第10位:ALSにおける運動神経変性の機序が一部明らかに
▽研究者らは上位運動神経の変性機序の一部を明らかにしました。1月のCerebral Cortex誌に掲載された”上位運動神経はUCHL1欠損により小胞体ストレスへの脆弱性と神経変性を示す”との報告です
・当ブログでも1月29日付記事にて御紹介しています
http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-536.html
第9位:Q Therapeutics社がALSに対する幹細胞治療でFDAの承認を取得
▽Q Therapeutics社は、同社の幹細胞であるQ-Cellの治験薬としての承認をFDAから得ました。これにより第1/2a相臨床試験が実施予定となっています。
・当ブログでも6月6日付記事にて御紹介しています
http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-674.html
第8位:抗酸化作用のあるMitoQがALS治療薬として有望に
▽ウルグアイの研究グループが動物モデルにおける実験で、ミトコンドリアをターゲットとする抗酸化剤であるMitoQがALSに対して治療的に有望である可能性を報告しました
▽酸化的ストレスに関するマーカーも顕著に改善を認め、生存期間も延長しました。今後の臨床応用が期待されます
・当ブログでも7月19日付記事にて御紹介しています
http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-715.html
第7位:Genervon社のGM604はALSの病態進行遅延効果を有するかもしれない
▽Genervon社は、GM604がTDP-43血中濃度を低下させ、ALSの病態進行遅延効果を有する可能性を報告しました。12週間で進行期のALS患者において血中TDP-43濃度は63%減少し、プラセボ群では6%であり、有意差を認めました
・当ブログでも9月23日付記事にて御紹介しています
http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-780.html
第6位:FDAがGenervon社に追加情報提供を要求
▽Genervon社のGM604について、FDAは臨床試験に関する全ての情報を提出するように要求しました。これによりGM604の早期承認が厳しい状況であることがわかりました
・当ブログでも4月23日付記事にて御紹介しています
http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-627.html
第5位:Kadimastem社が幹細胞臨床試験を開始予定
▽イスラエルのバイオ企業であるKadimastem社が、同社のヒト多能性幹細胞によるALSに対する臨床試験を2016年に開始予定であることを公表しました
・当ブログでも4月9日付記事にて御紹介しています
http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-612.html
第4位:Genervon社がGM604の特許を申請
▽Genervon社はGM604の第2a相臨床試験の結果に基づいて、ALS治療薬としてのGM604の特許申請を行いました
・当ブログでも6月29日付記事にて御紹介しています
http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-698.html
第3位:endothelin 1濃度がALS患者において上昇
▽研究者らはALS患者の脳内のアストロサイトにおいてendothelin 1濃度が上昇していることを報告しました。新たな治療対象となる可能性があります
・当ブログでも9月6日付記事にて御紹介しています
http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-763.html
第2位:BrainStorm社のNurOwn細胞
▽BrainStorm社のNurOwn細胞の第2a相臨床試験結果が良好であることが公表されました。現在アメリカで比較的質の高い第2相臨床試験が進行中であり、こちらの結果がまたれます
・当ブログでも1月6日付記事にて御紹介しています
http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-504.html
第1位:GM604の進行期患者への投与で良好な結果
▽GM604のcompassionate useの結果は大きな反響を呼びました。ただし1例のみの報告であり、今後の検証が必要です
・当ブログでも1月17日付記事にて御紹介しています
http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-515.html
・以上となります。管理人としては、大きな話題として、
C9ORF72遺伝子変異ALSの病態機序として、核膜輸送の障害が明らかになったこと(http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-755.html)
