの病態進展に性別依存性に影響を与える可能性があることを示唆しており、今後の検証が必要です
(この研究はオーストラリア、University of WollongongのBartlettらにより報告され、平成29年3月1日付のPeerJ誌に掲載されました)
・SOD1変異ALS患者を対象に、プラセボ対照で行われ、アメリカ、カナダ、ベルギーなど多国籍で行われる予定です
・主として安全性が確認される予定となっており、2018年上半期には結果がでるようです
引用元
https://clinicaltrials.gov/show/NCT02623699
・ActharはFDAにより多発性硬化症などに承認されています。
・今回はプラセボ対照試験として、合計195名のALS患者を対象に、16単位/日、36週間投与され症状経過が観察される予定です
・2019年中に試験終了予定となっています
引用元
https://clinicaltrials.gov/show/NCT03068754
・ALSを含む運動神経病に対する自家骨髄幹細胞移植(静脈内およびクモ膜下腔内投与)の第1/2相臨床試験が開始予定となっています
・合計40名の患者を対象に、オープン試験で行われ、移植後4ヶ月間経過観察される予定です。2019年初頭に終了予定となっています
引用元
https://clinicaltrials.gov/show/NCT03067857
▽3月1日付のNature誌の報告です。酵母においては、凝集蛋白質は、ミトコンドリアの外膜に集まり、その後シャペロンが蛋白質の凝集構造をほどき、膜輸送孔から蛋白質がミトコンドリアマトリックス内に輸送され、ミトコンドリア内において分解されることがわかりました。
▽細胞質の守護者としてのミトコンドリア(MAGIC:mitochondria as gurdian in cytosol)と名づけられたミトコンドリアのこの機能はヒトにおいても存在すると考えられています
▽ミトコンドリアは電子伝達系を有し、ATPを産生し、細胞にエネルギーを供給する機能を有することで有名です。しかし、今回の報告により、別の機能も有することが明らかになりました
▽研究者らはαーシヌクレインやTDP-43などの凝集体についてもミトコンドリア膜に集まり、エネルギー産生に負荷をかけると考えており、ミトコンドリアの機能低下により有害蛋白質の除去が障害され、病態発現につながるのではないかと考えています。
▽今後ミトコンドリアと神経変性疾患の病態との関連性がさらに明らかになり、治療法開発につながることが期待されます
引用元
http://www.alsresearchforum.org/its-magic-yeast-mitochondria-make-cytosolic-protein-aggregates-disappear/
▽ALSにおける疼痛についての総説が最新号のLancet Neurology誌に掲載されました
▽これまで、ALSと疼痛との関連性についてはあまり研究報告がなく、ある報告ではALS患者の15%のみに疼痛があるとし、また別の報告では85%程度とするものもあります
▽このような差異の理由は、研究手法の違いや、ALSにおける疼痛の多様性によります
▽一般的に疼痛は病初期には軽度であり、進展とともに悪化する可能性があります。さらに疼痛は心理面にも悪影響をあたえます。
▽現段階においてはALSの疼痛に対する治療法でエビデンスの確立したものはありません。
▽ALSクリニックでは、疼痛に対してしばしばNSAIDs、オピオイド、アセトアミノフェンが処方されます。また下肢痙攣に対しては、マラリア治療薬である硫酸キニーネがしばしば処方されます
▽ストレッチや可動域訓練などの非薬物療法についても一定の有効性を認める場合があります。
▽現段階では十分なエビデンスが存在しないため、一般的なガイドラインに従った対処法に従うべきであると結論づけられています
引用元
https://alsnewstoday.com/2017/03/03/pain-in-als-common-but-robust-studies-few-review-concluded/