▽炎症反応の原因となる物質が脳内に存在するとき、ミクログリアは近傍に存在するミクログリアにシグナルを発します。このシグナル物質がgalectin-3であることが3月10日付のCell Reports誌に報告されました。
▽galectin-3はTLR4(toll-like receptor 4)と呼ばれるミクログリアの受容体に結合します。研究者らは、脳卒中患者において、galectin-3とTLR4が豊富に発現していることを報告し、これら物質と受容体との発現が、虚血状態の脳において活性化することがわかりました。
▽同時に、ALS患者の脊髄においても、galactin-3は過剰に発現していることがわかっています。これまで、多くの炎症性物質が報告されてきましたが、galectin-3の機能についてはよくわかっていませんでした。
▽galectinは糖結合蛋白質ファミリーに属し、糖蛋白質などの炭水化物と相互作用を行います。細胞の内外に存在し、細胞増殖や、神経成長、アポトーシスなどの各種プロセスに関与しています。
▽galectinには相反する2つの機能があり、存在する環境や部位により異なる機能を発揮します。例えば、galectin-1蛋白質は、細胞外において、細胞の細胞外基質への結合を調整します。メラノーマ細胞では、細胞外基質への結合を促進し、一方で筋肉細胞では、細胞外基質への結合を阻害します。
▽研究者らは、これまでgalactin-3が炎症に関与するらしいことは気づいていました。galactin-3は活性化ミクログリアやマクロファージのマーカーとして使用されてきました(ただしこの場合、Mac-2という異なる名称で呼ばれてきました)。Galectin-3は細胞核、細胞質、細胞膜などに存在し、リポポリサッカライド(LPS)などの細菌膜由来の物質や、インターフェロンーγなどの炎症性刺激により細胞外に放出されることがわかっていました。
▽galectin-3は、状況に応じて、炎症反応を促進したり、炎症反応を抑制したりする機能を有するようです。例えば、ALSモデルマウスにおいては、galectin-3遺伝子をノックアウトすると、神経炎症が促進し、疾患の進行が早まります。このことはgalactin-3が抗炎症反応を有していたことを示唆します。一方で、自己免疫性脳脊髄炎モデルマウスにおいては、galectine-3のノックアウトは、疾患の進行を抑制します。galectin-3が炎症促進性に機能していたことを示唆しています。
▽今回、研究者らは、LPSや虚血などの刺激により、細胞外に分泌された形態のgalectin-3に注目しました。その結果、galectin-3の炎症促進物質としての機能を発見しました。
▽これまでに、galectin-3はLPSとTLR受容体に結合し、TLR4を介して炎症反応が引き起こされることがわかっていました。galectin-3がTLR4と直接的に相互作用をするかどうかが、今回調べられました。その結果、細胞外のgalectin-3はTLR4と同時に局在化しており、galectin-3に暴露されたミクログリアでは、炎症関連遺伝子の発現が増加し、炎症促進性に働くことがわかりました。
▽さらに、galectin-3を阻害することで、LPSに対するミクログリアの応答性が減弱するかを調べました。その結果、炎症反応を示唆する物質の産生が減少し、ミクログリアの応答が減弱することがわかりました。
▽galectin-3がミクログリアなどの活性化を通じて炎症促進性に寄与することが、パーキンソン病モデルマウス、脳卒中モデルマウスにおいて確認されました。これらモデルマウスにおいてgalectin-3を阻害すると、炎症反応も減弱しました。
▽研究者らは、galectin-3は、傍分泌のメカニズムにより、近傍のミクログリアや、もしかするとアストロサイトや単球などに対しても、活性化シグナルとして機能するのではないかと結論付けています。
▽ALSにおけるgalectin-3の役割はよくわかっていませんが、ミクログリアの活性化はALSモデルマウスでも報告されており、galectin-3がALSのバイオマーカーとして有用な可能性があるとのことです。また炎症促進性に働いているとすれば、治療薬開発のターゲットとなりうるかもしれません。
引用元
http://www.researchals.org/page/news/14361