TDP-43蛋白症の病態として選択的スプライシングの異常が存在する可能性が示唆されたこと(http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-736.html)、
iPS細胞の研究の進展(http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-758.html、http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-527.htmlなど)
既存薬剤への期待(http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-554.html、http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-806.html、http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-822.html、http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-458.html、http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-836.html、http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-864.htmlなど)
NurOwnの第2相臨床試験への期待
家族性ALSへの遺伝子治療の開始などでしょうか。短時間で振り返ったのでまだまだあると思います。
・最後になりましたが、本年も当ブログを御支援いただき、ありがとうございました。
皆様のお蔭で本年も更新を継続することができました。来年はさらに良いニュースをこの場でお伝えできることを祈っています。
どうぞ良いお年をお迎えください。年明けの更新は1月4日からを予定しています。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
・「同外来ではパーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)など14種類の難病に関し、遺伝性の病気や幹細胞を研究する医師らが最新の研究や、将来の治療の見通しなどを情報提供する」とのことです
元記事
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151228-00010004-yomidr-sctch
http://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2015/osa3qr000001axvx-att/141224.pdf
http://cmg.med.keio.ac.jp/ips-consultation
・かなくんさん、ありがとうございました。
▽今回、研究者らは、TDP-43の機能喪失が、ライソゾーム新生と自食作用の主要な調節因子であるTFEBの核内移行を強力に引き起こすことを明らかにしました。
▽TDP-43の機能喪失は、dynactin 1の発現低下により、オートファゴソームとライソゾームの融合を阻害し、未成熟のオートファジー小胞の蓄積と、自食ーライソゾーム経路の障害とをもたらします。
▽ショウジョウバエモデルでの実験により、ラパマイシンによりmTORC1シグナル経路を阻害すると、神経変性が増悪しました。一方で、ホスファチジン酸によりmTORC1シグナル経路を活性化すると症状改善がみられました
▽以上の結果は、TDP-43蛋白症においては、mTORC1シグナル経路の障害と自食ーライソゾーム経路の障害が病態に関与している可能性を示唆するものです
(この研究は、中国、Soochow UniversityのXiaらにより報告され、平成27年12月23日付、EMBO Journal誌に掲載されました)
引用元
http://emboj.embopress.org/content/early/2015/12/23/embj.201591998.long
▽家族性ALSの20%、孤発性ALSの1-3%がSOD1遺伝子変異に起因すると考えられています。SOD1変異ALSモデルマウスにおいて、SOD1遺伝子の発現を抑制することにより治療的効果があることが確認されています。
▽これまでに研究者らは変異SOD1遺伝子の発現を抑制するショートヘアピンRNAを組み込んだアデノ随伴ウイルスベクター9(rAAV9)を用いて、SOD1変異ALSモデルマウスに適応し、治療的効果があることを確認しています。
▽今回、研究者らは人工的なマイクロRNA(miR-SOD1)を組み込んだアデノ随伴ウイルス(rAAVrh.10)を用いてモデルマウスでの治療的効果を検討しました
▽その結果、かなりの発症遅延効果と、生存期間延長効果、筋力保持効果などが確認されました。
