【研究の目的】
腸内常在菌は人の健康に多大な影響を与えており、特に免疫系疾患や大腸ガンとの関与が知られています。また、近年、肥満や寿命など大腸内環境と直接的に接していない全身系への影響も報告されています。脳も例外ではなく、腸と脳は、神経系やホルモン、サイトカインなどの共通の情報伝達物質と受容体を介し、双方向的なネットワーク「腸脳相関」を形成しています。さらに最近の研究で、腸脳相関の腸管側刺激因子と腸内常在菌が強く関わっていることが明らかとなり、神経発達障害や脳の発達と行動にも腸内細菌叢が影響することが報告されています。しかしながら、神経伝達物質以外の脳内代謝系への影響を調べた研究は少なく、未だ解明されていません。そこで本研究では、脳内代謝物の網羅的解析により、腸内常在菌が大脳に与える影響を調べました。
【方法】
同じ両親から生まれた雄マウスを無菌マウスと通常菌叢マウスの2グループに分けて飼育し、7週齢で安楽死後、直ちに大脳皮質を得ました。広範囲の成分を分離・分析することが可能なCE-TOFMSを用い、脳内代謝物のメタボロミクスにて網羅的に解析しました。
【結果】
大脳皮質から196の代謝産物が検出されました。無菌マウスの方が通常菌叢マウスより濃度が高かった成分は23成分検出され、この中には、行動と関連深い神経伝達物質ドーパミン、統合失調症との関連性が示されているアミノ酸のセリン、多発硬化症やアルツハイマーとの関連性が知られているN-アセチルアスパラギン酸が含まれていました(図1)。さらに、解糖系中間代謝産物や補酵素NADHやNADP+とエネルギー代謝に関連する成分も含まれており、大脳のエネルギー消費にも腸内常在菌が影響していました。すなわち、腸内常在菌が宿主の思考や行動にも影響している可能性が示唆されました。
無菌マウスの方が通常菌叢マウスより濃度が低かった成分は15成分検出され、この中には、神経伝達物質の前駆物質である芳香族アミノ酸(トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン)や、てんかんとの関連性が示唆されているピペコリン酸などが含まれていました。
本研究結果は、腸内常在菌が大脳の代謝系に大きな影響を与えていることを示しており、脳の健康、疾病、発達および衰弱、さらにヒトを含めたほ乳類の学習、記憶および行動の研究において重要な基礎的知見となります。
詳しくは、理化学研究所プレスリリース
http://www.lkm512.com/contents/FSN_201304.pdf
この成果は4月1日発行の英国科学誌「ネイチャー・ストラクチャル&モレキュラー・バイオロジー(Nature Structural & Molecular Biology)」に掲載された。また研究は文部科学省科学研究費補助金および内閣府最先端・次世代研究開発支援プログラムの支援のもとで行った。
詳細は、こちら
http://www.titech.ac.jp/file/pr20130422_osumi.pdf
ALSのマウスモデルの胚性幹細胞(ES細胞)と、ヒトのALS患者の細胞から作製したiPS細胞をもとに運動ニューロンを作り出して、約5000種類もの化合物をテストした。その結果、ケンパウロン(分子式C16H11BrN2O)と呼ばれる化合物を与えた場合に運動ニューロンが細胞死に至らず、高い生存率を示した。
ちょっと大きいニュースが出ましたので頑張って夜中に翻訳しました!
FDAからNSI-566の投与量増量治験の開始にGOサインがでました!
