
・年末ということで、ここ2日ほど論文データベースであるPubmedの更新もなく、年内は新たな情報のリリースがないかもしれません。
・1年の締めくくりに、アメリカ筋ジストロフィー協会のサイトに掲載してある、ALS治療薬のpipelineを一部修正し翻訳します。全ての開発中の治療法を網羅しているわけではありません。
・来年は、neuralstem社やbrainstorm社の第2相臨床試験の結果など、新たな進展が期待されます。このpipelineがどこまで進むでしょうか?
・遺伝子治療研究所を初めとした日本の研究グループの進展と同時に、ALS治療法開発に関する大きなニュースを期待します。
・次回の更新は1月3日以降を予定しています。平素より当ホームページの維持運営にご協力いただきありがとうございます。どうぞ良い年末年始をお過ごしください。来年もよろしくお願いいたします。
・SOD1蛋白質を減少させる
▽SOD1遺伝子変異に起因するALSにおいて、変異SOD1蛋白質を除去することができれば治療的効果が期待できます。
▽ワシントン大学とIsis Pharmaceuticals社は、アンチセンス・オリゴヌクレオチド(ASOs)を用いて、SOD1蛋白質生成を阻害する方法を開発中です
▽アンチセンス・オリゴヌクレオチドはメッセンジャーRNAに結合し、蛋白生成を阻害します。SOD1遺伝子に対するASOの第1相臨床試験の結果、安全性が確認されています
▽次の臨床試験に進む前に、現在ASOの作用効率を改善する試みがなされています。
▽ASOを用いた治療法は、C9ORF72変異に起因したALSに対しても有望な治療法と考えられており、前臨床試験段階にあります。SOD1に対するASO治療試験が成功すれば、速やかに次の段階に進展することが期待されています。
▽その他、SOD1蛋白質を減少させる試みとしては、抗マラリア薬のpyrimethamineによるものがあります。現在第1/2相臨床試験中です。
・興奮毒性を減弱
▽興奮毒性はグルタミン酸などの神経伝達物質過剰により、神経細胞が傷害されるものです。ALSでは、血液や髄液中のグルタミン酸濃度が高いことが報告されています。
▽現段階で唯一のALS治療薬であるリルゾールは、グルタミン酸に拮抗し、興奮毒性を減弱させる治療戦略に基づくものです。
▽グルタミン酸の効果は生存期間を3ヶ月ほど延長させるというものです。しかし、現在、リルゾールを上回る興奮毒性抑制作用を有する薬剤が開発中です。
▽最近動物モデルにおいてグルタミン酸抑制作用が確認されたceftriaxoneの臨床試験が行われましたが、有効性を確認することはできませんでした。しかし、ceftriaxoneが、治療的効果の期待できる、十分な濃度で脊髄に到達したかはわかっていません。
▽最近では、動物モデルにおいて、神経細胞からリルゾールなどの薬剤を排除する作用を有するP糖蛋白質の作用をelacridarにより阻害したところ、治療的効果が増強したとの報告があります(http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-452.html)
▽リルゾールなどの治療効果が増強する治療法が開発されるかもしれません
・抗炎症作用
▽炎症反応は、免疫系の生体保護作用による急性反応ですが、これが長期持続すると有害作用が出現します。ALSでは、神経炎症反応が高まっていることが報告されており、脊髄での炎症反応の存在を示唆しています。
▽研究者らは、この炎症反応が果たして神経細胞を保護する性質のものなのか、それとも有害作用を有するのか、あるいはその両者であるのか、結論をだすことができていません
▽抗炎症作用を有する抗生物質であるミノサイクリンの臨床試験が行われましたが、治療的有効性を確認することはできませんでした。
▽現在その他の抗炎症作用物質が調べられています。これらの薬剤にはジレニア(多発性硬化症治療薬)、タモキシフェン(乳癌治療薬)などが含まれます
▽ActharはQuestcor Pharmaceuticals社が開発中の副腎皮質刺激ホルモン類似体であり、第2相臨床試験中です。
▽NP001は、Neuraltus社が開発中の薬剤であり、免疫系細胞であるマクロファージと中枢神経のミクログリアをターゲットとする薬剤です。これら免疫系細胞を傷害性を有する状態から、細胞保護的な状態へと変化させる作用が期待されています。第2相臨床試験が行われ、全体としての有効性は確認できなかったものの、高用量投与群で進行遅延作用を有することを示唆する結果が得られています。さらに大規模な臨床試験が予定されています
▽IMS-o88は免疫抑制作用を有する薬剤で、前臨床試験段階です。また幹細胞移植の際に使用された5種類の免疫抑制剤を用いた第2相臨床試験が開始予定となっています
・抗酸化作用
▽ALSにおける神経細胞死の原因として、フリーラジカルと呼ばれる細胞傷害性分子の関与が疑われています。フリーラジカルは酸化とよばれるプロセスにより細胞内の様々な分子を傷害します。
▽coenzyme Q10やエダラボン、クレアチンなどの抗酸化作用の期待される物質の有効性が、製薬会社により調べられています
▽エダラボンは第3相臨床試験の結果を受けて、日本で適応承認申請がなされました。審査の結果がまたれます
・HDAC阻害薬
▽Histone deacetylase inhibitors(HDAC inhibitors)は特定の遺伝子発現のスイッチをオフにする抑制性の酵素です。運動神経細胞保護の観点から、このHDAC inhibitorが治療的有効性を発揮することが期待されてます
▽動物モデルではHDAC inhibitorの有効性が確認されています。第1相臨床試験では安全性が確認されました。現在有効性を確認する第2相臨床試験が行われています
・神経保護作用
▽運動神経細胞の生存期間を延長させる効果を有する薬剤は、試験管内での実験や、動物モデルにおいて複数発見されていますが、その作用機序は多くが不明確なままです。
▽過去にそのような複数の薬剤が臨床試験で効果を確認されましたが、現在までのところ明らかな有効性が確認できた薬剤はありません。
▽近年Biogen Idec社が開発中のdexpramipexoleの第3相臨床試験が行われましたが、有効性を確認することはできませんでした。