▽以上の結果は、miR-SOD1とrAAVrh.10を用いた治療戦略が家族性ALSに対して有効である可能性を示唆するものであり、今後の発展が期待されます
(この研究は、アメリカ、University of Massachusetts Medical SchoolのBorelらにより報告され、平成27年12月29日付Human gene therapy誌に掲載されました)
引用元
http://online.liebertpub.com/doi/abs/10.1089/hum.2015.122
▽研究者らは、齧歯類の脂肪組織由来間質細胞から抽出したエキソソームを用いて、試験管内のALS細胞モデルに対する治療的効果を検討しました
▽酸化的ストレス下におかれた、SOD1変異導入NSC-34細胞と、正常NSC-34細胞に対するエキソソームの効果を比較しました。
▽その結果、エキソソームは酸化的ストレスから神経保護作用を有する可能性を示唆する結果がえられました。
▽以上の結果は、幹細胞から抽出したエキソソームが運動神経病に対して治療的効果を有する可能性を示唆するものであり、今後の検証がまたれます
(この研究は、イタリア、University of VeronaのBonafedeらにより報告され、平成27年12月18日付のExperimental Cell Research誌に掲載されました)
引用元
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0014482715301774
▽Aquinnah製薬は、武田薬品より500万ドルの資金供与を受け、ALS治療薬開発のため開発チームを結成することを公表しました
▽Aquinnah社は、ALSにおける病的な蛋白質凝集をターゲットとし、これらの蛋白質を分解する薬剤の開発を目指しています。
▽今回の資金供与により薬剤開発が促進することが期待されます
引用元
http://www.prnewswire.com/news-releases/aquinnah-pharmaceuticals-receives-5-million-investment-from-takeda-pharmaceuticals-to-advance-new-therapies-in-als-300195607.html
▽電子ビーム照射治療(EBRT)は過剰な唾液産生に対する安全で有効な治療法です。
▽36名の流涎を有する患者を対象とした臨床試験が行われました。EBRTは放射線照射と比較して、破壊する組織の大きさが小さく、正確に照射が可能であり、そのため安全性が高いといえます。
▽治療を受けた患者は唾液量が減少し、QOLが改善しました。この治療効果は長期間持続し、少なくとも2年間は持続するといわれています。皮膚の紅潮を除いて報告された副作用はありませんでした。
疼痛の原因としての筋痙攣
▽ALS患者に対するオンライン調査の結果、質問に対して返答のあった92%の患者で筋痙攣を報告しています。1日あたり平均5回の痙攣のエピソードがあるとのことでした
▽疾患の重症度(ALSFRS-R)と痙攣頻度との関連性はみられませんでした。62%の患者ではALSに関連した疼痛の全ての原因が痙攣でした。
▽約半数の患者は痙攣に対して無投薬でした。最も頻度の高い投薬内容はバクロフェンでした
エダラボンは初期ALSに有効
▽日本でALSに対して認可されているエダラボンは、6ヶ月以上の二重盲検試験の結果、発症初期(FVC>80%)の患者においては、進行遅延効果がみられることが報告されました
▽プラセボ群では平均7.5点のALSFRS-R得点の減少量が、実薬群では平均5点であり、統計的有意差を認めました。より進行期の患者も含めた臨床試験の結果では、統計的有意差はみられませんでした
▽エダラボンはFDAよりorphan drugの指定を受けています
引用元
http://www.alsa.org/news/archive/orlando-symposium-122215.html
Neudextaの発声と嚥下への効果
▽Nuedextaは会話と嚥下の改善に有効な可能性を示唆する臨床試験結果が公表されました。
▽Nuedextaは仮性球情動に対してFDAから認可されている薬剤ですが、仮性球情動症状の有無に関わらず、ALSにおける発声と嚥下の改善に有効である可能性を示唆する結果がえられました。
▽Nuedextaはdextromethorphaとquinidineの合剤であり、quinidineは肝酵素を阻害し、dextromethophanの分解を防ぎます。
▽60名の球症状を有するALS患者を対象とした臨床試験において、半数が仮性球情動症状を有しており、投薬期間30日間のプラセボ対照クロスオーバー試験が行われました。
▽主尺度は球症状を評価するCNS-BFSであり、発声や嚥下、流涎などの症状を評価するものです。臨床試験の結果、これら3つの尺度全てにおいて統計的に有意な改善効果がみられました
▽さらにALSFRS-Rについてもわずかですが有意な効果が認められました。27%の患者は非反応群でした。めまいが投薬時7名の患者にみられました。