意外に少人数(15人)で行われますので、治験期間が短縮されるかもしれないですね。
最大の予定投与量も第1相の11倍近くの細胞を投与するので、よりはっきりした効果が見られるかもしれません。開始前から結果が楽しみです。
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FDAがALS幹細胞治験を認可
Neuralstemは、NSI-566の神経幹細胞(治療法)の第2相増量/安全性(確認)治験をALS患者について行う事になった。
Marylandのバイオセラピー会社、Neuralstem社はNSI-566神経幹細胞(治療法)のALS患者への第2相治験を行うためのFDAの認可を受領した事を本日発表した。
神経幹細胞は筋肉を制御する神経細胞(運動神経)と脳内にグリア(一種の運動神経補助細胞)を生成する。Neuralstem社はこの臨床試験が患者の呼吸機能を改善し生存期間を伸長することを期待している。
この治験は安全性評価と最大投与許容量を決定するためにプランニングされており、下記の2つのセンターに拡大して行われる。
・アトランタEmory大学MDA/ALSセンター、 (第1相治験が行われた場所)主席調査員Jonathan Glass氏
・Michigan大学ALSクリニックAnn Arbor健康システム、主席調査員 Eva Feldman氏
最大投与許容量を決定
調査員たちは15人の参加者を予定しており、参加者は5つの異なる投与量のグループに分けられる。最初の12人の患者は首付近の脊髄に幹細胞の注入を受ける。最後の3人は腰部と首付近の両方の脊髄に注入を受ける。
(治験参加の)適性基準は、歩行可能である事と、治験を受けるセンターの地理的近郊に住んでいる事である。
Neuralstem社の会長で主席科学役員のKarl Jose氏は「第2相治験の目的は、脊髄の原因部分と思しき箇所に直接注入を行った第1相治験と同じ方法を使って、最大許容投与量の情報を得る事だ」と4月17日発行の Neuralstem プレスリリースで話している。「第1相治験では我々はたった5回の注入から始めて10万個の細胞を最大15回注入した。第2相治験では安全を確認しながら1回当たり40万個の細胞を、最大40回注入する。」
第1相の期待できる結果に立脚
この新たな第2相治験は、治験調査員たちが15人の患者に18回の幹細胞移植を成功させて完了している第1相治験に続くものである。(3人の初期の治験参加者はFDAから治験の最期に再参加する事を許可されている)
最初の12人の患者は腰部脊髄に幹細胞の注入を受けた。最初に歩行能力を失った患者に行い、次に歩行可能な患者に施術した。さらに治験は頚部脊髄に対する移植に進んだ。3人の患者は頚部のみに移植を受け、最後の3人は最初に腰部脊髄のみに移植をうけていたが、再度頚部脊髄に移植を受けている。
この治験の結果より、移植に使われた細胞と外科技術は十分認容できるものであり、細胞は長期間生き残った。さらにひとつの患者グループの結果からは、この臨床治験が病気の進行を妨げているように見えている。
アメリカ合衆国ベースで最初に行われたALS患者対象の脊髄・幹細胞治験は2010年1月にEmory大学MDA・ALSセンターで開始された
原文
http://alsn.mda.org/news/fda-approves-als-stem-cell-trial
より詳しい情報
http://investor.neuralstem.com/phoenix.zhtml?c=203908&p=irol-newsArticle&ID=1807567&highlight=
マウスには、体毛を撫でられることによって快感の感覚を引き起こすニューロンがあることが発見された。
しかし、人間にも存在するかどうかはまだわからない。
頭を撫でられたり、手で髪を梳かれたりするのが好きな人は多いのではないだろうか。
その理由は、ひょっとしたら一群の感覚ニューロンにあるかもしれない。このニューロンは、まさにこの種の刺激に付随して活性化し、快感をもたらしているように思われる。ただ、「かもしれない」と書くことが必要だ。
というのも、このような現象が発見されたことが「Nature」で発表されたものの、いまのところ、マウスで観察されたにすぎないからだ。
デイヴィッド・アンダーソン率いるパサデナのカリフォルニア工科大学の科学者たちは、この実験のために開発したある特殊なブラシを利用して、 マウスの体毛を撫でた。そして、脳機能イメージング技術で実験動物の脳を観察することによって、 この刺激がミエリンを欠く一群のニューロンを活性化させることを発見した。これらのニューロンは、体毛で覆われた体の部位のみに神経を延ばしており、MRGPRB4と呼ばれるタンパク質を発現している。
研究者たちは、これとは異なる別の種類のニューロンが、肌をつねる刺激に対応していることも発見した。
科学者たちによればこの行動実験は、MRGPRB4ニューロンの活性化が、マウスに抗不安効果をもたらし、報酬系、つまり快感と関係する感覚を促進することを示唆している。このことを理解するために、研究者たちはブラシで刺激を受けているマウスに、いわゆるCPP(Conditioned Place Preference:場所嗜好性)試験を行った。特別な刺激や体験に起因する動機づけ効果を、対照用のニュートラルな状況での動機づけ効果と比較しながら測定する実験だ。
研究者たちの結論は、おそらくマウスやほかの多くの種の動物に見られる互いに体毛をつくろい合う習慣は、
まさにMRGPRB4ニューロンによって活性化される報酬系と関係しているというものだ。
「同じことが人間にも起こると決めつけるにはまだ早過ぎます。わたしたちの次の実験は、
人類もマウスで観察されたのと同じようなニューロンをもっているかを調べるのに役立つでしょう」と、アンダーソンは結んでいる。
ミエリンとは?