▽Teva Pharmaceuticals社が開発中のRasagulineの第2相臨床試験が行われています。
▽神経保護作用を有するとされる物質は複数提案されており、今後の進展が期待されます
・抗アポトーシス作用
▽アポトーシスは細胞が特定の自己破壊シグナルを受けた場合に、自らを崩壊させる過程です。ALSではアポトーシスが神経細胞死に関与しているとするいくつかの報告があります
▽アポトーシスによる神経細胞死を防ぐ可能性のある薬剤が開発されています。そのような薬剤のうちの1つがtaurousodeoxycholic acid(TUDCA)であり、第2相臨床試験が行われています
・抗蛋白質凝集作用
▽ALSにおける細胞内封入体においては、TDP-43の凝集体が主要な構成成分であることがわかっています。
▽蛋白質の凝集を抑制する治療法が開発中であり、シャペロン分子を用いる方法が主要な方法です。
▽arimoclomolなどの人工的なシャペロンを用いる方法や、内在性のシャペロン分子である熱ショック蛋白質を増加させる方法などが提案されています
▽Nexgenic社は様々な熱ショック蛋白質を誘導する治療法を開発中です。現在前臨床試験段階にあります。
▽Coyde Pharmaceuticals社は熱ショック蛋白質を誘導する小分子を開発中です。
▽CytRx社のArimoclomolは、この分野で最も進歩した薬剤であり、第2/3相臨床試験が行われています。今後有望な結果が期待されます
・神経成長因子
▽Neurturinや脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア由来神経栄養因子(GDNF)、インスリン様成長因子(IGF)、血管内皮成長因子(VEGF)などの成長因子は神経成長を促進し、神経保護作用を発揮することでALSへの治療的効果が期待されています
▽動物実験では、これらの物質は有効性が確認されたものの、これまでの臨床試験では、あまり有効性が確認されない結果となっています。しかし、これらの結果は、成長因子が治療的効果を有しないためなのか、あるいは成長因子が中枢神経に到達しなかったためなのか、結論はでていません。
▽この治療戦略は、有望な治療選択肢として現在も注目を集めています。現在、患者自身の内在性の成長因子発現を促進させる治療法が開発中です。このような治療戦略のうち最も進展しているものは、VEGFに関連したものであり、現在第2相臨床試験が行われています
▽Sangamo Biosciences社は、SB-509を開発中で、この物質はDNAに結合する性質を有するジンクフィンガー蛋白質であり、VEGFの発現を促進し、治療的効果を発揮することが期待されています。
▽その他、グラクソ・スミスクライン社では、神経成長抑制因子を阻害する薬剤を開発中です。ozanezumabと呼ばれる薬剤は、モノクローナル抗体であり、neurite outgrowth inhibitor A(Nogo-A)と呼ばれる神経成長抑制因子を阻害し、治療的効果が期待されています。第2相臨床試験が行われています
▽成長因子は、Neuralstem社の幹細胞移植であるNSI-566の作用機序としても注目されています(http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-494.html)
・遺伝子治療
▽ALSに対していくつかの遺伝子治療法が開発中です
▽遺伝子治療では、細胞に新たな遺伝子が導入し、蛋白質を発現させることにより、治療的効果を期待します。
▽新たに導入する遺伝子としては、成長因子を発現させる遺伝子、遺伝子治療研究所で行われている、グルタミン酸受容体のRNA編集の異常に注目した、RNA編集酵素であるADAR2遺伝子などがあります。
▽有望な治療法だけに、十分な予算配分がなされることが期待されます
・神経幹細胞
▽有望な治療法としてメディアなどの大きな注目を集めている方法です。
▽幹細胞は直接運動神経細胞を誘導するものではありません。なぜなら運動神経細胞に分化しても、その後、軸索を数フィートに渡り伸長させ、ターゲットとする筋線維に到達させる必要があり、そのような手法は動物実験でも実現できていないためです
▽現段階では、運動神経細胞を支持する細胞に分化させる手法が主流です。
▽Neuralstem社では、第1相臨床試験の良好な結果を受けて、現在第2相臨床試験が進行中です
▽Brainstorm社も、イスラエルでの第2a相臨床試験が終了し、最終結果が近日報告される予定です。アメリカでも臨床試験の実施が予定されています
・神経筋接合部増強
▽病態進展と同時にALSでは筋力低下が起こります。筋力の増強による生存期間の延長は期待できませんが、QOLの改善効果は期待できます
▽これまで筋力を増強させる薬剤が開発されてきました。Cytokinetics社のtirasemtivは、神経筋接合部のシグナル感受性を改善し、治療的効果を期待する薬剤ですが、第2b相臨床試験が終了し、静的肺活量を改善する効果が観察されました。来年には第3相臨床試験の実施が予定されています
引用元
http://mda.org/research2/state-science/amyotrophic-lateral-sclerosis-als/als-pipeline
・遺伝子治療研究所のホームページにて、”遺伝子治療用ベクター製剤の新規製法開発開始のお知らせ”が告知されました。
・アデノ随伴ウイルスベクターを大量に効率よく生産する技術への開発に着手したとの報告です。
・期待度が非常に高い治療技術であることから、一刻も早く臨床試験が開始され、実用化されることを期待します
引用元
http://www.genetherapy-ri.com/information/category/news#post-148
▽2つの遺伝子、ataxin 2とC9ORF72の繰り返し配列の過剰伸長は、ALSないし前頭側頭型認知症(FTD)、もしくは両者合併のリスクを増大させます。