▽今回の結果は、短期間の試験結果ではありますが、NeudextaがALSの発声や嚥下障害の改善に有効である可能性を示唆するものです。今後さらに長期間の臨床試験での検証がまたれます
引用元
http://www.alsa.org/news/archive/orlando-symposium-122215.html
▽12月11日から13日までオーランドで開催された第26回国際ALS/MND会議では800名以上の研究者らが集いました。この場で参加者らは、早急な治療法の開発の必要性について実感し、同時に新規治療法や研究の進歩を感じました。
▽特に遺伝子治療のセッションでは将来に希望の持てる内容がプレゼンされました。それはオハイオ州コロンバス小児病院のBrian Kasparの発表であり、脊髄性筋萎縮症の遺伝子治療の最新の結果について公表されたものです。
▽脊髄性筋萎縮症は通常生後2年以内に致死的となる疾患ですが、Kasparらの臨床試験において、2014年春に治療を開始された小児は、現在も生存しており補助なしで起立可能であり、このような状態は未治療の脊髄性筋萎縮症患者ではなしえない状態とのことです。
▽この臨床試験は第1/2相臨床試験として行われており、アデノ随伴ウイルス9(AAV9)を用いる遺伝子治療です。脊髄性筋萎縮症は常染色体劣性遺伝形式であり、SMN1遺伝子のミスセンス変異(コードされるアミノ酸が別のアミノ酸に置き換わる)ないし欠損変異により生じます。
▽SMN1遺伝子は運動神経細胞の生存に関与する蛋白質をコードしています。SMN遺伝子にはSMN2遺伝子が存在します。SMN2遺伝子はSMN1遺伝子と相同性が高いですが、SMN1遺伝子と一塩基のみ異なるSMN2遺伝子は、選択的スプライシングにより主としてエクソン7を欠くSMN蛋白質を生じます。しかしSMN2遺伝子よりわずかに産生されるエクソン7を含む完全長のSMN蛋白質の存在により、SMN1遺伝子の対立遺伝子双方の変異を有する罹患患者の症状を緩和することがわかっています
▽そのため、脊髄性筋萎縮症は重症度に幅があり、その程度はSMN2遺伝子から完全長のSMN蛋白質が産生される発現量によります。SMN1遺伝子変異のキャリア(片方の対立遺伝子のみ変異を有する)においても軽度の症状を呈することがあり、IV型に分類されており、30代以降に発症します。最重症型のI型では、SMN2遺伝子から産生される完全長のSMN蛋白質がほとんどなく、幼児期に発症し重篤な経過をたどります
▽今回は研究者らはアデノ随伴ウイルスベクター9(AAV9)を用いて正常なSMN1遺伝子を運動神経細胞に導入することを目指しました。AAVはサブタイプにより異なる構造、ターゲットとする細胞を持ちます。
▽AAV9は血液脳関門を通過することが可能であり、ガラクトースの結合した細胞蛋白質に結合します。この性質により運動神経細胞とアストロサイトをターゲットにすることができます。AAV9が一旦ターゲット細胞に結合すると、運搬遺伝子は核内に挿入され、染色体外のDNAとして長期に保存されます。このことにより、原理的には一度のみの治療により、SMN蛋白質を生涯にわたり供給することが可能となります。
▽重度SMNのモデルマウスにおいては、この遺伝子治療により27週間以上の生存効果が観察され、未治療の場合には2週間前後で死亡したとのことです。
▽研究者らは今回の臨床試験において、9ヶ月齢未満の18名の幼児をエントリーしました。全員が6ヶ月齢未満で発症し、重症型の特徴を有するものでした。被検者らは正常SMN1遺伝子を運搬するAAV9の静注を1度のみ受けました。18名は3つの異なる用量に分けられました。
▽最小の用量では、3名の幼児が体重1kgあたり6.7×10の19乗個のウイルスを注入されました。最高用量では体重1kgあたり3.3×10の20乗個のウイルスが注入されました。
▽通常の経過であれば、10.5ヶ月の経過で約半数の患者が呼吸器を必要とする状態になります。このような自然経過と被検者の経過が比較される予定です。2017年6月にこの臨床試験は終了予定です。
▽現段階では、最高用量を投与された被検者はまだいません。今回の会議では、3名の最低用量の投与を受けた被検者と、7名の中間用量の投与を受けた被検者のデータが一部公表されました
▽現在までのところ、副作用はみられないとのことです。最初の患児がエントリーされた2014年4月から、今年の9月30日までの間で、死亡した被検者はなく、呼吸器が必要となった被検者もいないとのことです。
▽さらに、遺伝子治療を受ける前よりも運動は良好とのことです。さらに中間用量の投与を受けた患児は、最低用量の投与を受けた患児よりも症状改善が良好とのことです。
▽一方で、AAVを用いた治療法とは別に、残されたSMN2遺伝子の機能を活用しようとする遺伝子治療の試みがあります。SMN2遺伝子はSMN1遺伝子と99%共通した配列を有します。コーディング領域においては、単一のシトシンからチミンへの置換がエクソン7の挿入を妨げます。そこで、研究者らは、完全長のSMN2蛋白質を得るためエクソン7の欠損を防ぐ方法を考案しました。
▽チミンへの置換は、エクソン7をmRNAに保持させるのに必要な、スプライシング活性化因子への親和性を減弱させます。研究者らは、近傍に位置するスプライシング抑制因子を阻害することにより、エクソン7を保持させようと考えました。