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%84%E9%9E%98
ミエリンとALS(慶応大、iPS細胞から完全な神経 試験管内で)
http://alexkazu.blog112.fc2.com/blog-entry-205.html
2012年12月19日 Scientific Reports 2 : 1002 doi: 10.1038/srep01002 (2012)
パーキンソン病原因遺伝子PINK1とparkinは、それぞれキナーゼとユビキチンリガーゼをコードしている。これらの遺伝子産物はミトコンドリアをターゲットとしたオートファジー、つまりマイトファジーに関与する。ミトコンドリア膜電位(ΔΨm)が消失すると、未知の機構で細胞質のParkinがPINK1によりミトコンドリアに誘導され、これがマイトファジーにおける一連の現象を引き起こす最初の段階となる。本研究では、Parkinのユビキチン様ドメイン(Ubl)の65番目のセリン残基(Ser65)が、ΔΨmの脱分極に応じてPINK1依存的にリン酸化されることを報告する。Ser65への変異導入実験により、Ser65のリン酸化はParkinの効率的な移行に必要なだけでなく、マイトファジーにおけるミトコンドリアタンパク質の分解にも必要であることが示唆された。また、Parkinの疾患型変異体を用いたリン酸化解析から、Ser65のリン酸化がParkinのミトコンドリア移行の十分条件でないことも示唆された。今回の研究から、マイトファジーの初期段階として、PINK1依存的なParkinのミトコンドリア移行と活性化の分子機構の一部が明らかになった。

詳しくは、ライフサイエンス新着論文レビューにて
http://first.lifesciencedb.jp/archives/6794
TDP-43の主要なRNA結合ドメインであるRRM1ドメイン構造の脆弱性の仕組みの一端を解明し、その異常会合によって、TDP-43がALS発症に関わる病原構造に転換することを明らかにした論文が、本日Journal of Biological Chemistry誌にオンライン掲載されました。小代さん、守村先生が中心となって進め、兵庫医科大学、和歌山県立医科大学、京都大学、立命館大学、理化学研究所との共同研究による成果です。
http://www.jbc.org/content/early/2013/04/04/jbc.M113.451849.abstract
詳しくは、たまとまさんのブログを読んでください。ありがとうございます。たまとまさん!!