▽平成26年9月9日にNeurology誌に掲載された報告によると、ataxin 2の繰り返し配列の過剰伸長は、ALSおよびALSとFTDの合併の発症とは関連したものの、FTD単独の発症とは関連しなかったとのことです。さらに患者がC9ORF72とataxin 2の両方の繰り返し配列の過剰伸長を有する場合、C9ORF72のみの反復配列過剰伸長を有する場合と比較して、FTD症状よりもALS症状を呈しやすいことが発見されました。
▽科学者らは、なぜataxin 2遺伝子の過剰伸長が、運動神経細胞傷害と親和性が高く、前頭葉神経傷害とはあまり関係しないのかについて明らかにする必要があります
▽ataxin 2遺伝子は、グルタミンのコドンであるCAGないしCAA配列を含んでいます。健常者ではこれが22-23回までの繰り返し配列数ですが、この繰り返し配列数が33回を超えると、脊髄小脳失調2型を引き起こします。2010年には、繰り返し配列数が27回から33回までの場合、ALSのリスクが高まることが報告されました。しかしこの程度の繰り返し配列数は健常者の一部にもみられうることがわかりました。
▽したがって、健常者とALSとをataxin 2の繰り返し配列数により完全に仕分けることはできません。最近では、30-33回までの繰り返し配列数は、よりALSのリスクを高めることが報告されています
▽ataxin 2繰り返し配列数とALSリスクとの関連についての最初の報告はアメリカの患者サンプルでの解析により報告されました。その後、同様の繰り返し配列とALSリスクとの関連性についての検討が、カナダ、中国、ヨーロッパのいくつかの国で報告されています。しかしFTDとALSの合併症例数が少なく、両者の合併のataxin 2配列伸長数との関連性は不明確でした
▽最近のフランスの報告では、168名のFTD-ALS患者、1144名のALS患者、203名のFTD患者のサンプルを用いて、ataxin 2繰り返し配列数と疾患との関連性が検討されました。
▽その結果、ataxin 2遺伝子の繰り返し配列数が29回以上の場合、ALSを含む運動神経疾患のリスク増加と関連することがわかりました。一方FTDでは、繰り返し配列数の分布は健常者のものと差異がありませんでした。このことはataxin 2の繰り返し配列数の多寡は、FTD単独の発症とは無関係であることを示唆しています。
▽一方FTD-ALS症例では、29回以上の繰り返し配列数がリスクと関連していました。ataxin 2の繰り返し配列の伸長は、常にALSのリスクと関連することがわかりました
▽さらに、研究者らはataxin 2繰り返し配列数とC9ORF72遺伝子の繰り返し配列数との関連性が検討されました。健常者では、C9ORF72の6塩基配列(GGGGCC)の繰り返し数は2から23回まででした。
▽一方でALSないしFTDの症例では、繰り返し配列数は数百にのぼるケースもありました。フランスの研究では、322名が23回以上のC9ORF72遺伝子の繰り返し配列数を有しており、202名がALS、57名がFTD、63名がFTD-ALSでした。
▽これらのC9ORF72遺伝子過剰伸長を有する患者のうち、3%がataxin 2遺伝子の過剰伸長も合併していました。そのうちの全例がALSないしFTD-ALSであり、FTD単独の症例はありませんでした。
▽以上の結果から、ataxin 2遺伝子の過剰伸長は、FTD-ALSスペクトラムにおいて、病態をよりALS側にシフトさせることを示唆していると研究者らは述べています
▽ataxin 2遺伝子は、ALSにおける神経変性が運動神経に局在していることを解明する鍵を与えてくれるかもしれません
引用元
http://www.researchals.org/page/news/13890
▽TDP-43の過剰リン酸化や切断、ユビキチン化などの修飾が神経変性疾患の病態に関与していると考えられています。しかしALSにおけるTDP-43の病態に関与するメカニズムはよくわかっていません。
▽今回、研究者らは、SOD1変異モデルマウスにおけるTDP-43発現状況を調べることにより、TDP-43の病態に果たす役割を調べました。
▽その結果、SOD1変異モデルマウスの脊髄のアストロサイトとミクログリアにおいて、TDP-43蛋白質発現が観察されました。脊髄におけるリン酸化TDP-43や切断型TDP-43の量は、正常マウスと比較してSOD1変異モデルマウスにおいて増加していました。さらに血清鉄濃度と脊髄中のトランスフェリン(鉄の恒常性維持に関与する鉄貯蔵蛋白質)の発現量がSOD1変異モデルマウスにおいて増加していることがわかりました
▽また脊髄中の酸化ストレスに関連する指標であるHO-1の発現量もSOD1変異モデルマウスにおいて増加していました。
▽TDP-43の過剰リン酸化や切断などの変化量が増加することと、鉄代謝の機能不全や酸化ストレスの増大との関連性があることがわかりました。
▽以上の結果は、家族性ALSモデルであるSOD1変異モデルマウスにおける、脊髄での運動神経細胞死と、異常TDP-43蛋白質との関連性があることを示唆しています。
(この研究は韓国 Korea Institute of Oriental MedicineのMuDan Caiらによって報告され、平成27年3月号のNeurological Research誌に掲載予定です)
引用元
http://www.maneyonline.com/doi/abs/10.1179/1743132814Y.0000000443?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org&rfr_dat=cr_pub%3Dpubmed&
▽AMPK活性はSOD1変異(G93A)モデルマウスの大脳皮質、脊髄、小脳、後肢筋組織の各部位における免疫組織染色により測定されました。マウスは、高脂肪食、標準的給餌、カロリー制限食の3群にわけられました
▽AMPK活性のみならず、リン酸化AMPK、acetyl coenzyme-A carboxylase(ACC)、リン酸化ACC、熱ショック蛋白質-70(Hsp70)などについてもウエスタンブロット法により定量されました。