▽そのために、研究者らはIsis製薬と共同で、スプライシング抑制因子を阻害するためのアンチセンス・オリゴヌクレオチドを設計しました。通常アンチセンス・オリゴヌクレオチドは、ターゲットとするmRNAのRNase Hによる破壊を促進させます。そこで、研究者らはアンチセンス・オリゴヌクレオチドをRNase Hにより認識されないように改良しました。
▽この方法により、モデルマウスにおいて、エクソン7の挿入率を15%から80%以上に改善させることに成功し、生存期間についても10日間から平均的な8ヶ月間に延長させることに成功しました。
▽アンチセンス・オリゴヌクレオチドは通常血液脳関門を通過しないため、髄腔内投与が必要となります。さらにオリゴヌクレオチドは髄液中において4-6ヶ月の半減期で消失します。そのため、治療的に用いるためには4-6ヶ月毎に注入することが必要となります。
▽2014年にISIS社はアンチセンス・オリゴヌクレオチドであるNusinersenの第2相臨床試験を開始しました。16名の幼児を対象とした試験では、6mgの用量では人工呼吸が必要となる期間が平均16.3ヶ月であり、12mgでは13.8ヶ月でした。これらは自然経過での10.5ヶ月より長いものです。
▽また12歳以上のSMN 2型ないし3型の患児に対して行われた試験では、56名の患児に様々な用量の投与が行われました。2014年時点での報告では、投与を受けた患児らは評価尺度において1.5から3.7点の改善を示しており、良好な経過とのことです。
▽現在Isis社は第3相臨床試験へのエントリーを募集しています。7ヶ月齢未満の幼児111名と2-12歳までのより軽症型の小児117名が対象となっています。2017年には終了の予定です。
▽ALSにおいても、遺伝子治療の進展は急速なものがあります。SOD1変異家族性ALSにおいて、ヘアピンRNAをAAVにより導入し、SOD1発現を抑制することで治療的効果を期待する試みが始まっています
▽モデルマウスでの実験では、1度のAAV投与により7週間程度の生存期間延長効果が確認されています。
▽さらに、神経栄養因子を分泌するように誘導されたアストロサイトを移植する試みも進行中です。現在、18名の患者を対象とした第1/2相臨床試験が予定されており、2016年3月に開始予定となっています。
引用元
http://www.researchals.org/page/news/15182
▽これら遺伝子の導入により、細胞外グルタミン酸の作用減弱と抗酸化作用の増強が期待されます。これら遺伝子は別々に導入しても治療的効果が観察されませんでしたが、同時に導入することによりALSモデルマウスの生存期間を延長させる効果が観察されました
▽今回の結果は、これら多因子的な遺伝子の導入治療が、今後ALSの治療法開発において画期的な戦略になる可能性を示唆するものです。
引用元
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs12031-015-0695-2
▽京都大学iPS細胞研究所「CiRA」(サイラ)と武田薬品工業株式会社は12月15日、iPS細胞技術の臨床応用に向けた共同研究を開始したことを発表しました。
元記事
http://www.qlifepro.com/news/20151217/joint-research-started-on-ips-cell-research.html
▽iPS細胞によるALSの研究推進も6つのプロジェクトのうちの1つとして明記してあります
▽国内最大手の製薬会社である武田薬品とCiRAとの産学共同研究により、革新的な結果が得られることが期待されます。
・麦酒王さん、ありがとうございます
▽MediciNova社のIbudilastがFDAよりfast trackの指定を受けました。
▽fast trackの指定を受けることにより、承認過程の迅速化が期待できます。FDAとの定期的なミーティングが行われるほか、承認申請から6ヶ月以内に優先的に審査が行われる権利などが与えられます。
引用元
http://alsnewstoday.com/2015/12/17/fda-grants-fast-track-designation-for-medicinovas-mn-166-ibudilast-for-the-treatment-of-amyotrophic-lateral-sclerosis/
・管理人からのコメントとして注意点です。ビタミンEは脂溶性ビタミンであり、過剰摂取は有害となりうるものです。2005年のこちらの論文(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedhealth/PMH0021939/)において、19の介入試験のメタ解析の結果、1日400IU(268mg)以上のビタミンE摂取が死亡リスク(原因は問わない)を増大させる可能性(250名あたり1名程度の割合で)が報告されています。特定の疾患において、リスクを上回るメリットが確認されるまでは、安易な使用を慎むようコメントされています。その後確定的な結論はでていないようですが、注意は必要となります。