脊髄の中で通常は神経細胞をサポートしている細胞が、ALSの場合は病態を悪化させている事がALSを再現した動物モデルで確認された。この研究は先頃Nature Neuroscienceに掲載された。
http://blogs.yahoo.co.jp/tamatoma8versionup/45429843.html
BrainstormのNurownに少し後れを取っている2番目の幹細胞治療法であるNeuralstem社のNSI-566について面白い記事を見つけましたので翻訳しました。
どうもやはり幹細胞療法は効果がありそうですね。これで完治はできないですが、症状を逆行させる事はできるようです。
今年後半にメキシコでⅠ/Ⅱ相治験を行う事になっており、アメリカではⅡ相治験がFDAの許可待ちになっているようです。原文のリンクを最後に載せてありますが、そこにアメリカのテレビ局で放映されたニュース映像が出ています。
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<Henry郡の男性が実験的ALS幹細胞手術を受ける。>
アトランタ-ヘンリー郡に住む3人の子を持つ父親が、危険な最先端の脊髄手術を一度のみならず、二度受けた。
テッド・ハラダは第15番目で最後の人幹細胞移植を受けるALS患者である。
彼は世界中が関心を寄せるEmory研究の一角を担っているのである。
外科医たちは単に細胞を脊髄に注入するだけだ-細胞は、すべての呼吸、動作、筋肉を制御する脊髄にさらされる事になる。
テッドとミシェル・ハラダは以前にもこれを経験していた。彼らは結婚して18年目。テッド(40歳)は2年前にALSと診断されている。「私はこれが正しい事だと確信している。そしてこれが正しいと思うのは、自分を助けるだけでなく、助けを求めている人がたくさん居るからだ。」とハラダは言う。
テッドは、ALS、すなわちルーゲーリック病は自発呼吸ができなくなるまで進行的に筋肉を止めて行く事を知っている。
テッドはEmoryで、人類最初のALS患者向けの人間幹細胞の治験にボランティアで参加した。
彼は3人の子供たち14歳の息子、12歳の娘、8歳の娘のために危険を冒したのだという。
「しかし、それらは本当に最先端の科学で私に効果のあるものだった。」とハラダは話した。
医者たちは12年前に堕胎された胎児の幹細胞を使用している。
それらはNeuralstemと言う会社の研究室で培養され、増殖されたものだ。
彼らはALS患者の脊髄に直接その幹細胞を注入しているのである。
17ヶ月前、その細胞はテッドの足を制御する下部脊髄に注入された。
「今、この病気は良くならない病気だ。したがって自発的に回復した患者は見たことがない。(勝手に)よくなる事は無いのだ。」と、Emory病院の神経科医であるDr. Jonathan Glassは言った。
しかし、テッドは良くなった。すぐに彼は彼のMcDonough近隣を杖無しで歩けるようになった。
15人の測定可能なまでに病状が回復した患者のうちの一人だ。
「何が起こったかを見た後で、どうすればこれを信用しない事ができるのか?
つまり、これが安全性確認のための治験である事は理解しているが、それでも私が目撃した結果は、無視も否定もできないものだ。」とハラダは話した。
Glassは「説明するのが難しい。(つまり)これは予想外だった。しかし、すばらしい事だ。」と話した。
しかし、最近また体が弱くなり始めたため、テッドはもう一度手術するために戻ってきた。
Glassは「私はリスクの説明を彼にしたし、彼はリスクについて理解している。リスクは大きい。」と話す。
テッドは「しかし、私の一部が『一度効果があっただろう、何故2度効果がないと言えるのだ』と言ってるんだよ」と話す。
テッドの2度目の手術の前にGlassは幹細胞がまだ生きているか確認した。
手術を行うためには最低でも70%の幹細胞が生存している必要がある。テッドのケースでは86.3%が生存していた。
今回で神経外科医のNick BoulisにとってEmoryでの18回目の幹細胞移植である。
「我々は頚部の脊髄に5回の注射を行う」とBolisは言った。
EmoryとMichigan大学は頚部に焦点を絞っている。なぜならそこの神経は呼吸を制御しているからだ。
「だから患者は亡くなるのだ。ALS患者が亡くなるのは呼吸ができなくなるからだ。」とGlassは話す。
細胞はテッドの脊髄の2cm区分に注入された。この治験の唯一の目標はこの手術と細胞が安全である事であって、効果を確認する事ではない。
しかし、研究室の調査は幹細胞が損傷を受け、または死につつある脊髄神経の修復を手助けするかもしれない事を示唆している。
6時間近く手術室に居たあと外科治療は完了した。5日後、テッドは「私は大丈夫だ」と話した。
現在Emory/Michiganチームはすべての安全性データをFDAをに持込み、およそ1年間に渡る次の治験への許可を申請している。
原文