▽正常型SOD1マウスと比較して、変異SOD1マウスの標準的給餌群では、脊髄と後肢筋におけるAMPK活性が増大し、Hsp70発現が減少していました。カロリー制限SOD1変異マウス群では、標準的給餌群と比較して、AMPK活性が増大し、Hsp70発現が減少し、脊髄での運動神経細胞生存期間が減少し、生存期間が減少しました
▽高脂肪食投与SOD1変異モデルマウスでは、標準的給餌群と比較して、AMPK活性の減弱と、Hsp70の発現増加、生存期間の延長がみられました
▽SOD1変異モデルマウスでは、AMPK活性の増大は、おそらくHsp70発現低下が関与したメカニズムを通じて、運動神経細胞生存に対して悪影響を及ぼすと考えられます。このような変化は、食餌により修正可能でした。ALSに対してAMPK活性を抑制することが治療的効果を有する可能性があります
(この研究は、中国 Peking UniversityのZhaoらによって報告され、平成26年12月22日付のThe Journal of international medical research誌に掲載されました)
引用元
http://imr.sagepub.com/content/early/2014/12/22/0300060514554725.abstract
▽現在第2相臨床試験が進行中です。同時に、動物モデルを用いて、ヒト脊髄幹細胞移植がいかにして治療的効果をもたらすのか、その機序についての実験的研究が進められてきました。その過程において、インスリン様成長因子-I(IGF-I)が神経保護作用に寄与することが判明しました
▽IGF-IはALSに対する前臨床試験において、治療的有効性が期待できる結果の得られている成長因子の一種であり、研究グループは、自己分泌(分泌した物質が自身に作用する)によるIGF-I産生が、幹細胞の効果を増強する可能性があることをつきとめました
▽IGF-Iの産生量が通常の脊髄幹細胞の6倍の産生能力がある幹細胞と、通常の幹細胞を比較することにより、IGF-Iの産生が、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)の産生を促進し、幹細胞自身の増殖能や分化能に影響することなく、神経突起伸長を促進することがわかりました
▽さらに、研究者らは、IGF-Iの産生が増加することで、興奮毒性に起因した運動神経傷害からの保護作用が増強することを確認しました。
▽これらの所見は、神経幹細胞と、自己分泌での成長因子産生とが協働的にALSにおける運動神経保護作用を増強することを示唆しています。
(この研究は、アメリカ、ミシガン大学のLunnらによって報告され、平成26年12月23日付のStem Cells誌に掲載されました)
引用元
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/stem.1933/abstract
▽希少性神経・筋難病疾患の進行抑制治療のために、今年8月まで治験が行われていたHALが厚生労働省より希少疾病用医療機器として指定されました。優先承認審査により医療機器としての薬事承認が迅速化する可能性があります。
元記事
http://www.cyberdyne.jp/company/PressReleases_detail.html?id=1621
・今回の指定は、平成25年11月に公布された薬事法等の一部を改正する法律の施行の影響もあると思われます(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000045726.html)
・クローズアップ現代において今年6月にパワーアシストスーツの特集が放送されています(http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3520.html)。HAL開発者の筑波大学山海先生も出演されたようです。
・先進的な医療、医療機器が今後速やかに実用化されることが期待されます。
かなくん さんありがとうございました
・NurOwn細胞第2a相臨床試験の最終結果について議論するカンファレンスについての告知です
・平成27年1月5日にwebcastが行われる予定です
▽既に平成26年6月にヨーロッパ神経学会において第2a相臨床試験の中間結果が報告されており、良好な結果が報告されています
▽今回は、さらに数名の被検者のデータが追加された最終結果についての報告が行われます。
▽第2a相臨床試験の中間結果と第1/2相臨床試験の結果の報告では、NurOwn細胞の単回投与の結果が報告され、安全性が高く、進行遅延などALSに対する有意な治療的効果がみられたことが報告されています
▽幾人かの患者においては、症状改善も観察されました。最終結果は、これらの結果のさらなる経過について報告され、今後の方向性について議論される予定です。
第2a相臨床試験について
・イスラエルのHadassah Medical Centerにおいて行われました
・20歳から75歳までの発症2年以内の14名のALS患者が対象となりました。患者自身の骨髄中より採取された間葉系幹細胞を用いて、神経栄養因子を放出する細胞(NurOwn細胞)への分化誘導が行われ、その後患者の髄液中への注入と筋注によりNurOwn細胞単回投与が行われました
・最初3ヶ月間は、患者の臨床経過が観察され、投与後の6ヶ月間、経過が観察されました。
引用元
http://www.brainstorm-cell.com/index.php/news-events/330-december-22-2014
▽記銘力の低下や判断力の低下は正常老化過程においてみられる変化であり、神経細胞間の結合変化や喪失に起因すると考えられています
▽今回、Rockefeller大学の研究者らはALS治療薬のリルゾールが、これらの変化を防ぎうる可能性を示しました
▽正常ラットにリルゾールを投与する実験により、加齢により記銘力低下が、リルゾールにより停止しうることがわかりました。りルゾール投与により、海馬における神経間の結合状態が改善し、特定の神経細胞間の伝達が改善したとのことです。
▽今週のPNAS誌に掲載された報告によると、神経同士はシナプスにより結合し、神経間のシグナル伝達は、グルタミン酸などの伝達物質により行われます。このグルタミン酸が過剰となり、シナプス間隙より漏出するなどすると、本来活動すべき部位以外での神経興奮が生じ、神経損傷につながるとのことです。