・ビタミンEの治療的効果について検討した介入研究は、主なものがフランスとドイツで行われています
▽2001年に報告されたフランスの介入研究の結果の概略です。この研究では、リルゾール投与中で発症5年未満のALS患者289名が対象となりました。ビタミンE(500mgを1日2回で1年間)投与群とプラセボ群とで経過が比較されました。
▽その結果、ビタミンE投与は、生存期間や運動機能については有意な進行遅延効果を認めませんでした。しかし、ALS Health State scaleにおいて、より軽症の状態Aから、さらに重症の状態Bへの移行する割合については、ビタミンE投与群において有意に少ない結果となりました。また酸化的ストレスマーカーについてもビタミンE投与群で有意な減少を認めました。
▽以上の結果は、ビタミンEが全体としては有意な効果は認めなかったものの、より軽症の状態から重度の状態への移行を遅延させる効果がある可能性を示唆するものとなりました(このことが事実かどうかは、さらに他の研究での検証が必要との結論になっています)
▽もう1つはドイツでの介入研究です。2005年に報告されたこの研究では、160名の発症5年未満のリルゾール投与中のALS患者が対象となりました。この試験ではより高用量(5000mg/日)のビタミンEないしプラセボが18ヶ月間投与されています。
▽その結果、生存期間については有意な延長効果は認めず、機能面においても、ビタミンE投与群で良好な傾向は認めたものの、統計的な有意差には至りませんでした。重大な副作用はなかったとのことです。結論としては、高用量ビタミンEの有効性は確認できなかったということです。
▽続いてビタミンEの発症予防効果について検討したものです。
▽最近の報告では2013年に、フィンランドで行われたビタミンEが発癌リスクを減少させるかどうかの介入研究から得られた結果があります。この研究では、50-69歳のフィンランドの喫煙男性29127名が対象となり、投薬群にはαートコフェロール50mgないしβーカロテン 20mgないしその両方の
が投与され、無作為割付プラセボ対照試験が行われました。介入期間は5-8年間(平均6.1年間)でした。さらにその後も追跡され全体で平均16.7年間追跡が行われました。
▽407260人年中、50名のALS発症が観察されました。プラセボに割り当てられた群と、αートコフェロール単独群、βーカロテン単独群、両者併用群とで、ALSの発症率に有意差はありませんでした。
▽しかし、エントリー時点で、血清αートコフェロール濃度が平均(11.6mg/l)よりも多い群と、平均よりも少ない群とで比較した場合、平均よりも多い群におけるALS発症の相対リスクは0.56であり、統計的に有意に、αートコフェロール濃度が平均より少ない群よりも、ALS発症リスクが少ないとの結果になりました(年齢で調整後)
▽さらに、エントリー時点での血清αートコフェロール濃度が平均以下の群については、αートコフェロール摂取により、ALS発症リスクが低下する傾向(統計的有意差はない)がみられたとのことです。これについては事実かどうか、さらに検証が必要となります。もともと血清αートコフェロール濃度が高い群については、αートコフェロール摂取によるALS発症リスク低下効果はみられませんでした。
▽もう1つ、ビタミンEとALS発症リスクの関係について、2011年に5つの前向きコホート研究を解析した報告があります。1055546名の参加者中、ALS発症は805名でした。全体としてビタミンEサプリメントの使用とALS発症リスクとの有意な関連性はありませんでした。
▽しかし、ビタミンEサプリメント使用期間についての情報が得られたデータのみで解析した結果、ビタミンEサプリの使用期間とALS発症リスクの減少とは有意な相関を認めました。長期間のビタミンEサプリの使用はALS発症リスクの減少と関連する可能性が示唆されています。
・以上となりますが、ビタミンEのALSに対する治療的有効性の有無については、さらに検証が必要な印象です。リスクに考慮する必要がありますが、さらに質の高い介入試験による有効性の検証が期待されます。
▽ドイツのTreeway社は、TW001のALSに対する2つの第1相臨床試験が終了したことを公表しました
▽TW001は日本で発売されているエダラボンの経口投与可能な錠剤で、より簡便にかつ頻回に投与が可能です。
▽第1相臨床試験では安全性と忍容性が良好であることが確認されました。2016年にも第II/III相臨床試験を開始したいとしています
・エダラボンが経口投与可能な形態で有効性が確認され実用可能になると、現在しばしば必要とされる投与開始時の入院などが必要なくなるため、利便性の向上につながると思われます。良好な結果が期待されます。
引用元
http://www.researchals.org/page/news/drug_news/15172
・12月14付Nasdaqの記事からです
▽Isis製薬は、Biogen社と共同で、アンチセンス製剤であるISIS-SOD1RxによるSOD1変異家族性ALSに対する第I/II相臨床試験を開始することをアナウンスしました