http://www.myfoxatlanta.com/story/19388052/henry-county-man-undergoes-experimental-als-stem-cell-surgery
オリゴデンドロサイトとは、
http://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%B4%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AD%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%88
岡山大大学院医歯薬学総合研究科の竹居孝二教授(生化学)と山田浩司准教授(同)らは、神経細胞が回路網を形成するメカニズムの一端を解明。
特殊なタンパク複合体がリング状などに変形しながら、細胞骨格となる分子・アクチン線維を束ねるなどして回路を伸ばしていた。
脊髄損傷患者の神経回路再生など新たな治療法につながる成果という。
ヒトが筋肉を動かしたり、学習や感情といった機能発揮に不可欠な神経回路は全身に張り巡らされている。
形成過程では神経細胞が細長い突起を伸ばし、筋肉細胞などとシナプス(接合部)でつながる。
突起先端部(成長円錐えんすい)はアメーバ状で、内部では細胞骨格となる無数のアクチンが集合して線維を形成。
その線維の集まりが伸びるが、どの分子がそれを制御しているかは不明だった。
グループは、神経の情報伝達を円滑に行うためにシナプスに存在する「ダイナミン1」と、アクチン集合を促進する「コルタクチン」という二つのタンパク質に着目。
アクチンを含めた3種類を作り、試験管内で反応させて電子顕微鏡で観察した結果、
タンパク質同士が結合して複合体になり、リング状や直線状に変形しながら、十数本のアクチン線維を束ねていた。
一方、特殊な薬剤でダイナミン1の機能を阻害した結果、アクチン線維が短く、成長円錐が小さくなったという。
グループはダイナミン1がアクチン線維を集合させ、神経細胞の伸長を制御していると結論付けた。
成果は米神経科学誌に掲載された。
竹居教授は「アクチン線維はがん細胞にも多く存在する。
ダイナミンの研究などを進め、がん転移の仕組み解明や転移阻害薬の開発にもつなげたい」としている。
岡山大学プレスリリース
http://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id15.html
詳しくは、横浜大学プレスリリース
http://www.yokohama-cu.ac.jp/univ/pr/press/130220_a.html
臓器や組織の置換を目指した再生医療研究では、人工的な3次元細胞組織を構築する技術の開発が求められています。これまでに、皮膚や軟骨、心筋、網膜など構造が比較的単純な細胞組織は人工的に作られ、一部は移植医療の現場で使われてきましたが、肝臓や膵臓のように多様な細胞が複雑な構造を形成している臓器を人工的に構築することは難しく、再生医療の実現に向けた究極的な目標の1つとなっています。このような臓器では、血管や神経を含む様々な種類の細胞が、数10~数100マイクロメートルのオーダーで3次元的に微細配置されたセンチメートルサイズの構造を形成しており、体液の循環を利用して必要な生体分子の分泌やろ過などの複雑な機能を発揮しています。
このような機能を果たす人工組織を構築するためには、細胞を生きた状態のまま数10~数100マイクロメートルの精度で配置して、センチメートルサイズの大きさまで集積することが必要ですが、今の段階ではそのような技術は存在しないのが現状です。今回研究グループは、様々な種類の細胞を直径およそ100マイクロメートル、長さ数メートルのファイバー状の組織に成形する方法と、そのファイバー形状の細胞組織をあたかも「ひも」のように扱い、3次元的に織ったり巻いたり束ねたりして組み上げることで、細胞の機能を維持した状態でセンチメートルサイズの3次元的な細胞組織を構築する方法を開発しました。また実際に、膵島細胞のファイバーを糖尿病疾患モデルマウスに移植することで、マウスの血糖値を正常化させることに成功し、ファイバー状の細胞組織は体内でも機能を発揮し、実際の移植にも応用できる可能性を示しました。
生体内には特に血管や神経、筋肉など繊維状の組織が多く含まれるので、今回の成果は様々な組織の構造を人工的に構築するための基盤技術として幅広い応用が期待できます。さらに、ES細胞注1)やiPS細胞注2)、MSC細胞注3)などに代表される多分化能を持つ幹細胞も、ファイバー状にしてから移植することで生着率が高まることが期待でき、糖尿病や神経損傷などの治療をはじめとした医療応用に幅広い貢献ができると考えられます。
本成果は、英国科学雑誌「NATURE MATERIALS」のオンライン版で2013年3月31日(英国時間)に公開されます。
東京大学プレスリリース
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20130401/index.html