▽加齢に伴う認知機能低下においても、グルタミン酸過剰による神経損傷の影響が関与していると推測されています。アルツハイマー病などの神経変性疾患では、神経細胞死への関与が疑われています。
▽リルゾールは、グルタミン酸放出と、再取り込み過程に作用し、グルタミン酸過剰による影響を緩和すると考えられています。研究者らはラットを用いて、人間の中年にあたり、認知機能低下が始まる10ヶ月齢よりリルゾール投与を開始しました
▽17週間のリルゾール投与後に、ラットの記憶力をテストするため、空間記憶を調べる課題を用いました。その結果、リルゾールを投与したラットは、非投与群と比較して、有意に良好な成績を収め、若年ラットに匹敵する成績であったとのことです
▽解剖学的に脳内の状況を調べたところ、海馬のグルタミン酸神経系において、最も可塑性に富む神経細胞の樹状突起の密度増強が観察されました。このことはリルゾール投与により、シナプス強度と可塑性が改善したことを示唆し、その結果記銘力改善効果がみられたものと推測されます
▽リルゾール投与群の速やかな可塑性を有する樹状突起密度は、若年ラットよりも高密度でした。加齢や、アルツハイマー病によるグルタミン酸の有害な影響を、リルゾールによる樹状突起密度変化が補償し、認知機能の悪化を防ぐ可能性があります
▽現在軽度アルツハイマー病に対するリルゾール投与の臨床試験が行われています。
・グルタミン酸神経系に作用する抗認知症薬としてはメマンチンがすでに実用化されています。リルゾールがどの程度の有効性を発揮するか注目されます
引用元
http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141222111942.htm
▽必須微量元素の恒常性維持機構の障害は神経変性疾患を含む様々な疾患と関連しています。
▽これまでの研究では、ALS患者の脳脊髄液中の亜鉛濃度が有意に上昇していることが報告されています。
▽亜鉛トランスポータとメタロチオネイン(必須微量元素の恒常性維持ないし重金属の解毒を担うと考えられている蛋白質)は細胞内および細胞外の亜鉛濃度をコントロールしています
▽今回の研究では、亜鉛トランスポータファミリーであるZnT濃度(ZnT蛋白質のZnT1,3,4,5,6,7,10サブタイプが調べられました)がALS患者とモデルマウスにおいて調べられました。
▽孤発性ALS患者の脊髄においてはZnT3とZnT6蛋白質が健常対照群と比較して有意に減少していました。さらに免疫染色の結果、ALS患者の脊髄前角においてZnT3とZnT6発現の減少がみられました
▽ZnT蛋白質は、脊髄の特定の運動神経細胞に局在化して発現していました。さらには、SOD1変異(G93A)モデルマウスにおいて、症状発現前と後とで、ZnT3とZnT6蛋白質濃度の変化は見られませんでした。このことは、ZnT3とZnT6蛋白質濃度の変化が、単に運動神経細胞の喪失によってのみ起こるわけではないことを示唆しています
▽以上より、孤発性ALS患者の脊髄においては、ZnT3とZnT6の亜鉛トランスポータ蛋白質の減少がみられ、亜鉛濃度の恒常性維持機構に異常が生じていることが示唆されます。
(この研究は、岐阜薬科大学のKanekoらにより報告され、平成27年2月号のJournal of neuroscience researchに掲載予定です)
引用元
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jnr.23491/abstract;jsessionid=C54F50CCD1CD3E255271613942875146.f04t01
▽TDP-43蛋白質は、ALSと前頭側頭型認知症の神経細胞においてみられる細胞質内封入体の主要な構成成分です。TDP-43をコードしているTARDBP遺伝子の変異が孤発性ないし家族性ALSの症例でみつかっています
▽研究者らは、TDP-43蛋白質変異による細胞傷害のメカニズムについて調べるため、ALSに関連した2種類の変異型(A382TないしM337V)のいずれかを有するARBDP遺伝子が、細菌人工染色体によりヒトやマウスの培養細胞中に組み込まれました
▽M337V変異を有するTDP-43蛋白質は、正常型やA382T変異を有する場合よりも、より細胞質内に局在化しやすく、この局在化は、酸化ストレスにより増強することが観察されました。
▽さらにM337V変異を有するTDP-43蛋白質が細胞質内で局在化した細胞は、細胞内凝集体を自然に形成しました。一方A382T変異では、細胞質内のCa濃度を上昇させ、小胞体内のCa濃度を減少させることで、小胞体ストレスを誘発するthapsigarginを投与した場合のみ、凝集体を形成しました
▽健常細胞において小胞体内のCa濃度を低下させることにより、細胞質内でのTDP-43の異常局在化といったALS関連変異型細胞での異常所見が部分的に再現されました。このことは、Bcl-2蛋白質濃度の変化を伴う、Ca濃度調節異常が、病態の介在因子であることを示唆しています。
▽小胞体からのCaシグナリングの異常は、TDP-43変異を有する神経細胞や不死化細胞において観察され、健常細胞と比較して、小胞体Ca貯蔵量の50%減少と、小胞体からのCa放出遅延が観察されました
▽小胞体からのCa放出の異常は、Bcl-2の過剰発現と関連し、siRNAを用いてBcl-2をノックダウンしたM337V変異細胞においては、Caシグナリングの振幅の回復が観察されました。
▽以上の結果は、TDP-43蛋白質の病的変異は、TDP-43蛋白質の細胞質内での異常局在化と、Bcl-2を介した小胞体Caシグナリング異常をもたらすことを示唆しています
(この研究は、イギリス、 University of OxfordのMutihacらにより報告され、平成26年12月16日付のNeurobiology of disease誌に掲載されました)
引用元
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0969996114003817
・紀伊半島は国内のALS集積地域の1つとして知られています。この地方におけるALSの病因仮説として、金属の影響とするものがあります。この仮説を検証した報告です