▽無作為割付プラセボ対照試験として行われる本試験は、SOD1変異家族性ALS患者を対象とした安全性、有効性を評価する試験になります。患者は脊髄液中に直接ISIS-SOD1Rxの注入を受けます
▽72名の患者を対象に、約5ヶ月間追跡される予定です。
・良好な結果が期待されます
引用元
http://www.nasdaq.com/article/isisbiogen-initiate-amyotrophic-lateral-sclerosis-study-cm554741
・いずれも臨床的にも基本的かつ重要なことになります。
・この投稿は、Dick Jacobson氏(ALS当事者:2011年9月診断。四肢発症型。現在ALSFRS-R 9点、気管切開で人工呼吸中)によるものです。専門家の意見ではなく、当事者一個人の意見となりますので、普遍性がない可能性がある点については注意してください。
▽Jacobson氏は、既存の補助装置などによりALSの予後を延長させることができると信じています。ALSの進行自体を変えることはできなくても、余命を延長させることができると考えています。
▽さらに、一般的に言われているように、ALSの余命が3-5年であるとされている通説を変えるべきであると主張しています。
▽Jacobson氏の記載した4つの方法については、彼が主治医やwebinar、文献、フォーラムなど各種の情報源から得たものを総括したものであり、彼のオリジナルではないものの、これらはQOLの維持を可能な限り延長させてくれることを期待するとのことです。
1.転倒を避ける
▽ALS当事者は運動神経細胞の喪失や倦怠感などにより転倒します。これらについては予測困難です。従って、自身が下肢筋力の低下を自覚した直後から、転倒の危険にさらされることになります。また、ALS患者の幾人かは転倒により亡くなっているケースもあります。さらに外傷の結果ADLは低下し、各種合併症の危険が高まります。
▽転倒を避ける最初のステップは、補助具を使用することです。具体的には、短下肢装具、杖、歩行器、手動ないし電動車いす、ベットと浴室、トイレをつなぐ手すりなどです。その他に重要なことは、疲労を自覚し、速やかに休息をとることです。
2.栄養状態を維持する
▽Jacobson氏は、胃瘻造設がなぜそれをしていない人からこれほど嫌われているのか理解できないと述べます。手術とその後の回復は速やかであり、胃瘻を維持することは単純なことです。さらに使用にさいして問題も少ないです。合併症も対処可能なものです。低栄養や誤嚥の危険を考えると、胃瘻造設のほうがずっとましだと考えています。
▽胃瘻造設を必要とする前に、食事内容を変更することが必要でしょう。嚥下しやすいものにする必要があります。誤嚥をさけることが生命維持のために重要です。食事を少量しかとらないよりも、刻んだりすりつぶして摂取するほうがずっとましです。飲み込みの問題を自覚してすぐに嚥下機能評価を受けるべきです。このことにより、何に嚥下に際して何に注意すべきかがわかります。
3.感染を避ける
▽感染、特に肺炎は主要な死亡原因となりうるものです。感染を避けるためには、標準的な予防策、つまり感染を有する人を避ける、手指の洗浄により清潔を保つ、個人的な保護具を自分と周囲の人、特に介護者に使用します
▽さらに、インフルエンザの予防接種、肺炎球菌ワクチンの接種を受けることが重要です。周囲の人に対しても、予防接種を受けるようにたのみましょう。学童期の子どもがいる場合には、予防接種を受けさせます。
4.呼吸を維持する
▽呼吸のための装置は数多くあります。初期には、非侵襲的人工換気の導入が睡眠を助けるため推奨されることが多いです。横隔膜筋力の低下を自覚したらすぐにカフアシスト装置を導入します。高頻度胸壁振動法(Vestなど)、ネブライザーは気道を清潔に保ち、分泌を抑えるために必要です。
▽気管切開の前に、マスクもしくは鼻枕型マスクを使用した人工換気の導入が必要かもしれません。究極の呼吸補助は気管切開になります。Jacobson氏は家族らと十分な協議の結果、気管切開を行うことを選択しました。Jacobson氏は四肢発症型で、話すこと、飲み込む能力は保持されています。気管切開をしても、話すこと、飲み込むことは可能です。気管切開により24時間看護体制と適宜吸引、ドレッシング材の交換が必要となります。
・最近では痰の自動吸引装置もあり、気管切開後のケアも進歩しています。Jacobson氏は多くの人が十分な検討なしに、気管切開をしない選択肢をとっているのではないかと指摘しています。
追記:管理人の意見ですが、ALSの病状が進行しても、人としての尊厳は失われるものではありません。ただしQOLを維持するためには、ケアをする側の接し方、関係性も重要です。介護者が疲弊していては、最も重要な、ケアを受ける側の尊厳が損なわれてしまう可能性があります。介護者が疲弊しないケア体制の構築は非常に重要な問題だと思います。
引用元
http://www.alstdi.org/forum/yaf_postst54879_four-ways-to-live-longer-with-als.aspx