・紀伊半島ALS患者では、亜鉛、マンガン、バナジウムなどの頭髪内含有量が多いことがわかりました
▽研究グループは、紀伊半島の古座/古座川/串本地域のALS患者の頭髪サンプルを用いて、遷移金属の蓄積状況を調査しました
▽蓄積した金属量は、88名の紀伊半島地域住民、20名の対照健常群、7名の紀伊半島ALS患者、10名の孤発性ALS患者より、パーマや染色されていない頭髪を採取し、中性子放射化分析により定量されました
▽その結果、紀伊半島ALS患者では、亜鉛、マンガン、バナジウムが対照群より高濃度であり、硫黄含有量は対照群より低濃度でした。紀伊半島ALS患者の頭髪内マンガン量は罹病期間と逆相関していました。
▽アルミニウムの含有量は、紀伊半島住民において、対照群より有意に高濃度でした。また紀伊半島住民のマンガン含有量は、15.9%が対照群の75パーセンタイルより高濃度でした。
▽紀伊半島ALS患者の亜鉛、マンガン、バナジウム含有量は、アルミニウム含有量と相関していました。
▽これら遷移金属の蓄積により、慢性的な金属誘発性の酸化ストレスが増大し、紀伊半島ALS患者の神経変性の引き金になった可能性があります
(この研究は近畿大学のKihiraらにより報告され、平成26年12月20日付のBiological trace element research誌に掲載されました)
引用元
http://link.springer.com/article/10.1007/s12011-014-0202-6
・またBMAAとよばれる神経毒素がALSの病因となっている可能性があり、BMAAの毒性に拮抗するため大量のL-serineを投与する治療法についての臨床試験が予定されています。
▽イギリスの研究者は、現在ALSの一部の患者の病因と、患者の住環境、特に池や沿岸水域の近傍における住環境との関連性について注目しています。
▽約5年前に、ニューハンプシャー病院の医師は、ALSの患者数と生活地域との関連性に注目しました。
▽その結果、ALS患者の多発地域が、池や沿岸地域に何箇所か発見されました。研究者らは、アオコの毒性との関連性に注目しています
▽アオコにより産生された神経毒を吸入することによりALSのリスクが上昇するかどうかについて研究されています。これまでのところ、アオコ毒が神経細胞を傷害することはわかっていますが、動物実験でもALS類似の病態発症の証拠をつかむことはできていません
▽アオコはシアノバクテリアとも呼ばれています。近年、神経変性疾患における遺伝子と環境との相互作用について注目が集まっています。シアノバクテリアも孤発性ALSとの関連性で注目されています。
▽シアノバクテリアのいくつかの種は、人体に有害性のある毒素を産生します。今年8月には、オハイオ州の水源であるエリー湖においてシアノバクテリアが増殖し、汚染されたため、上水道が停止し、数万人に影響がでました。
▽戦後間もない時期に、グアムに赴任していた軍医は、チャモロ地方の原住民に、ALSと認知症を合併した変性疾患が多いことを発見しました。その後この地域の罹患住民の死後脳から神経毒のBMAAが発見されました。ソテツの根や種に寄生するシアノバクテリアがこの毒素を産生します
▽研究者らは、ソテツの実を摂取したこうもりに毒素が蓄積し、これを狩猟する住民が毒素に暴露すると考えました。しかし、この地方のこうもりを摂取していないカナダのアルツハイマー型認知症患者においてもBMAAが発見されており、その由来はなぞとなっています
▽別の研究者らは、水中の魚、魚介類に含まれるシアノバクテリアに由来したBMAAが人体に蓄積するのではないかと考えています。南フランスの研究者は、フロリダ産のムラサキ貝、カキ、ロブスター摂取とBMAA蓄積、ALS発症との関連性について注目しています。
▽しかし、実際の関連性は不明で、どの経路からとりこまれた毒素が有害なのかについてもわかっていません。
▽イギリスでは、ニューハンプシャー州のある都市において、孤発性ALS患者の集積がみられることが報告されました。Mascoma湖の周囲の都市ではるEnfieldでは、孤発性ALSの発症率が、平均の10-25倍と高いことがわかりました。
▽明らかな原因はわかりませんが、シアノバクテリアとの関連性が疑われています。
▽今年初めには、研究者らは、湖の水質が悪ければ悪いほど、ALS発症のホットスポットとなる確率が増大することを報告しました。溶存窒素化物(肥料や下水などの汚染物によるもの)濃度が高い湖の18マイル以内では、ALSのホットスポットとなる確率が1.67倍になることがわかりました。
▽これらの所見は、孤発性ALS発症が環境的水質要因、水質汚染とシアノバクテリア発生との関連性を有する可能性を示唆しています。
▽イギリスにおいて、神経毒素が体内に蓄積する経路の大部分は不明で、患者についても食事の嗜好や活動などの共通点があるわけではありません
▽大気中のシアノバクテリアやBMAAなどの神経毒素の量についても調べられました。湖周辺の住民が、大気からうける暴露量を測定するためです。その結果、湖周辺の大気中からもシアノバクテリアを含むエアロゾルが検出されました。
▽一方で、湖から近く、BMAAに暴露されることが、必ずしもALSと関係しないとする研究者もいます。理由は、動物に対してBMAAを投与することにより神経細胞の障害は生じますが、運動神経細胞は障害されず、動物実験ではALS様の症状が再現できていないからです
▽BMAAが神経変性疾患を引き起こす機序としては、BMAAが生体内ではアミノ酸のL-serineと誤認識され、蛋白質中に取り込まれた結果、蛋白質が異常な折り畳み構造をとる可能性が考えられています。
▽研究者らは、BMAAの毒性から生体を保護するため、大量のL-serineを投与し、BMAAに拮抗させるというアイデアに基づいた臨床試験の実施を予定しています。
元記事
http://www.truth-out.org/news/item/28089-closing-in-on-als-link-between-lethal-disease-and-algae-explored
・このことにより、大量のサンプルを用いた研究が可能となり、病態解明への道のりが加速することが期待されます