▽第26回国際ALS/MNDシンポジウムでFlex Pharma社より、同社のTPRV1およびTRPV1アゴニストの2剤の合剤のALSなど神経筋疾患に関連した筋痙攣に対する有効性についての報告がありました
▽粘膜上に存在するTRPA1受容体およびTRPV1受容体の局所的な刺激は筋痙攣に対する治療法となりうることが期待されています。Flex Pharma社はTRPV1およびTRPA1受容体と相互作用を行うFLX-787を開発しました。
▽ALSに伴う筋痙攣に対する治療的有効性について、2016年初頭にも評価したいとしています。
引用元
http://alsnewstoday.com/2015/12/14/flex-pharma-presents-at-the-26th-international-symposium-on-alsmnd/
・プラセボ群を含むとの記載は気になるところですが、結果の一部が公表されています。
・詳細は以下を御参照ください
https://tyn-imarket.com/pdf/2015/12/14/140120151214467527.pdf
▽MediciNova社が実施中のALSに対するMN-166(idudilast)の有効性に関する臨床試験のデータが2016年1月8日に開催予定の学術会議において公表される予定です。
▽MN-166は経口投与可能なホスホジエステラーゼ4および10阻害薬であり、マクロファージ遊走抑制因子の阻害作用があり、抗神経炎症作用と、神経保護作用が期待されています。
▽この臨床試験は、無作為割付二重盲検プラセボ対照比較試験であり、早期および進行期のALS患者を対象としています。60名の非侵襲的人工換気(NIV)施行中のALS患者と、60名のNIVを受けていないALS患者がエントリーされ、6ヶ月間の二重盲検期間と、それに引き続く6ヶ月間のオープン試験期間からなります。
▽この試験では、筋力や呼吸機能、ALSFRS-Rなどの変化が尺度として用いられています。
引用元
http://alsnewstoday.com/2015/12/10/medicinova-announces-presentation-regarding-clinical-trial-of-mn-166-ibudilast-in-als-at-the-6th-annual-california-als-pac10-and-research-network-meeting-at-ucsd-la-jolla-california/
・やや基礎的な話題ですが、ALS NEWS TODAYの12月1日付記事からです
▽今回Neuron誌に公表された論文において、神経変性疾患に関連したシナプス損傷により神経細胞間の連結がどのように障害されるかについて新たな知見が得られました。
▽ALSなどの神経変性疾患では、神経構造と機能が徐々に失われ、最終的に神経細胞死につながると考えられています。病態機序ははっきりとわかっていませんが、ミトコンドリア機能異常や軸索輸送の異常などが関与している可能性が示唆されています
▽これまでの研究において、シナプスの機能異常の存在が示唆される結果が得られています。さらに、いくつかの蛋白質断片の凝集による機能異常が神経伝達異常をもたらし、病態に関与していると考えられています。
▽シナプスは神経細胞のなかで活動的な部位であり、活動自体が長期的には損傷的となりうるものですが、シナプスは損傷しても細胞のリサイクル機構により新生します。今回の研究において、リサイクル機構の一部が明らかになりました
▽研究者らは損傷したシナプスの修復機構が開始するメカニズムについて調べました。さらに修復機構の異常が神経変性疾患にどのようにしてつながるかについても調べました。
▽研究者らはシナプスの修復に関わる蛋白質を調べ、Hsc70-4とよばれるシャペロン(蛋白質の正しい折り畳みを補助する蛋白質)をシナプス前膜において同定しました。Hsc70-4はミクロ自食作用を促進し、特定のシナプス蛋白質の代謝に関与していることがわかりました。
▽ミクロ自食作用はシナプスにおける清掃機能であり、ミクロ自食作用の活性が低下しているときには、シナプス伝達効率は低下し、ミクロ自食作用が活性化しているときにはシナプス伝達が亢進していることがわかりました。
▽また、Hsc70-4のコシャペロンであるSgtは、Hsc70-4の機能をシナプスでのミクロ自食作用に関与する働きから、シャペロンとして機能するように変化させる役割があることがわかりました。
▽従ってHsc70-4はシナプス蛋白質の新生を2つの方法で調節していることがわかりました。すなわちSgtと協働して、蛋白質の正常な折り畳みをもたらすことと、ミクロ自食作用を促進し、シナプス代謝を促進させることです。
▽今回の発見は、今後の神経変性疾患の治療法開発において、重要な起点となる可能性があります。
引用元
http://alsnewstoday.com/2015/12/01/vib-research-presents-new-insights-in-the-search-for-treatments-for-neurological-diseases/