▽研究者らは、過去数十年にわたって貯蔵された血液サンプルのDNAを用いて、神経幹細胞や腸管幹細胞を作成する新たな技術を開発しました
▽これまでは、iPS細胞の作成のためには、線維芽細胞の採取が必要であり、皮膚生検が必要でした。今回研究者らは、血液サンプル中のリンパ芽球からiPS細胞を作成する技術を開発しました。
▽この研究結果がもたらす意義は大変大きく、血液サンプルを用いてiPS細胞を作成し、症状経過と遺伝子異常との関連や、治療法についての研究に用いることができます。
▽Ceders-Sinai研究所が、過去のサンプルと被検者の詳細な病歴の調査を開始しています。手始めにクローン病についての調査が開始されます
・
今後ALSの研究にも適応が期待されます
元記事
http://medicalxpress.com/news/2014-12-recreate-stem-cells-deceased-patients.html
http://stemcellstm.alphamedpress.org/content/3/12/1429.short?rss=1
・C9ORF72遺伝子変異は前頭側頭型認知症を伴うALSにおける原因遺伝子変異の1つですが、今回、この遺伝子変異が神経細胞死をもたらす原因の1つが判明しました。
・poly-PR鎖蛋白質が神経細胞に対して強い傷害性を有することがわかりました。今後この蛋白質をターゲットとした治療法の開発が期待されます。
▽研究者らは、ALSの病態を理解し治療法を発見しようとしています。Neuron誌にこの度掲載された報告によると、ALSにおいてしばしばみられる遺伝子変異が、脳損傷をもたらす細胞傷害性の蛋白質を生成するとのことです。
▽約5%のALS患者はC9ORF72遺伝子の変異を有しています。C9ORF72遺伝子における、、6塩基の繰り返し配列数が、通常は24個以下のところ、ALS患者では数百個と過剰になっています。
▽この遺伝子は2011年に発見されましたが、研究者らはC9ORF72遺伝子の正常機能と、ALSの病態に果たす役割について探求してきました。この点についていくつかの仮説が立てられてきました
▽今回の研究に携わった研究者らは3つの仮説を提唱してきました。1つ目は、C9ORF72遺伝子の過剰反復配列により、遺伝子の正常機能が喪失し、細胞死が生じるとの仮説です。そこで、研究者らは遺伝子をノックダウンし、結果を調べました。しかし神経細胞は通常の機能を維持することができました。したがってC9ORF72遺伝子は、細胞が正常に機能するために必要な蛋白質をコードしているわけではないことが示唆されました
▽もう1つの仮説は、反復配列に起因した生成物が毒性を発揮する可能性です。この生成物はRNAないし蛋白質となります。C9ORF72遺伝子から生成するRNAは、G-quartetと呼ばれる、平面構造の積み重ねに似た、通常みられない形態の折り畳み構造を有します。この異常な構造が細胞音正常機能に悪影響を及ぼす可能性が考えられました。
▽3つ目の仮説は、過剰な繰り返し反復配列から異常な蛋白質が生成され、これが細胞毒性を発揮するという仮説です
▽研究者らは、G-quartetをコードするRNAを生成し、C9ORF72遺伝子の変異のない健常細胞に注入しました。その結果、G-quartet数が多く、積み重ね平面構造数が多くなるRNAを注入した場合、G-quartet数が少ない場合と比較して、細胞死の割合が2倍になることが判明しました
▽この結果は、G-quartet過剰RNAが細胞毒性を有することを示唆しています。
▽しかしながら、今回の研究成果の最大のものは、C9ORF72 RNAから生成される蛋白質の性質です。同じRNA配列から5種類の蛋白質が生成されます。これら5つのうち1つが、顕著な細胞毒性を有することが発見されました。
▽プロリン(P)とアルギニン(R)の繰り返し配列からなる鎖状蛋白質はpoly-PR鎖と呼ばれます。このpoly-PR鎖蛋白質が細胞核小体に蓄積すると、急速に細胞死が生じます。
▽poly-PR鎖蛋白質が多い神経細胞に注目すると、poly-PR鎖蛋白質が核小体に蓄積するにつれて、細胞はより膨張し、突然細胞死が生じます。この反応は急速であり72時間以内に起こるということです
▽ヒトC9ORF72遺伝子変異ALS患者でも同様の現象が起きているか確認するため、研究者らは患者のiPS細胞を用いて実験を行いました。その結果poly-PR鎖蛋白質が細胞内にみいだされ、RNA鎖とpoly-PR鎖蛋白質が同時に存在すると、相乗効果により運動神経細胞死が促進されたとのことです
▽この研究結果は、poly-PR鎖蛋白質の蓄積を抑制したり、蓄積を分解することができれば、運動神経細胞死を防ぎ、治療的効果が期待できることを示唆しています。
引用元
http://www.sciencedaily.com/releases/2014/12/141217131435.htm
▽用途が多様であり、入手が容易であることから、臨床応用研究が急速に発展しており、組織再生能、抗炎症作用、抗がん作用などを中心に研究が進められています
▽hAMSCsは通常は、21%の酸素濃度下で培養されます。しかしながら、生理的には、hAMSCsはずっと低い酸素濃度下においても生存可能です。
▽通常の酸素濃度下で培養したhAMSCsは、増殖能や遊走能、生存能において限定的な能力しかありません。今回研究者らは、低酸素環境下での培養により、hAMSCsの性状がどう変化するかを調べました
▽その結果、低酸素濃度下での培養したhAMSCsは多能性を保持していました。さらに、成長速度が速く、細胞死の割合も少なく、運動能が高く、ヒト脳腫瘍(グリオブラストーマ)由来の細胞に対する指向性も高いことがわかりました
▽重要なことに、低酸素濃度下で培養したhAMSCsは、腫瘍に関連した線維芽細胞への分化は示さず、発がん性はみられませんでした。一方で、低酸素濃度下培養hAMSCsは、試験管中および生体内において、脳腫瘍細胞の正常分化への誘導を促進しました。
▽これらの所見は、培養技術が、hAMSCsの機能を高めうることを示唆しており、今後のALSなど様々な疾患に適応する際に、重要な技術といえます。
(この研究はアメリカ Johns Hopkins UniversityのFengらによって報告され、平成26年12月11日付のCell Death & Disease誌に掲載されました)
引用元
http://www.nature.com/cddis/journal/v5/n12/abs/cddis2014521a.html
・平成26年12月16日付の日経Web版に掲載の記事からです(有料版のため、誰でも閲覧できる記事ではありません。Kさんから頂いた情報を以下▽に転載します)
▽第10回文部科学省科学技術調査結果を受けての記事です。
▽それによると、「パーキンソン病やALSなどの再生治療の国内普及は、2025年と予測する」という内容です。
▽この調査は、研究職である専門家4000人の技術予測であり、実現への意欲や確信がある技術目標といえる、また、報告書に盛り込む技術は、政府の研究投資や規制緩和が優先して進む期待もあり、企業の事業戦略にも影響しそうだ、という日経のコメントです。また、確かに的中率を巡る議論は残るが、日本の強みの開発分野や、日本が力を入れるべき研究テーマを絞り、技術開発に携わる官民の関係者が確認する意義は大きい、とも解説していました
・まだ先のように思えますが、2020年からおよそ5年毎に予測されるイベントが記載してあり、2020年の予測イベントが「痛くない注射針の開発」のみのようであり、全体からすると2025年は上位に入ります。
・あくまで普及時期の予測であり、開発はそれ以前の段階であることから、もっと早い時期に決定的な治療法が開発されることは期待できます。
・Kさん情報提供ありがとうございます
引用元(有料記事です)
http://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKZO80947380V11C14A2TJM000
▽研究者らは、ALS患者485名を対象に、PFN1遺伝子の解析を行い、これまで知られていたE117G変異とは別に、2つの変異型A20TとQ139Lを見出しました。PFN1遺伝子変異は全体の1.2%で見出され、ALSの病因としてはまれな変異といえます
▽症例対照研究のメタ解析により、PFN1遺伝子のE117G変異を有する場合、ALSの発症オッズ比が3.26倍と有意に増大します。このことはE117G遺伝子変異が発症脆弱性につながりうる変異であることを示唆しています。
▽これら変異を有する死後脳研究により、TDP-43の凝集が認められました。研究者らは、PFN1のA20T変異を有する線維芽細胞において、ALSの病態の特徴である、蛋白質凝集と不溶性高分子種の形成とがみられることを観察しました
▽これらの所見は、ALSの病態に新たな原因遺伝子変異を付け加えるものであり、ALSの病態の多様性を示すものといえます。
(この研究は、イギリス King's College LondonのSmithらにより報告され、平成26年10月31日付のNeurobiology of Aging誌に掲載されました)
引用元
http://www.neurobiologyofaging.org/article/S0197-4580(14)00692-7/abstract
・臨床試験の情報ではなく、イスラエルからGrantを取得したとのニュースでした
・平成26年12月15日付のPress Releaseによると、BrainStorm社は、イスラエルにおいて、Israel’s Office of the Chief Scientistから現在のレートでおよそ1億2千8百万円の資金供与を受けることがきまったとのことです
・Israel’s Office of the Chief Scientistはイスラエル政府下組織のようです。BrainStorm社はNurOwn細胞に関連して、2007年から現在までに同組織から4億円以上の資金供与を得ているとのことです。
・日本でも、政府から、国内の遺伝子治療研究所などのALS関連研究機関に対して、このくらいの予算を投じてほしいものです。成功すれば国益になると思うのですが。
引用元
http://www.brainstorm-cell.com/index.php/news-events/329-december-15-2014
▽SOD1蛋白質の変異は、ミトコンドリア膜や小胞体膜に関連した、複数の細胞毒性を獲得すると考えられています。しかしその構造的メカニズムは不明でした。
▽研究者らは核磁気共鳴法を用いて、非変異型SOD1蛋白質と、切断変異(L126Z)を有する変異SOD1蛋白質(通常はG93A変異SOD1蛋白質で病態が調べられることが多い)の水溶液中での形態と、膜存在下での形態を調べました。
▽切断変異を有する変異SOD1蛋白質は毒性が強く、少量で家族性ALSを引き起こすことが知られています。切断変異SOD1蛋白質は、水溶液中で非常に不規則な形状を呈し、非変異型のとるβバレル構造(蛋白質の3次構造の一種)をとることができませんでした。
▽非変異型SOD1蛋白質も、ジスルフィド結合が乏しい場合や、亜鉛欠乏下においては、不規則構造をとることがわかりました。膜環境下においては、変異SOD1蛋白質も、非変異SOD1蛋白質もいずれも類似したらせん構造をとることがわかりました。
▽以上より、SOD1蛋白質における切断変異、もしくは亜鉛欠乏は、正常なβバレル構造喪失につながり、細胞質蛋白質から、よりエネルギー的に安定な、細胞内器官の膜内で両親媒性(同一分子内に親水基と疎水基を併せ持つ)のらせん構造をとる膜蛋白質へと変化しやすいことがわかりました
▽亜鉛欠乏は、非変異SOD1蛋白質を変異型に変化させることができるため、非変異SOD1蛋白質も、家族性ALSにおけるSOD1蛋白質も共通したメカニズムでALSの病態を引き起こしうる可能性を示唆しています
(この研究は、シンガポール、National University of SingaporeのLimらによって報告され、2015年1月号のBiochimica et biophysica acta誌に掲載予定です)
引用元
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S000527361400337X